第453話 新人たち3


 六人がやってきた翌朝。


 孤児奴隷たちは、まずは、朝の体操。


 玄関前に並んだ俺たちの後ろに並んで、見よう見まねで体を動かしていた。まだ子どもなのでみんな体は柔らかい。


 その後のランニングはさすがにきつかったようだ。最初の一周は道に慣れさせるためにゆっくり走りその後は各人のペースで走ったが、俺とアスカは六人の後から歩くような速さでついていった。これも、一月もすればいい線走れるようになるだろう。


 ランニングの後は、俺とアスカで、ブラッキーとホワイティーの世話をする。六人もついて来て俺たちの作業を少し離れたところから眺めていた。二羽のグリフォンに慣れるのもまだ先のようだ。


 その後は朝食。


 運動してからの朝食のため、みんなは元気によく食べるのだが六人はまだ胃が小さいためかそんなには食べられないようだ。成長期のはずなので、そのうちちゃんと食事ができるようになっていくだろう。


 なぜかラッティーが、六人が並んでいるテーブルの隣に座って食事をしている。知らぬ間にお姉さんモードになっているらしい。年齢的には一番の年長のエルザと同じ、体格的には一番小さいラッティーがいろいろ知ったかぶったことを話しながら、最後に『でしょ?』をつけている。六人もラッティーの布教に付き合わされる羽目になるんだろうな。


 ラッティーは頭がいいだけでなく相当かしこいので、将来自分の手足になる可能性がある子供たちなので今から品定めをしているかもしれない。


 今日は九時からフォレスタルさんが屋敷の増改築のためにやってくるので、その話し合いが終わり次第授業を始めることにしている。


 九時五分前にフォレスタルさんが屋敷にやってきたので、応接に通し、俺とアスカで具体的な増改築案を聞いた。


 一階では、使っていない小食堂を潰しその分食堂を広げる。


 今ある屋根裏部屋は三階として普通の壁付の四人部屋を六個を並べ、その上に屋根を新たに作る。これで二十四人分の部屋ができる。


 増築については、今ある厩舎などの関係で北側が窮屈になるので母屋を南北に伸ばすのではなく、母屋の西側に二階建ての離れはなれを建てることになった。離れには教室に使える広めの部屋が二つと、物置とトイレなどが設置される。母屋おもやからは渡り廊下で繋がる形だ。


 先に離れを完成させることで、食堂の改装工事の時の臨時の食堂代わりと屋根裏部屋の改装工事の時の六人の部屋にするそうだ。


 いつものように見積書もできあがっており、アスカが問題ないことを確認したので、週明けから工事が始まることになった。フォレスタルさんは例のごとくすぐに帰って行ったので九時半には六人に対する初めての授業を始めることができた。



 六人は、朝食の後、授業まで時間が空いていたので、今日もソフィアについて、屋敷の中の拭き掃除の必要な場所を教えてもらっていた。勤勉とはこのようなことを指すのかもしれないと思ってしまった。



「アスカ、初日はどういったことを教えていくんだい?」


「今日は一応、読み書き、計算の実力を見るつもりです。十分だと判断したら、あしたからラッティーに施したような受験勉強を始めますが、付属校も何校もありますので、まず志望校を決めさせて、その学校に適したカリキュラムを実施するつもりです」


「文官養成だけでなく、技術系とか軍関係とかいろいろあったものな」


「なるべく早めに志望校を決めさせたいところですが、どこを目指すにせよ一般教養問題は差はないでしょうから、始めのうちはその部分を共通で教えます。本人たちにはじっくり考えてもらわなければなりませんので、各付属校の特色などの情報は早めに与えるつもりです。そろそろ時間ですので、『教室おうせつ』の方に行きましょう。わたしの方の準備は終わっています」


 俺は保護者代表なので、『教室おうせつ』の後ろの方で生徒たちが集まるのを待っていることにした。掃除を終わって、手を洗った生徒たちがすぐに集まったので、いちおう、主催者側の挨拶あいさつをしておいた。


「話ではすでにみんなから聞いていると思うが、ラッティーの本当の名まえはリリム・アトレアと言って、南方のハーフエルフの国、アトレア王国の王女殿下で、将来王位に就くことが決まっている。みんなを引き取ったのは、将来的に王立セントラル大学で学んでもらい、ラッティーの右腕になってアトレアの発展のために尽力してもらいたいためだ。まあ、全員が全員ラッティーについていくことはないだろうが、いちおうそのつもりでいてくれ。今日から王立大学に入るための最初の関門である付属校への受験勉強を午前中アスカが、午後からはマーサがそれとは別にこの国では習わないようなことを教えてくれるはずだ。きっと、みんなも興味を持つと思う」


 俺の前置きで少しでもやる気が上がるようなら儲けものだからな。


 続いてアスカが生徒たちに、


「そういうことなので、頑張ってくれ。それと、王立セントラル大学には文官養成部、騎士養成部、魔法・魔術部、技術部の四部があり、それぞれに付属校がある。各校の詳しい内容については追々おいおいみんなに教えていくので、今年中くらいには自分の行きたい付属校を決めてくれ。決まれば私の方でそれに即した授業内容に切り替える必要があるからな。

 とりあえず、今日はみんなの実力がどの辺りにあるのかを確認して、今後の授業の参考にする」


 後ろから見ても、六人が緊張しているのがよくわかる。今の段階で、みんなに付属校の入試で失敗しても仕事はちゃんとあるから心配しなくていいんだとは言っていない。ちょっとかわいそうだが、緊張感を持って一年弱辛抱して勉強に励んでもらいたい。


 あとはアスカに任せて、俺は『教室おうせつ』を出たのだが、ちょうど俺と入れ替わりにマーサが中に入って行った。いちおう午後から授業を受け持つので、生徒たちの様子を確認したかったのだろう。



 アスカのことだから、メモを取る必要もないだろうし、ラッティーの使っていた問題集も暗記しているのだろうから、いつでも授業を好きなところから始められて便利だよな。しかし俺にあの才能が有ったとして活かしきれるかというとまず無理だ。


 あまり役に立たない半人前の俺をアスカがいつもサポートしてくれるから、俺が見た目一人前に見られるわけだ。



 結局最初の授業は、昼食直前まで続けられた。


教室おうせつ』を出てきた生徒たちはそれなりに疲れた顔をしていたが、そこは仕方がない。


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