第433話 王宮にて2
リーシュ宰相が改まって、
「話は変わるが、コダマ伯爵」
「はい?」
「今のキルンの
「はあ」
「それで、交代の者の人選は何とかなったんだがね」
まさか、俺にどうかと言われるのかと思って一瞬ドキッとした。よく考えたらこんな若造が務まるわけはないので、考え過ぎだった。
「人選をしている中で思いついたんだが、コダマ伯爵に王宮での経験を積んでもらって、いずれはしかるべき地位、大臣クラスで王宮に勤めてもらいたいのだよ。
陛下はリリアナ殿下が成人すればすぐに隠居して王位を譲りたいとおっしゃっている。リリアナ殿下はあと二年で成人するのでその時はもうすぐだ。リリアナ殿下が王位を継いだ時、
とゆうことで、来週あたりから私のところに来て、そういった
「は、はあ」
ちょっと俺の頭では理解できないような話なんですが。
これは断っていいものなのか? アスカの顔を見たが、無表情で何を考えているのかは分からない。俺のこれからの人生に関わることだとは理解できるのでさすがに即答はできない。あとでアスカに相談しなくてはな。
「少し考えさせていただけますか?」
「良い返事を待っている」
リーシュ宰相の執務室を辞してなんとか平静そうな顔をして車寄せまでやってきた。
駐車場に待たせていたサージェントさんの馬車がやって来たので乗り込んで屋敷に向かい馬車を出してもらった。
リリアナ殿下のお相手をしたので差し迫った
馬車で屋敷に帰る道すがら、
「アスカ、エライことになってしまったが、どうすればいいと思う?」
「マスターが今後何を望むのかということでしょう」
「俺が何を望むのか? か」
俺は実際何を望んでいるんだろうか? もはや元の世界に帰りたいとは思っていないし、今となっては伯爵さま。この世界で十分以上の立身出世を果たしている。これから死ぬまで楽隠居で過ごすこともできるだろう。勝手気ままにアスカと世界を巡ることもできる。
しかし、王宮勤めとなるとそんな勝手なことはできなくなるだろう。そういえばこの国の公務員に休みはあるのかな?
「なあアスカ。この国の公務員には休みはあるのかな?」
「国立の付属校には定休日がありますから、公務員にも定休日はあると思います」
それはそうだよな。そうでなければみんな数か月も働けば伸びてしまうものな。
元の世界に居れば、今頃俺は受験勉強であくせくしているわけだし、その後も会社に入ってあくせく働くわけだ。少しくらいは苦労をしてもいいのか?
俺が年金だけのご
「俺が、王宮に
「もちろんマスターと一緒に王宮にいますが」
「そうだよな。そしたら、アスカと一緒でいいなら王宮勤めしても良いと返事をしておくか」
「マスターの望むままに」
実際はリーシュ宰相の秘書の人にいろいろ習うのだろうが、王宮でリーシュ宰相から手ほどきを受けることに決めた。
エライことになってしまったが、俺がオタオタしているだけでアスカはいたって冷静。アスカを見ていたらなんだか気持ちも落ち着いてきた。
翌日、休日だったが、誰かはいるだろうと思って、アスカともども王宮に行って、リーシュ宰相の執務室に向かった。宰相は不在だったが、いつもの秘書の人が応対してくれたので、昨日の話をしておいた。この秘書の人は休みなのに休日出勤なのか? そもそも王宮に住んでいる可能性もあるのか。
「それはようございました。もちろんエンダー子爵閣下もご一緒で構いません。宰相閣下に伝えておきます」
「よろしくお願いします。それで、私はいつから王宮に出仕すればいいんでしょうか? 分かれば教えてください」
「私もお話は伺っておりますので。いちおう出仕の方は、週初二日目だけ週一回でお願いします。明後日の朝九時前に閣下のお屋敷に王宮から馬車をお出ししますのでそれに乗ってお越しください。閣下のお部屋は、宰相閣下の執務室の隣の部屋になります」
俺たちのために部屋がもらえるらしい。この部屋はいつぞや書類の山を収納から取りだした部屋のような気がする。この部屋に俺は赤い糸で結ばれていたのだろう。そんなわけはないか。
「取りあえず閣下の肩書は、宰相付き政務官というものになります。もちろん既定の俸給も出ますのでご安心ください。辞令は
政務官? 伯爵とは方向性は違うが、何だか偉そうな響きがある。実質勉強するだけだし、週二回出勤なら週休五日の勤務だ。秘書さんもそうだが、男の人には制服はないようだ。普通に上着を着ていればいいらしい。
「政務官は特別職ですからわれわれのような出仕の規定はありません。閣下の裁量でお休みいただいても結構ですが、最初のうちはなるべく週一回出仕してください」
なんだ、相当良い待遇じゃないか。これなら、かなり自由がきく。
今まで俺の職業は、冒険者という自由業だったが、これからは公務員になるわけだ。国勢調査があるわけではないのだろうが、ちょっとランクアップしたような気がしてしまう。
屋敷に帰って、夕食時に今回のことをみんなに報告したら、みんなからお祝いの言葉をもらった。もちろんどこかからか『でしょ!』が聞こえてきた。
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