第455話 プライベート


 やる気スイッチの入ったベルガーさんたちをおいて、教室にしている広い方の応接から出た俺は、屋敷の中を回って魔素貯留器に魔素を補充して回ることにした。結構な数の魔道具が家中にあるので気づいたときにはこうして屋敷の中を巡回している。


 こうやって単純作業をしながら、さて明日、明後日は何をしようとか考えていた。


 時間があれば、もしもの時のためにまた何個か『エリクシール』をアスカと一緒に作っても良いし、それなりに何かやることはあるだろう。


 魔素の充填も終わり、次はアスカと一緒になってブラッキーとホワイティーと遊んでいたら、学校の終わったシャーリーとラッティーを乗せた馬車が戻ってきた。


 二人は着替えに部屋に戻ったようで、しばらくして、ラッティーだけが俺たちのいる北の大木にやってきた。


 ブラッキーとホワイティーは最近かなり高く空を飛んでいるので、周りからも良く見えるのだが、うちで飼っているペットであることは王都中で知らぬものもいないようだし、うちの敷地の上空からはみ出さないようにして注意して飛んでくれているので、特に騒ぎになるようなこともない。


 二羽は今も屋敷の上空を二百メートルほどの高さでゆっくりと旋回している。


「ブラッキーとホワイティーだけど、ほんとにすごいね」


「まだ一歳にもならないのにあんなに大きくなったけど、大人になれば背丈は今の倍くらいにはなるからな。重さでいうと十倍くらいになるんじゃないか?」


「やっぱり、毎日ドラゴンの肉を食べさせているから成長も速いのかな?」


「そうかもしれないけれど、ドラゴンの肉はたくさんあるからな。それで、元気に大きくなるなら越したことはないだろ。そのうちドラゴンより強くなるかもしれないしな」


「今の二羽のおうちは大きいけれど、そのうち小さくなるかもね」


「そうだな。この二羽がおとなになったら、どこまでも広い空を飛び回りたいだろうから、自然に返さなければいけないかもしれないけれど、二羽の希望次第だな」


「いなくなると寂しいね」


「まあな。でも本当にいなくなるわけじゃないから、会いに行く気になれば行けると思うぞ」


「マーサさんに聞いたけれど、もうマーサさんの国ではマーサさんの知っている人もマーサさんを知ってる人も生きていないんでしょ。意味がよくは分からないけれど、マーサさんだけ旅をしている間に時間に取り残されたって」


「そうだな。マーサは知った人間が一人もいなくなっていたとしても、国に戻る気になれば戻ることができる」


「ショウタさんも遠い国からこの国に来たって言ってたけど、ショウタさんは国には帰らなくていいの?」


「一度くらいは帰りたいけれど、帰れないんだ」


「『スカイ・レイ』に乗っても帰れないの?」


「まあな。それに、ここに居ればラッティーもいるしみんなもいる。どうしても国に帰りたいわけじゃない。ただ、両親には俺がここで幸せに暮らしてしていることは伝えたいけど、それも今のところはできないんだ」


「ショウタさんとアスカさんにもできないことがあるんだ」


「できないことだらけだよ」


「そうなんだ」


「ラッティー、マスターだってラッティーたちと同じ一人の人間だ。そんなに差があるわけじゃない。世の中にははたから見ると特別に見える人間が結構いるが、実はそんなに普通の人間と比べて何が違っているわけでもないんだ。ただ、人より努力した。人より運が良かった。それだけだ。とはいえ本当に特別な人間がいないわけじゃない」


「そうだよね」


「マスターは本当に特別な人間だと思う」


「私も」


 なんだか、二人にそう言われると、そんな気にもなってきた。


 いやいや。俺なんかは運がいいという意味では特別かもしれないがそれだけだ。そこのところを勘違いしないようにしないといけない。


「ところで、シャーリーは出てこないけれど、どうしたのかな?」


「これは言っていいのかなー?」


「なんだよ。隠し事は良くないが、シャーリーのプライベートに関することなら言わなくても良いぞ」


「でも、本人がわたしに話したってことは、少なくともショウタさんたちには話していいんじゃないかな?」


「ようはラッティーは俺たちに話したいんだな?」


「えへへ、そうかも。聞きたい?」


「それで、その話は実際のところシャーリーのプライベートな話なんだろ?」


「そう」


「それじゃあ聞くのはやめておく」


「えーー! つまらなーい」


「ラッティーもそういった話が大好きなんだな。それよりラッティーにはおもしろい話はないのか?」


「そうそう、忘れてた。次の次の学校が休みの日に、お友達がここに遊びにきたいって言ってるんだけどいいかな?」


「そのくらい先なら全然大丈夫だ。何人くらいの予定だ?」


「大勢うちに来たいって子がいたんだけど、そんなに大勢だと大変だから、四人に絞っちゃった」


「ふーん。別に多くても問題ないけれど、四人くらいがちょうどいいかな。四人だったら、うちの馬車に乗れるから、保護者の承諾があれば、前の日に学校から直接うちの馬車にラッティーたちと一緒に乗ってきて、うちでお泊りしてもらっても良いぞ。次の日の昼過ぎにでも迎えを寄こしてもらえればいいから。

 アスカ、学校の休みの日は、六人の授業は休みなんだろ?」


「あの子たちが希望すれば授業をしても良いですが、いちおう休ませてやるつもりです。今までは自由に街を出歩けなかったでしょうから、いい機会ですので散歩を兼ねて街の中を巡ろうかと思っています」


「それはなかなかいい考えだな。俺もついていっていいんだろ?」


「えー、わたしも一緒に行っていいんでしょ?」


「次の休みの日だからラッティーもついて来ればいいじゃないか」


「ありがとう。シャーリー姉さんは?」


「行きたいなら、もちろん問題ない」


「それなら、いまから教えてくる。それじゃあ」


 ラッティーがそう言って駆けていった。あのくらいの子は実に身が軽い。




 その日夕食時には、食事の前に、みんなに向かって、翌週から屋敷の工事の人が入ってくるので、工事中の個所には近づかない。工事の人の指示には従うようにみんなに注意をしておいた。


 明後日の休みの日の子どもたち六人の市内観光に、シャーリーはもちろん一緒に行くと言っていた。その時なんだか、シャーリーの顔が赤くなっていて、熱でもあるのかと思って聞いてみたが大丈夫だと言っていた。万能薬はいくらでもあるので、早めに飲んだ方がいいと言っておいたのだが、ちゃんと飲んだのか飲まなかったのかは聞いていない。


 風邪ぐらいで万能薬を飲ませるのもやりすぎなような気もするが、風邪は万病のもととかいうし、風邪でも結構つらい思いをするので遠慮しないでほしい。



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