第456話 プライベート2


 ラッティーの友達が翌々週屋敷にやってくる。保護者の承諾はおそらく取れるだろうと思うので、前日のお風呂から夕食。その後、ラッティーと一緒に夜更かしするのだろう。


 お客さまの四人には客室があるのでそこで泊まらせても良いが、夜更かしするなら、ラッティーも一緒の部屋がいいだろう。その時になったら、客室の一部屋にベッドを五つ並べておいてやれば夜更かしも楽しいだろう。


 俺の方は心の準備さえできてしまえば、それまでなので、準備はもうできてしまった。


「マスター、それならもったいぶらずに最初からいつここに遊びに来てもいいと言えばよかったですね」


 アスカの言うことはもっともなのだが、そんなものは本当に起こってみなければ、俺がその状況でどう反応するのかわからないじゃないか。今回はたまたま大したことはなかったからいいようなものの、これが思った以上に大変だったら困ってしまっただろう。


「そういうことにしておきましょう」


「そういうことだよ。それで、明後日あさっての市内観光はどの辺りをメインにするんだ?」


「まずは、港にまわって海を眺めてみようかと思ってます。その後は、順番は前後するかもしれませんが、シャーリーたちの通っている付属校と王立セントラル大学の構内を見て回って、自分たちが目指す場所を教えるつもりです。時間があれば王立図書館にもいってみましょう」


「部外者が学校の敷地に勝手に入って大丈夫なのかな?」


「確認はしていませんが、伯爵と子爵が引率していく以上邪険にはされないと思います」


「実際俺たちは伯爵と子爵だけれど、それを証明するものを何も持っていないだけど、どうするんだ?」


「そこは、先日武術大会に出て優勝したマスターの顔で何とかなるはずです」


「そうかなー? 試すくらいならべつにいいけどな。

 そうだ。どのみち途中で『ナイツオブダイヤモンド』の前を通ればいいから、そこで休憩してお茶でも飲んでいけば子どもたちも嬉しいだろう」


「この屋敷も子どもたちから見ればかなり立派にみえるでしょうが『ナイツオブダイヤモンド』は何といっても豪華ですから、子どもたちにとっていい経験になるでしょう。あそこでは、フォーマルな雰囲気に慣れるためにも、お茶というより昼食をとりましょう」


「そうだな。将来はアトレアのおえらいさんになる可能性があるんだったら、ちょっと豪華な場所での食事にも慣れていた方がいいよな」


「そうですね。今回は昼食ですが、そのうち屋敷でもちゃんとした会食のマナーを教えた方がいいでしょう」


「俺から言わせれば、会食相手が不快に思わない程度で十分だがな」


「マスターは伯爵である以上に、錬金術にかけては大陸での第一人者として認識されていますから、ある程度の無作法は許されます。しかし、今度の六人のうちラッティーにつけてアトレアに送り出す数人は、もっとも底辺の新人状態から一歩一歩キャリアを積んでいくわけです。いかに権力者にちかしいといっても、無作法はキャリア上の致命傷、ひいてはラッティーの傷になりかねません」


「官僚になるとそこまで厳しいのか。それはそうとアスカは官僚に詳しいな」


「私が生れた当時、それなりに見聞きしていました」


「ふーん。そうなんだ。六人にはそういったことも教えておいた方が間違いがないよな」


「うちに残る者については官僚生活をするわけではないでしょうが、官僚とも付き合う訳でしょうから、隔てなく、こういった教育は施していた方がよいでしょう」


「アスカの言う通りだな」



 そんな話をアスカとしたあと、今日はマーサの授業が終わらないうちから早めに風呂に入ったのだが、先に女風呂に誰か二人入っていた。


 声からすると、シャーリーとラッティーの二人だ。話している内容は、ラッティーの声は良く聞こえてくるのだが、シャーリーの声ははっきりとは聞こえない。


「ショウタさんには話してないよ。ほんとにほんと」


「恥ずかしいから、……」


「絶対、シャーリー姉さんが学校でラブレターをもらったなんて、誰にも話さないよ」


「ラッティーちゃん、どうしてそうなるの? ……」


 えっ! シャーリーがラブレター! うーんなんか複雑な気持ちになるな。しかし、ラッティーは妙に口が軽い。誰かが隣の風呂に入って来たことは分かるだろうに。この時間、男風呂に入っているのは俺しかいないのにな。


 これは、おめでとうと言ってやるのがいいのか? でも本人の気持ちにそわない相手だったら、いい迷惑だよな。そもそも本人から相談されてもいないし、知らないふり一択しかないか。


 この国では二十歳前で結婚するのも珍しくないらしいから、そういった人は少なくともその前から付き合っているんだろうし、こういった話もシャーリーくらいの齢から当然起きてくるわけだ。


 ただ俺はシャーリーの保護者なので、シャーリーの相手に対して何か言う権利はあるはずだ。シャーリーを幸せにできそうな人物かどうか俺が相手を見定めたうえで、納得できる人物なら交際を認めてやろうじゃないか。


 俺が考える、シャーリーの相手の男の条件としては、


 まず、シャーリーよりも年上なことだな。といって、俺よりも年上は困る。


 次に年収は俺くらいとまではいかないかもしれないが、せめて男爵位だんしゃくいの年金なみは欲しい。


 さらに言えば、シャーリーより背が高くなければ良くない。


 ただ、俺より背が高いようでは俺が見上げることになるので、認めるわけにはいかない。



 それに、予定があるわけではないが俺に子供ができるまでは、シャーリーがコダマ伯爵家の筆頭相続人だから、変な相手と結婚してほしくはない。そうなると、さらに条件を厳しくせざるを得ない。


 考えれば考えるほど、シャーリーが他所よその男と付き合うのは問題があるような気がし始めた。


 だからと言って、そんな男・・・・と付き合うな! とかシャーリーに直接言うことができるのかと言えば、『できない』の一言だ。そもそも、いまのところ『そんな男』がどんな男なのかもわからないしな。


 ということで、アスカ依存症の俺は、アスカに夕食時でははばかられるので、その後にでも相談することにした。




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