第447話 出仕二回目


 ペラとアスカの二人と摸擬戦だか練習試合をしてしまった。実力的にはペラの方が俺なんかより数段上なのだろうが、装備した武器の優劣で判定勝ちのような勝ち方をしてしまった。アスカとの対戦は、いつもとあまり変わりはなかったが、それでもアスカが数パーセントは本気を出したとか言っていたので、俺もある程度は進歩しているようで良かった良かった。



 翌日、二回目の王宮への出仕。


 王宮からの迎えの馬車に乗ってアスカと二人で王宮に出仕した。王宮内に自分の執務室があるというのも何だかカッコいい。俺とアスカの共用の部屋なのだが、部屋の奥に俺の大きな机、入り口わきにアスカのやや小さな机がある。自称俺の秘書のアスカにとってちょうどいい位置取りなのかもしれない。机の他に本棚、キャビネット、来客用の応接セット


 先週は一日かけて王宮内の顔見世のあいさつ回りをしたのだが、今日もまだあいさつ回りをするのだろうかと思っていたら、先週俺たちに付き添ってくれたリーシュ宰相の秘書さんがやって来て、俺の机の上に資料と一冊の本を置いていった。


「その資料は、アデレート王国の王宮組織を図にしたものです。各組織が分掌している内容については本にじてある資料集をご覧ください。先にこちらを覚えていただいた後あいさつ回りをした方が良かったのでしょうが、先週までに資料を揃えることができませんでしたので申し訳ありません」


 秘書の人が俺たちのためにこの資料と本に綴じられた資料集を作ったのだろうか? ご苦労さまです。


 そこまで労力をかけたものならこちらも真面目まじめに読ましていただかなくてはいけない。


「今日の昼食も、リリアナ殿下とご一緒していただきますのでよろしくお願いします。時間になれば迎えの者がご案内に参ります」


 そう言って秘書の人は今日は自分の仕事があるらしく、部屋を出ていった。


 俺は自分の秘書のアスカに、綴じられた資料集を渡し、


「アスカ、読んどいてくれる?」


「はい、マスター」


 これで、俺は組織図だけを覚えればいいわけだ。詳しい内容はアスカに頼ればいいだけなので、この資料に関しては、口頭でググル以上に速い検索が可能だ。


 組織図1


 国王

  宰相

   政務官(俺)

   各大臣

    各官僚


 国王の下に宰相。宰相の下に、政務官と各大臣が並列に並んでいる。各大臣の下に専門の官僚がつく形だ。


 よく見ると宰相付きの政務官である俺は、一般大臣と同じ扱いのように見える。まあ、それは描き方の都合上そう見えるだけなのだろう。


 組織図2


 宰相府

  軍務省

   騎士団(近い将来陸軍の名称変更の予定)

   海軍

   魔術師団(騎士団、海軍に協力)

   王国警備団

  宮内省

  大蔵省

  内務省

   各都市の行政府

  外務省

   各国大使館

  産業省(一次産業・三次産業)

  鉱山・冶金やきん省(二次産業:数年前産業省から独立)

  司法省


 ここでは、どういう名前の組織があるのか書かれており、各省の大臣の名まえなどが書かれていた。()内は俺がアスカに聞いて後から付け加えたものだ。


 俺が尋ねたことをアスカが声に出して回答してくれる。記憶力の落ちてきた俺は優しく音声で聞いた方が格段に覚えやすい気がする。やはりアスカがいてくれて助かった。



 しばらくそうやって組織図を眺めていたら、部屋の扉がノックされて、侍女の人が俺とアスカにお茶を持ってきてくれた。


 机に置いた組織図なんかをお茶などで汚すとマズいので、応接セットのテーブルの上にお茶を置いてもらった。


 お茶を置いて侍女の人はすぐに部屋を出ていったので、


「アスカ、少し休憩しよう」


「はい」


 四人用の応接セットの椅子に向かい合って座り、


「こうやって、組織図を見ると、俺から見て異世界のこの世界も、俺のいたところとさして違いはないようだな」


「マスターの世界とこの世界の違いは、電気エネルギーを利用している文化であるか、魔法を利用している文化であるか程度の差しかありませんから、そのほかの部分ではほぼ同じような発展過程をたどっているのでしょう」



 休憩の後、組織図の知らないような部署について、資料集をすでに読み終えて自分のものにしてしまっているアスカにどういった部署なのか聞いていたら、昼前になったらしく、侍女の人がやって来て前回と同じ食堂に連れていかれた。


 前回同様、リリアナ殿下が先に席についていたので挨拶あいさつして、すぐ

食事は始まった。


「お仕事の方はいかがですか?」


「いえ、まだ仕事などといった、ご大層なことはやっていなくて、この国がどういった仕組みで動いているのか資料を作ってもらったのでそれを見ているだけです。難しいところは、アスカが理解しているので私は眺めてるだけです」


「アスカさんは今日半日で理解されたのですか?」


「頂いた資料については一応理解したつもりです」


「すごい。Sランクの冒険者ですと、戦いに強いだけではなく頭脳も人並み外れているんですね」


「殿下、そんなのはアスカだけです。私は頭の作りは人並み以下ですから。それでもアスカに助けられているので、見た目は人並み程度には見えるかも知れません」


「私は朝から晩までいろいろな先生について勉強していますが、あまり前に進んでいる実感がありません。ショウタさんが人並み以下なら私はどうなるんですか?」


「殿下はいずれ国の上に立たれるわけですから、細かいことは周りの人に尋ねればいいので概略だけ理解できていれば十分じゃないでしょうか?」


「あのう、私もそのつもりで努力してるんですが、頭に残らないというか、長い間、勉強から遠ざかっていた後遺症かもしれません」


「そんなことはないと思うんですが」


 全てを癒す『エリクシール』を飲んだ以上、あらゆる状態は本人にとっての正常になるはずなので『覚えの悪いのは、地頭に問題があるせいでしょう』などと、ここで冗談でも言えるわけもなく、愛想笑いを浮かべることしかできなかった。


 しかし会話をしている感じで、リリアナ殿下の地頭に問題があるようには思えないので、おそらくカリキュラムがうまくかみ合ってないのかもしれない。つまり、基礎をおろそかにして、先を急いだ詰め込み教育をしているんじゃないかと思う。


 などど、いろいろ考えていたら、


「以前ショウタさんとダンスを踊りたくてタンゴの特訓をしたときには簡単に覚えることができたんですが、それ以外のダンスのステップが覚えられないんです。これだと将来困りそうです」


 なんだ、ダンスの話だったのか。早とちりしてしまった。妙なことを言わなくてほんとに良かった。


 俺も、ダンスはタンゴ一筋で生きているから、仲間が増えたようで少しうれしい。ああいった物は運動神経と記憶力がかみ合っていないとなかなか覚えられないものな。


「それなら、私も相変わらずタンゴしか踊れませんから一緒です」


 待てよ、俺は自分自身の覚えが悪いといっていたのだが、俺と一緒だと殿下にいってしまったのはちょっとまずかったかもしれない。


 アスカを見れば食事の手を休めず、お皿の上の料理を上品に食べ続けている。


 アスカは平和だよな。





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