第452話 新人たち2


 洋品店で買い物を終え、いつものように荷物は俺が収納し、いつものように子どもたちは驚いた。


 こうなってくると慣れたもので、俺も笑っているだけだ。シャーリーを買った時は俺も若かったせいか、ご主人さまと呼ばせていたが、俺のような若造がご主人さまではあまりのも不釣り合いなので『ショウタさん』と呼ばせることにした。アスカは『アスカさん』だ。この子たちには最初からその呼び方にしてもらう方が無難だ。


 次に衣料品店に行って、子どもたち各人の体に合ったものを選んで一人あたり数着買ったようだ。まだ子どもなので、すぐに大きくなって体に合わなくなってしまうため、大き目の服を着せた方が経済的なのだろうが、ダブダブの衣服はどこかに引っかかったりするとかなり危険なのでなるべく体に合ったものを着せてやりたい。


「よーし、みんな。このままうちにかえって昼食だ」


 初日にカレーで度肝を抜くのも面白いかと思ったが、今までそういった物を食べたことがなくて、環境が変わったところでいきなりそういった刺激物を食べて体調を崩してしまえば、いくらポーションが揃っていると言ってもかわいそうだ。ということなので今日の昼食は普段通りのものしてくれとゴーメイさんに頼んでおいた。その代り夕食はすこし豪勢にしてくれと頼んでおいた。


 六人を引き連れて屋敷に戻り先に屋敷の周りを案内してやった。


 一応俺のところは伯爵家だということはみんな知っていたらしく、屋敷そのものに驚く子はいなかったが、ブラッキーとホワイティーをみんなに紹介した時にはさすがに驚いていた。


『ブラッキーとホワイティー、新しい家族だから仲良くしてやってくれよ』


『わかったー』『はーい』


 今では二羽の大きさは子牛を越えているので、突進されるとびっくりするが俺とアスカなら受け止めることはできる。その代り俺とアスカ以外には突進しないように注意している。頭も良く、聞き分けの良い子たちなので、間違いは起こらないようだ。


「尻尾の先に黒いふさが付いているのがオスのブラッキー、頭の上に白い羽が二、三枚付いている方がメスのホワイティー。覚えやすいだろ?」


 二羽を少し遠くから眺める子どもたちに名前を教えてやった。うちに前からいた連中はひな鳥の時からこの二羽を知っているので全く怖がることはないのだが、この大きさのものを初めて見るとそれなりに怖いはずだが、それでもそのうち慣れるだろう。


 一通り屋敷の周りを案内した後、玄関に。玄関ホールには俺たちの帰りを待っていたのかハウゼンさんがいた。


「ほう、この子たちが新しい孤児奴隷の子たちですね。確かにみんな賢そうな顔をしている。私が当家の家令を務めますハウゼンです」


 やはりそういったしつけは行き届いているようで、六人が順番にハウゼンさんに挨拶あいさつをした。


「それでは、私がみんなに屋敷の中を案内します」


「それじゃあ、よろしく」


 ハウゼンさんが今度は引率者になってみんなを案内していった。


 フレデリカ姉さんジュニアのリリカが玄関ホールの中にある巨大置時計気になって仕方がなかったようでフラフラとそちらに歩いていきそうだったが、すぐにみんなと一緒にハウゼンさんの後についていった。


「俺はみんなの荷物を屋根裏部屋の方に置いて来る」


 二階に上がって、屋根裏部屋へのやや急な階段を上って荷物を取り出して並べておいてやった。部屋の中には、ベッドやタンスなどが一応八人分置いてある。屋根裏部屋と言っても広さは教室二つ分くらいはあるので、全体からするとかなり狭い範囲を使っているだけだ。余分なベッドとタンスは一応収納しておいた。


 このくらいなら部屋を増やす必要もなかったかもしれないが、屋根裏部屋だと当然天井が斜めなので平たい天井で慣れてしまっていると感覚が少し狂う。


 明り取りはかなり設けられてもいるし照明も数が揃っているので部屋の中は明るく保てるようでそれは良かった。


 俺が屋根裏部屋から二階に下りたところで、ハウゼンさんに連れられた六人が見学を終えたようでこっちにやってきた。


「屋敷の中の説明は終わりました」


「ハウゼンさん、ありがとう。あとはこちらで面倒を見ます」


「それでは失礼します」


 ハウゼンさんはそう言って自分の仕事に戻って行った。そうしたら、シローがやって来て子どもたち一人一人に体をこすりつけ始めた。シローには人見知りという言葉はないらしい。れっきとした犬型のモンスターなのだが番犬には全く向かないようだ。


