第441話 下着
マーサのベルガーさんへの講義だか授業は、午後一時から四時を目安にしていたので、先ほど終わったようだ。途中、ハート姉妹の妹のソフィアに休憩用にお茶菓子などを持っていかせているので、正味は二時間半程度の授業になる。この時間だと風呂の準備も終わっている。
「ベルガーさん、せっかくだからお風呂に入っていきませんか? 大き目の湯舟なので気持ちいいですよ」
「お湯の入ったお風呂ですか? 気持ちよさそうですね。でも着替えがないので遠慮します」
「着替えなら、下着は新しいものがあるのでそれを使ってください」
「マスターが趣味で女性の下着を取り揃えていますから、サイズも合うと思いますよ」
アスカさん、俺がいつ趣味で女物の下着を取り揃えたというんだ? 俺はアスカに言われるまま、アスカの買って来た女物の下着を収納しているだけじゃないか。
「そういった趣味をお持ちだったとは、お若いのにご苦労さまです」
妙な誤解をベルガーさんから受けてしまった。しかも、どういった意味なのかは分からないが、俺は苦労人のようだ。真面目な顔をして地味に返されてしまったのがショックだ。マーサは、俺の顔を見ると悪いと思ってか、
いちおう
「そんなことはありませんよ。確かに女物の下着は収納していますが、これはみんなで出かけた時、雨に降られて着ている物が濡れてしまった時に着替えるためのもので、アスカが揃えたんですよ」
「雨に降られて着替えるということは、出先でそのまま着替えるんですか?」
うん? そう言われれば、実際どこで着替えるんだろう? 今まで実戦で使用したことがないのでそこのところを失念していた。コンバットプルーフは大事だ。
待てよ、よく考えたらアスカがそういったことを失念するはずはないし、なんだか、俺はこれまでアスカに
アスカの方を見ると、こっちも
「それじゃあ、アスカに渡しておきますから、一緒に入ってきてください」
開き直ってしまえばなんてことはない。こういった物は、自分が思っているほど周囲は気にしていないものだ。
「趣味で集めた女性用の下着。まさか、とんでもなくハデハデってことはありませんよね?」
俺が気にしている以上にベルガーさんは気にしているのかもしれない。運の悪いことに、俺の収納に入っている下着はラッティー用のものを除いてすごくハデハデだったような気がする。
「ベルガーさん、私の新しい下着をお貸ししますから、それでいいでしょう?」
さすがのアスカも見かねたようだ。
「それならそれで。久しぶりに温かいお湯のお風呂に入れる。楽しみー」
それは、ようござんした。
アスカたち三人が風呂に向かったので俺も風呂に入ることにした。風呂の中で三人が何を話すのか気にはなるが、聞かないようにしないと変なストーカーになってしまうからな。なるべく早く風呂に入って早く出よう。
そうはいっても、男風呂と女風呂との間には仕切りが一枚あるだけなので、聞きたくなくても女風呂での会話が耳に入ってくる。実際全く聞きたくはないんだが、濡れた手で耳を塞ぐと水が耳に入っちゃうし、俺のステータスも無駄に高いし。
……。
『立派なお風呂ですねー』
『よそではかなりの贅沢なのでしょうが、マスターが給湯器の魔素を補充していますから、ここではお湯をたっぷり使うことができます』
『そうでしたね。ショウタさんはエリクシールが作れる錬金術師さまでもあるんですものね。納得です。ところで、アスカさんに貸してもらった下着ですが、いつもあんなのを履いているんですか?』
『私は
アスカ、もう勘弁してくれよ。
俺が隣の男風呂に入っていることはアスカは分かっているんだから、ワザとあんなことを言ってるわけだ。最近アスカは俺に対して意地悪になってないか?
『ベルガーさんは、お風呂に入って初めてわかりましたが、かなり着やせされていたんですね』
『いやです。そんなに見ないでください。そういうアスカさんの体は完璧な体型じゃありませんか』
『私の体はマスター好みに調整していますから』
『ショウタさん好み!!』
『そうですよ。私の体の頭の上から、足の先まで、全てマスター好みに調整しています』
確かにアスカに最初に出会った時、俺の理想の女子として今の容姿になってもらったわけで、そこは嘘ではないのだが。
『そ、そうだったんですね。納得しました。それにしても、お湯が熱くありませんか?』
『いつもと変わりませんよ』
……
おっと、女子の会話に聞き入ってしまった。そろそろ出ないとこっちも汗が出て暑くなってきた。
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