第432話 王宮にて1

[まえがき]

2021年2月28日、フォロワー数6000名超えました。ありがとうございます。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 武術大会も終わり、うちの連中も貯金が増えたようで何より。百二十名ほどが参加した武術大会だったが、俺は大本命だいほんめいだったらしく、賭け金に対して倍率は、二倍弱だったそうだ。


 俺は何も言っていなかったが、屋敷に帰ったら宴会の準備が整っていた。


 屋敷に残っていた連中が頑張って準備してくれていたらしい。もし負けていたらお通夜になるところだった。


 ハウゼンさんやらうちで雇っているみんなから、


「ショウタさま、武術大会優勝おめでとうございます」「おめでとうございます」


 というお祝いの言葉と同時に、一斉に頭を下げられた。


 俺にとってはそこまで大したことじゃかったんだけど、大したことだったのかもしれない。


 風呂の準備もできているようで、俺が風呂から出て着替えたら宴会が始まるということだったので急いで風呂に入り、着替えて出てきた。


 それからは、みんなで宴会で盛り上がった。屋敷に残っていた連中も、それなりの金額を今回の大会で俺に賭けていたそうで、ふところが温かくなったとお礼を言われた。


 賭けは負けても個人の責任なのだが、やはり優勝できてよかった。


 宴会の最中、いたるところから、ラッティーの「でしょ!」が聞こえてきた。まだ、勧誘活動だか信者のつなぎ止め工作を続けているようだ。ラッティーはあと十日もせずに、付属校に入学するのだが、付属校に入学しても勧誘活動をしそうだぞ。



 そんな感じで、その日は終えて、翌日。


 午前中は、アスカが材木を加工してフー用のマネキンを作ってくれた。


 いったんフーを装着して、確認しながら一々分解して、隣りに立っているマネキンに着せていく。


 アスカは簡単に鎧のパーツを分解しながら組み立てていったがそれでもある程度の時間はかかった。普通にこういった鎧を着る場合は数人がかりの大仕事になりそうだ。確かに全身金属鎧を着た冒険者なり兵士など見たことが一度もないことが納得できる。


 これまで、フーの代役で飾っていたフー人形の方は俺の机の上に戻し、人形を置いていた台も廊下の方に戻しておいた。




 午後からは、リリアナ殿下との約束なのでアスカと一緒にサージェントさんの馬車に乗って王宮へむかった。


 車寄せのある出入り口から中に入ると、いつものように侍女の人が待っていてくれたので、リリアナ殿下の部屋までその人についていった。


 確かに大分だいぶ無沙汰ぶさたしているので、すこし緊張する。


「殿下、コダマ伯爵閣下、エンダー子爵閣下をお連れしました」


 リリアナ殿下の私室に入り、一通り挨拶あいさつが済むと、いつものように部屋の外に用意されたテーブルに案内され、すぐに侍女の人がお茶とお菓子を用意してくれた。


 今日は俺たち二人しかお客さまはいないようだ。


「ショウタさんたちがここのところ遊びに来てくれなかったので、ずいぶんと勉強の方ははかどりました」


 リリアナ殿下に嫌味イヤミを言われてしまった。半分笑いながらなので冗談のつもりなのだろう。


「申し訳ありません。バタバタと仕事のようなものをしていまして」


「そうでした。Sランクへの昇進おめでとうございます。何でも冒険者ギルド始まって以来というかお二人のために新しくランクを作ったとか」


「ありがとうございます。たまたま、私たちにとっては簡単な仕事を片付けただけだったんですが」


「ショウタさんはなんでも謙遜けんそんするんですね。謙遜ばかりしていては相手に付け込まれることもあると大叔父さまリーシュ宰相に伺ったことがありますが、圧倒的な差があれば付け込まれることなんてありませんものね」


 リリアナ殿下は俺たちのことになると何でもいい方に取ってくれるのでありがたいことこの上ないが、確かに何でも謙遜していていいものではないのだろう。


「そういえば、アリシアさん、いえアリシア陛下のためにパルゴール帝国の帝都でもご活躍されたとか」


「ええ、アリシア陛下の新居の披露に招かれたので、お祝いに伺ったんですが、そこで直々頼まれまして、行き掛かり上ことわれずに依頼を引き受けてしまいました」


「行き掛かりで引き受けた仕事も立派に果たしたそうで、しかもパルゴール帝国の子爵になられたとか」


「名誉子爵ですが、そちらの方は今回の仕事とは関係なく以前アリシア陛下がまだ殿下だったころパルゴールの都からの脱出を成功させたことで叙爵されました」


「叙爵されてしまったものは仕方ありませんが、とにかくお二人はアデレート王国の貴族なんですからそこは忘れないでくださいね」


「もちろんです」


 なんだか、今日は居心地が悪いぞ。俺のとなりで何も気にせずクッキーを食べているアスカがうらやましい。



 それでも、リリアナ殿下と楽しく二時間ほど雑談をして、お暇した。


 殿下も話し相手がそんなにいないのだろうから、もう少しマメに顔を出しておかないといけないな。




 殿下の部屋を出て、車寄せのある出入り口へ向かって廊下を歩いていると、案内の侍女の人が、


「申し訳ございません。リーシュ宰相がお二人にお話があるそうなので、よろしくお願いします」


 そう言われて断れるわけはないので、侍女の人の後について、王宮の廊下を進みリーシュ宰相の執務室の前までやってきた。今回もどんな話なのか見当はつかない。


 執務室の前で、いつもの秘書の人が待っていてくれたので、そのままリーシュ宰相の執務室に招き入れられた。


「ご無沙汰しています」「どうも」


「二人とも、今日もリリアナ殿下の話し相手になってくれてありがとう。コダマ伯爵、昨日の武術大会優勝おめでとう。わたしもあれほど武術大会の決勝戦が簡単に終わったのを見たのは初めてだったよ」


「たまたま相性のいい相手だったですから」


「謙遜ばかりしていると、相手に付け込まれるかもしれないが、きみほど実力があれば付け込みようもないからいいかもしれんな」


 先ほど殿下に聞いたことそのままを大もとに言われてしまった。


「これからも殿下のことをよろしくお願いする。

 それと、パルゴールのことだが、二人の活躍のおかげで、想像以上に簡単に帝国を再興できたよ。うちの騎士団もかなりの人数を向こうにやっているし、商隊も順調に往来できるようになった。ありがとう」


「向こうの方は、だいぶ安定しているんでしょうか?」


「騎士団のギリガン総長の報告によると、すでに帝都周辺の諸都市と主だった都市は新皇帝に恭順きょうじゅんしているということで、帝国全土の回復も来年の春には終わる見込みだそうだ。飛空艇の機動力があったればこそだといっておったよ。もう一隻も近々納入されるらしいから、ますますわが国は安泰あんたいだ」


 一応パルゴールの方も順調でよかった。


「話は変わるが、コダマ伯爵」


「はい?」


 なんだ、改まって?


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