第444話 視察
『鉄のダンジョン』の小改造も終わったので、実習中の生徒たちの様子を見てみようと訓練区画に入って行った。一区画五百メートル四方の迷路が今のところ十個連なっているとコアが言っていた。ちょっと作りすぎたかもしれない。
山の上から地上を見れば五百メートル四方はそんなに広くはないのだが、地下迷宮が五百メートル四方もあればかなり広いし、歩き回らなければならない距離はバカにならない。
おそらく実習期間の一カ月少しの間では最初の数区画程度までしか進めないだろう。それでも区画ごとに少しづつ難易度は上昇しているが、出現数と出現頻度が増す程度なので、運搬能力の関係からそれほど実入りが増えるわけではないのであまり先まで進出するメリットはない。アイアンゴーレムやスチールゴーレムを狩ることができれば、かなりの実入りになるのだろうが、新人をにわか訓練した程度では危険だ。
一期生の場合は、
訓練区画を適当に目星をつけて進んでいくと、生徒たちが
戦闘中にいきなり何かが近づいてくれば緊張するのは当然で、今回は俺の配慮が足りなかったことを詫びておいた。このチームに付いていたコーチによると今日は増築部分の完成検査で俺が顔を出すだろうから、ダンジョンで出くわす可能性もあるとペラから注意を受けていたそうだ。
アスカに言わせるとペラはかなりの低スペックらしいが、アスカに比べればどんなものでも低スペックとなるだろう。俺から言わせると、相当高スペックだと思う。要は誰と比べるかで高低が決まるということか。アハハハ。
このダンジョンであと二週間ちょっと実習をしたら、ヤシマダンジョンへの遠征だ。今回は俺もアスカも同行しないが、今の生徒たちの動きを見ていれば、当面の目標の20層へは問題なく到達できるだろう。
ただ問題は、現在チームの数が五個で二十名。ボス戦では人数が多すぎる。前回は三チーム十二名で突撃していったが、今回は十名二組にして、六時間のリポップ時間を挟んで全部で二回ボス戦を戦って見るか。そこはペラの判断だな。
二体の鉄鉱石ゴーレムを四輪車に積み込んだ生徒たちは既に石炭ゴーレムも二体たおしていたようで、四輪車を引いたり押したりして、出口に向かって帰って行った。時間的にはまだまだ余裕があるので、またすぐに戻ってくるのだろう。
先ほどの生徒たちと別れ、しばらく迷路を進んでいたら、ペラに出くわした。近くに生徒たちもいて、ゴーレムの残骸を四輪車に積み込んでいた。他のコーチたちもそれぞれ各チームにくっ付いて様子を見ているそうだ。
「ペラご苦労さま。増築部分の確認は終わったから様子を見に来た。二期生も順調みたいだな」
「ありがとうございます。みんなよくやっています」
「それは良かった。そろそろ、生徒に支払う現金が不足してくるころだと思って金貨を用意して持ってきた。ペラの部屋の鍵のかかる引き出しに入れておくか?」
「どうせですから、学校の食堂で食事していきませんか? 生徒たちもマスターたちと食事できれば喜ぶと思います」
「それならそうするか」
そういうことにしたので、ペラの見ているチームにくっ付いてダンジョンの中を回ることにしたのだが、先ほど斃したゴーレムの残骸を積み終えた生徒たちは、積み荷でいっぱいになった四輪車を引いて出入り口に戻って行ってしまった。ここにいては生徒たちにはぐれてしまうので俺たち三人も生徒について出口まで戻って行った。
ダンジョン出口の黒い渦の前で待っていたら、最初に出くわしたチームの連中が戻ってきた。最初三人がダンジョンの中に入って来て、それから空荷の四輪車を一人で引いてダンジョンの中に現れた。その後、前方を警戒して二人がやや前を、その後二人で四輪車を引いて小走りに走り去って行った。最後に現れたのが担当のコーチ。生徒たちの無駄のない動作でほれぼれしてしまった。なんだか、彼らの動きを見るたびに、Sランクといえども、俺がいかになんちゃって冒険者であるのか、つくづく思い知らされてしまう。
とはいえ、今となっては週一とは言え、政務官になってしまったので逆に考えれば、バリバリの冒険者よりお役人さまには向いているかもしれない。いやいや、よーく考えなくても、何の関連もないな。
それからそんなに待つこともなく、ペラの担当しているチームが、先ほどのチームと同じような感じで戻ってきた。
小走りに走り去る彼らを追って俺たちもついていく。
その後、そのチームは石炭ゴーレム二体、鉄鉱石ゴーレム二体を狩って午前の実習を終えた。
俺とアスカは一足早くダンジョンを出て、学校前の広場で、昼食に帰ってくる生徒たちを待っていたら、三々五々といった感じで生徒たちとコーチ、それにペラが帰ってきた。
生徒達やコーチはそろって軽く整理体操をした後、ワイワイと校舎の玄関に入って行った。
「ペラ、二期生も順調そうでよかったよ。ヤシマダンジョンへの実習遠征には俺たちはついていかないけれどよろしくな。展望車での送り迎えはしてやるから帰りの時刻はなるべく正確にな」
「はい」
「それと、『鉄のダンジョン』だが、少し改造をして、2層以下の階層には転移室というのを設けた。使い方はその部屋の壁に書いてあるようだけれど、魔石を空いている穴に放り込んでレバーだかスイッチを動かすと作動して、部屋の中のものがダンジョン出口までテレポートできるようになったんだ」
「それはすごいですが、まだ一般開放していませんからなかなか出番はなさそうです」
「まあな。そのうち役に立つこともあるだろう。それじゃあ、食事に行くか」
「はい」
生徒たちは革の鎧などの防具を脱いで普段着になって食堂に集まってくる。何人かいる当番が台所からワゴンで運んできた料理をテーブルに並べていく。俺たちのものも用意されていた。急に顔を出したのだが大丈夫だったようだ。ペラが気を利かせて厨房に頼んでいたのだろう。
料理が並べられて全員揃ったところで、
「いただきます!」
運動して一汗も二汗もかいた生徒たちは食欲旺盛で見ていてほれぼれする。俺などは小食の部類に入ってしまいそうだ。
食事しながら、生徒たちが先日の武術大会の話をしている。いやー、優勝できてよかった。
『そうは言うけれど、いくらショウタさんが強いといっても、あのアスカさんと比べれば全然なんでしょ?』
『そうだった』
『それは俺も聞いた。まず棒が
『あの、神速の棒さばきでも当たらないのか? それは本当か?』
『そういえばペラ教官が、「アスカさんに
『一度アスカさんの動きを見てみたいよな』
『二人に頼めば模擬試合をしてもらえないかな。おまえ、ちょっと頼んでみろよ』
『いや、後でみんなで頼んでみよう』
『そうだな』『そうしよ』
あれ? なんだか、変な
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