第451話 新人たち
翌日、アスカと二人で、ハットン商会本店に
「おはようございます。ショウタさま、アスカさま。お待ちしておりました。ようやく六名見つけることができました、お眼鏡にかなうのではないでしょうか」
俺などがどうこう考える前に。ハットンさんの眼鏡にかなっているというだけで、よほどのことがなければ即決して間違いない。
いつもの部屋に通され、アスカと二人で待っていたら、すぐに店の人に連れられて、真新しい貫頭衣にサンダルを履いた六人の孤児奴隷が俺たちが待つ部屋に連れてこられた。
「あれ? みんな女子のようですが?」
「はい。どうしても、このくらいの年齢の男子ですと、学問よりも実業の方に興味があるようで今回は結果的に女子だけということになりました」
確かに
「分かりました。それじゃあ簡単に自己紹介をしてもらえますか」
「エルザから順番に、自己紹介を」
最初の少女が一歩前に出て、自己紹介を始めた。彼女はさらさらの金髪を肩口までまっすぐ伸ばしたた子でこの六人の中では一番背の高い子だった。
「エルザ、十一歳です。特技は読み書き、計算です。私のいた奴隷商会内では年長者も含めて私が一番計算は得意でした。
趣味は夜空の星を見ることでした。身寄りがなくなり孤児奴隷になって以来星空をゆっくり見上げることができなくなりましたが、ご主人さまに買っていただければちゃんとした勉強ができると聞きました。読み書き計算だけでなく、世界の仕組みのようなものも学んでいきたいと思っています」
「星を見て何か思うことはあったか?」
珍しくアスカが質問した。
「夜空の星は北にある、ある星の周りを一日で一回転していることが分かりました。どうしてすべての星がその星の周りをまわっているのか考えたのですが、実は私たちの立っているこの地面は大きな、本当に大きな球で、その球が軸の周りで一日に一回転しているのではと思い至りました。その軸の先が、北にある中心の星を指している。そう思っています」
「なるほど」
ちゃんとした学校に行っていたわけでもないのだろうが凄いな。この歳で地動説にたどり着いたのか。この子は天才かも知れないな。
「エルザについては良いですか? それでは、次はリリカかな」
「はい。リリカ、十歳です。特技は読み書き、計算です。趣味は道具の仕組みなんかを考えることです。最近開発された飛空艇や置時計を朝から晩まで眺めているのが夢です」
おっと、フレデリカ姉さんのような子がいた。この子は綺麗な金髪を短くまとめていた。うちにどっちもあるからな。ここらあたりは、ハットンさんの仕込みかもしれないが、仕込みを気にする必要は特にないだろう。
それから、順次自己紹介が続いた。
次は赤毛を三つ編みにした子。なんだか『赤毛のアン』っぽい感じがする。俺の想像の中のアンだけどな。
「ニナ、十一歳です。特技は読み書き、計算と目分量が得意です。趣味は特にはありません」
「目分量というのは、重さ?」
「重さは、手に持てばだいたいの重さが分かりますし、長さは見ればだいたいの長さが分かります」
確かにこれは特技だわ。
次も赤毛だけど、短くまとめた子。
「エステル、十歳です。特技は読み書き、計算です。好きなことは花を育てることです」
こちらは農業向きか。
そして、栗色の髪の毛を、長めにまっすぐ伸ばした子。
「ファニア、十歳です。特技は読み書き、計算です。好きなことは砂の上に絵を描いたり、粘土で動物を作ることです」
美術か。そういったものもいいよな。
最後に、栗色の髪の毛を、短くまとめた子。
「イニア、十歳です。特技は読み書き、計算です。好きなことは笛を吹くことです」
最後の子は音楽家向きなのか。芸術については、いままで考えたことはなかったが、新しい方向性ではあるな。
俺は技術官僚的な感じで育ってもらいたかったが、これはこれでいいような気がしてきた。芸術家の方がハードルが高そうだが、目指す気があるなら応援してやろう。
とはいえ、当面は付属校を目指してもらうつもりだ。
六人の自己紹介が終わった。俺とすれば当然全員引き取るつもりだが、一応アスカの顔を見たら、頷いたので、その場で、
「ハットンさん、そういうことですので、全員引き取らせていただきます」
「ショウタさま、アスカさまに、そう言っていただけると信じていました。
それじゃあ、六人は支度をして下さい
お二人には孤児奴隷の説明等は省略させていただきます。値段の方は、まだコストがかかっていませんので、六人の中で増減はありますが、平均して
その場で現金で支払いを済ませ、契約書にサインをして、六人はうちの新しいメンバーになった。
しばらく待っていたら、小さな荷物を持って六人が戻ってきたので、彼女たちを引き連れて、ハットン商会本店を後にした。
まず最初はみんなの衣類の購入だ。今のところ出来合いの物を買う必要があるので、下着以外は古着になる。その辺りは、一般家庭では普通のことなので誰も気にしないと思う。
「まずは日用品と着替えの服だな。いつもの女性用用品店だな」
「はい」
十歳、十一歳ということは、小学校の四、五年生くらいか。それが、十七、八のお兄さん、お姉さんに連れらて街を歩いているものだから、よく目立つ。特徴ある貫頭衣の子どもたちを見れば孤児奴隷だということは分かるので、そんな子どもを六人も連れている俺とアスカを道行く人たちが感心したような顔で眺めていた。そのうち俺が誰だかわかったようで、後ろを歩く中年夫婦の話し声が聞こえてきた。
『あの若さで武術大会で優勝するだけでなく、孤児奴隷をあんなにたくさん面倒見るなんて、さすがね』
『なんたって、大陸随一の錬金術師さま、武術も最高。しかも最近、王宮のお役人さまにもなったそうだぜ』
『うちの子もあやかりたいわね』
『そのためには、俺とお前、それに親戚一同おっちんで、うちの子が孤児にならなけりゃあやかられないぜ』
『それは絶対嫌だけど、身寄りがなく孤児奴隷になった時はあの子たちもつらかったでしょうが、こうやっていい人に買ってもらってほんとに良かったわね』
『それはそうだ。そういえば、去年買った孤児奴隷はもう認められて解放されたってよ』
『ちゃんと面倒見るのは当然かもしれないけれど、それはそれでよく面倒を見たってことでしょ?』
『手に職を持たせて、一人前になったと奴隷商が認めたってことだから凄いよな。……』
今の会話は、子どもたちにも聞こえていたろうが、まだまだ、この子たちは小さいので、解放まで行くには少なくともあと三年はかかるだろう。芸術を目指すならもっとかかる可能性が高い。
用品店に着いたところで、
「それじゃあ、俺はいつものように外で待っているから。アスカ、お金の方は大丈夫なのか?」
「大丈夫です」
そう言ってアスカは六人を引き連れて店に入って行った。
本人が大丈夫というのだから大丈夫なのだろう。足りなくなれば言ってくるだろうから問題なし。
今日は、新たに六人の孤児奴隷を引き連れて屋敷に帰って、その子たちとみんなとで一緒に昼食をとると言ってきている。
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