第445話 模擬戦


 昼食を冒険者学校でいただいていたら、何だか俺とアスカの模擬試合を観たいとか生徒たちが言い出した。こういうことを聞くとすぐにアスカが乗ってくるのでしていただきたい。


「マスター、生徒たちがああいっています。ここは生徒たちのために一肌脱ぎましょう」


 そうら、アスカが食いついてしまった。


「ヤッター!」「わーい!」、……!


 歓声まで上がってしまった。断れないことは最初から分かっていたよ。


「仕方がないな。もう少し休憩したら始めるか」


「マスター、私とはいつも訓練で立ち会っていますから、今日はペラと立ち会ってみませんか?」


「俺からすればペラだってアスカとそんなに変わらないだろ」


「マスターが、全力で戦えばいい線いくかもしれませんよ。ペラならマスターの全力攻撃が命中しても大怪我おおけがで済むでしょうし」


「それはそうだろうけど、そもそも俺の攻撃なんて当たりはしないよ」


「そうでもないかもしれませんよ。マスターは人類最強なんですから」


「そう言えばそうだったな。よし、

 ペラ、俺と模擬試合をして見るか?」


「はい」


 これを聞いた生徒たちがまた歓声を上げ始めた。


「それでは、私は予備のメイスを使います」


「そこらへんは適当でいいよ。俺の方も『進撃の八角棒』を使うから」


 ペラと試合をすることになったが、マズいことにフーは今屋敷に置いているので装着することができない。メイスで殴りつけられると余裕で死ねる。そう考えると急に怖くなってきたが、アスカが横で見ている以上、それはないと思い至って少し安心した。


 逆に俺の方も『進撃の八角棒』を使った場合、思いっきりペラにぶち当ててしまうと当たった個所が爆散してしまう恐れもある。まあ、ペラは生身ではないのでそれはないということにしておくか。こっちもアスカが何とか止めてくれるだろう。



「よし、ペラ、そろそろ始めるか」


「はい」




 学校の前の広場に出てペラと相対あいたいする。


 審判のような形でアスカが立って、離れて俺たちの周りを生徒たちやコーチの四人が見守っている。


「それではマスターとペラ、試合を始めます」


 俺は八角棒、ペラはメイスを両手で構える。


「始め!」


 俺もペラもゆっくりと前に出ていく。間合いは俺の方が当然長いので先に攻撃できるのだが、大きく受け流されてそのあと踏み込まれれば、それで一撃をもらってしまう。


 ということは、受け流された時に逆らわず棒を回転させて短い方でメイスの一撃を受けるか、大きく後ろに引くかということになるが、ペラの踏み込み速度は俺の対応速度より速そうなので、どうも分が悪い。


 そんな脳内シミュレーションをしていたら、ペラが俺の間合いの中に入ってきた。


 トウ!


 すかさずそれに反応して、突きを入れてしまった。これだとシミュレーション通りにペラから一撃を受けてしまう。


 マズい!


 うん? 俺の突き出した八角棒はペラに弾かれることなくまっすぐ突き進んだ。結局、ペラは俺の突きをメイスで払うのではなく、体を躱す方を選んだようだ。それだと突き出した八角棒を横に払えば、ペラにたたきつけることができる。


 ペラは横に移動したため、すぐに俺に向かって踏み込めず、横合いからの俺の打撃をメイスの柄の部分で受けてしまった。


 バキッ!


 嫌な音がして、俺の八角棒を受けた個所でメイスが折れてしまった。ペラはメイスをそのまま投げ捨て、いったん俺の間合いの外まで下がった。


「いったん止め!」 


 ここで、アスカの停止の声。


「マスター、『進撃の八角棒』相手ではただのはがねのメイスではもたないみたいです」


 困ったな。


「今回はここまでにしておきましょう。さすがはマスター、ペラが反撃するすきを与えなかったところはお見事でした」


 あー良かった。しかしメイスはもったいないことをしたな。鋼のメイスがあれほどもろいものとは思わなかった。



 俺たちの今の一連のやり取りの後、生徒たちがざわつき始めた。


『武器の動きも見えなかったけれど、二人の体の動きも良くわからなかった』


『音が聞こえたから、双方打ちあったんだろうけれど、それだけしか分からなかった』


『えっ? あの鋼のメイスが棒の一撃で壊れたの? うそでしょ?』


 生徒たちはどうも目が慣れていないのか、俺とペラの動きがよくわからなかったようだ。俺からすれば、普通の動きを俺もペラもしていただけだったのだがな。今の俺たちの動きが見えなかったのでは、まだまだ訓練が不足しているようだ。


「マスター、いくら訓練しても、訓練だけでは今の二人の動きを目で追うことはできません。実際にモンスターをたおしてレベルを上げていくことが肝心かんじんです」


「なるほど、俺も偉そうなことを言ってしまったが、俺なんか基本ができているわけでもないし、レベルが高いだけの初心者だもんな」


「マスターは相手の動きを予測までできるようになっています。予測が外れた場合の対処もできるマスターは初心者などではありません。安心してください」


 最近よくアスカにめられるな。


「先ほどのマスターの二撃目に対するペラの受けは感心しない。『神撃の八角棒』はタダの武器ではないので受け流さずまともに受けてしまうと、そこらの武器では簡単に破壊されてしまう。今回の正解は、第一撃目を横にかわさず、最小限の動きで受け流しながらマスターのふところに入ることだった」


「はい。ご指導ありがとうございます」


 体育会系という言葉は聞いたことはあるが、言葉だけで、実感することはなかったように思うけれど、なるほど脳筋などと悪い意味が強いのかと何となく思っていたけれど、上位者には敬意を持って接するってところは体育会系のいいところなんだな。


 やはり俺の脳内シミュレーション通り、第一撃を突きから入るというのは負け筋だったようだ。俺の勝ち筋とすれば、受け流すことが難しい横合いからの全力の薙ぎ払いだったようだ。


「それでは、せっかくですから、私とも模擬試合をいたしましょう。マスター、私にはいつもの洞爺湖1号と2号をお願いします」


 やはり、こうなってしまったか。一難去ってまた一難。人生谷あれば、また谷。


 もう一度、生徒たちがざわつき始めた。



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