 全員に臭いを付け終わったようでシローはそのまましっぽを揺らしながらまたどこかに行ってしまった。


「今のがシロー。スノーハスキーというモンスターの幼体なんだけど、テイムしているから人を襲うこともない。食べ物は基本的に食べないけれど、おやつとしてカラの魔石をやっている」


 今の説明を聞いて子どもたちはまた驚いていたようだ。


 まだ屋根裏部屋は見ていないだろうから、案内してやろう。


 屋根裏部屋への階段は急なので気をつけるように注意して、六人を屋根裏部屋に案内したところ、あまりの広さに驚いたようだ。


「人数分の寝具を用意しているから、六人で適当に場所を決めてくれ。昼になれば昼食に呼ばれるからそれまで荷物の整理でもしておいてくればいい。それじゃあな」


「はい」



 俺とアスカは昼食まで時間があるので、居間にまわって、そこで一休みしておくことにした。



 ほどなく、昼食時となったので、ソフィアに屋根裏部屋の六人を呼びにやらせた。


 やって来た六人には、新しく用意したテーブルに先に座らせておく。


 今日は、シャーリーとラッティーそれに四人娘のうち二人はいないので、今屋敷にいる連中が揃ったところで、


「さーて、いまここにいない者には申し訳ないが、みんなも知っての通り、新しく六人の子どもたちを屋敷に迎えた。自己紹介をこれからしてもらうが、みんな家族の一員だ。新しく妹ができたと思って可愛がってやってくれ。それじゃあエルザから自己紹介を頼む」


「はい」


 エルザが立ち上がってみんなの方を向き、


「エルザ、十一歳です。これから一生懸命勉強して、一生懸命お手伝いをしていきます。みなさん、よろしくお願いします」


 そういって、ペコリとお辞儀をして自己紹介は終わった。簡単だが、食事前なのでこのくらい簡単なほうがちょうどいい。詳しく六人のことが知りたいのなら、仲良くなって、プライベートで聞きたいことを聞いてくれればいい。


 それから順に五名、挨拶あいさつが終わったところで、


「いただきます」


『いただきます』はハウゼンさんが屋敷の中を紹介して回っているときにでも六人に教えたのだろう。新しい六人もちゃんと『いただきます』とみんなにそろって言うことができた。だいたいこういうものは最初だと一拍はどうしても遅れてしまうものだが、きれいにそろっていたようだ。やはり六人とも相当頭が良いのだろう。


 今日の昼食は、コンソメスープとドラゴンのヒレ肉をローストビーフ風に仕上げたローストドラゴンサンドで、他に玉子サンド、野菜サンドなどを取り揃えた皿が各人の前に置かれた。足らなければ追加はいくらでもよいということだった。


 それに、飲み物として、お茶とジュースと水がいつものように揃えられた昼食だった。


 普通の肉の入ったサンドは六人も食べたことは当然あるだろうが、ドラゴン肉を食べたことはないだろう。


 最初六人ともおいしいおいしいと言って食べていたのだが、どこからか『今日のドラゴン』とか『ドラゴンの肉はやっぱりヒレよね』とかの話し声が聞こえたらしく、最初は冗談のつもりで聞いていたらしいが、どうも本当らしいと気付いたようで、かなり驚いていた。


 食事が終わり、今日の午後からは新しい六人には何もすることがないので、適当に屋敷の中を見て回ってもらってもいいし、部屋に戻って休んでいても良いと伝えたのだが、六人とも気を使ったようで掃除担当のソフィアのもと屋敷の廊下などの掃除を始めた。よくできた子どもたちだ。


 夕方、シャーリーたちと今日仕事のあった四人娘の二人、それにお客さんというかマーサから科学を学んでいるベルガーさんもそろったところで、もう一度挨拶させて、夕食を始めた。もちろん新人たちは満足してくれたようだ。



 食事の後、お湯のお風呂に入るのが初めての子もいたので、例によってみんなでお風呂に入って六人の面倒を見てやろうとしたようだが、さすがに十五人近くが一度に入ると狭くなるので、年長者は遠慮したようだ。アスカは年長者の分類なのだが、食事前にマーサとベルガーさんと一緒に風呂には入っている。




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