第454話 やる気スイッチ
[まえがき]
2021年3月22日、350万PV達成しました。ありがとうございます。
◇◇◇◇◇◇◇
昼食をとって一休みしたら、六人は午後の授業だ。
午後からの授業は、今の段階ではマーサからベルガーさんへの授業を中心にして進めていってもらうように言っているので、生徒たちはただ見物しているだけになるが、科学に興味を持ってくれればそれでいい。
食事中アスカに、六人の午前中の学力検査の結果をマーサと一緒に聞いた。
「六人とも読み書きは問題ありません。計算については四則は問題はありません。また小数、分数も理解しています。式についてははっきりとは理解していないようでした。これまでそういった勉強をしていなかったのなら仕方がないでしょう」
「それで、結論としては?」
「あまり無理しなくとも、普通に受験勉強を続ければ全員、来年付属校に入学できると思います。また、受験には必要ありませんが、マーサの授業で、方程式やそれ以上の数学的な考え方を学ぶ基礎はできています」
「ほう。六人はハットンさんが選んだだけあって、やっぱりすごい連中なんだな」
「そうですね」
「年が明けるころには俺も追い抜かれていそうだ。『俺もうかうかしていられないな』とか思えば俺も進歩するんだろうが、そういうふうには思えないのが俺の悪いところだな」
「マスターは中心となって周りの人間に
「そう言ってくれて嬉しいよ」
「その代り、体は鍛えていて損はありませんから、時間があれば私と訓練しましょう」
いつもそれだな。
午後一時少し前にベルガーさんが屋敷にやって来たので、六人を紹介しておいた。子どもたちと一緒に授業を受けるのは多少抵抗があるかもしれないが、いちおう主体はベルガーさんで授業を進めていく予定なので、問題はないだろう。
この六人がものになるには、早くても十年はかかる。そのころには俺もいい大人になっているわけで、ある意味先の長い話ではあるが、これこそまさに投資と思えば、俺にとっても、大きな意味のあることだ。
「あら、この子たちが、お話に出ていた子どもたちですね。みんなかわいい。一緒にマーサさんについて勉強していきましょうね」
「はい!」
子どもたちと一緒の授業に抵抗があるかもなどと考えていたが、全く問題はないようで良かった。
「みんな、女の子ってところが、ショウタさんですね」
一言余計なことを言われてしまったが、言った本人も冗談のつまりだったのだろう。そうに違いない。たぶん。
そんなこんなで、すぐにみんなで教室に入って、授業が始まった。
教室の一番前で、マーサが屋敷の外観をディスプレイに映していた。その画像がやはり、六人には絵に見えたようで、
「すごい。こんなに小さなところまで描き込まれた、まるで実物のような絵なんて初めて見た」
「ほんとスゴイ。今日は絵の勉強?」
そのうち、その絵の中の屋敷が小さくなっていき、南の草原が映った。
「絵が勝手に動いた!」
「どうなっているの?」
「すごい!」
それが、『スカイ・レイ』から見た王都の景観に切り替わり、それが海を渡って例の小島に。
ここら辺からは、つぶやき声で『すごい』の連発だった。ベルガーさんも六人に混ざって凄い凄いと言っていた。ベルガーさんもこういった映像は初めてだったようだ。
小島の真ん中の広場に、後ろを向いて立っている俺とアスカが映っていた。そしてその先にいきなりソルネ4が現れた。前回ディスプレイと教科書用のデータを取りに行った時にマーサが写したのだろう。
後ろ姿であれ、こういう形で自分の姿を客観的に見るとすこし恥ずかしい感じがしてしまう。
「これが私が乗ってきた船、ソルネ4です」
「これが船?」とベルガーさん。
生徒たちはもはやついていけないようであまりピンと来ていないようだ。
「空の上、ずっと上まで行くと、その先に無限ともいえる空間が広がっていてその空間を宇宙と呼んでいます。ソルネ4はその宇宙を旅するための船です。宇宙を旅する船なので宇宙船と呼んでいます。その宇宙には無数の星が浮かんでいます。そしてその中の一つの星の周りに私の住んでいた世界がありました。そして私はその世界からソルネ4に乗ってこの大地にやってきました」
「星の世界。宇宙船。……」
エルザが、もごもご口の中でつぶやいていた。良く聞くと『星の世界』、『星の世界』、‥‥…、とお経のように繰り返していた。
「そうです。宇宙船。科学の
「ああ、こういった物まで科学を極めると作れるようになるのですね?」と、ベルガーさん。
「科学の進歩とともに産業が発達し、その中でこういった物が生れてきます。
今のマーサの話を聞いて某アニメの目の中に炎が燃え上がっているような感じで、ベルガーさんのやる気が一気に上がったようだ。
そもそも大型の船さえも見たことがないかもしれないうちの六人は、ソルネ4のあまりの大きさに目を丸くしていた。あれが空の彼方まで飛んでいくのだとは到底想像できないのだろう。従って、船というより俺の収納の方に興味が移ったようだ。
『アレをショウタさんが収納していたの?』
『そうとしか思えないよね』
『私たちの荷物を収納にいれて全部運んでもらった時、うわさ通り凄いって思ってたけれど、そんなものじゃなかった』
『大陸一の錬金術師、前回の武術大会優勝者、伯爵、そしてこの収納』
『あたしたちこんなすごい人のところに買われたけれど大丈夫かな?』
『大丈夫なようにがんばろ』
『そうよね。がんばろ』
彼女たちの理解できる範囲で、宇宙船という言葉は『大きなもの』という認識になったようだ。何だかよくわからないが授業に出ているみんなにやる気スイッチが入ったようで良かった良かった。
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