第437話 日常


 シャーリーたちを孤児奴隷から全員解放することができた。シャーリーはまだ学生なので今まで通りお小遣いを渡すだけでいいだろうが、後の五人については、それ相応の給金を支払っていく必要がある。


 ハットン商会を出て、シャーリーたちはアスカとともに先に屋敷に帰して、俺は商業ギルドにおもむいた。最近はアスカも俺の単独行動をとやかく言わなくなった。何せ『人類最強』にボディーガードが二十四時間べったりというのもおかしいものな。


 商業ギルドのホールに入って、いつものように三人並んだ窓口のお姉さんに、


「こんにちは」


「これはショウタさま、今日はどういったご用件でしょうか?」


「新しく個人の口座を複数作っていただきたいというのと、ちょっとした相談があって参りました」


「かしこまりました。しばらく応接室の方でお待ちください」


 いつものように真ん中のお姉さんに案内されて二階の応接室に入り、ソファーに座って待っていたら、ギルド長のリストさんの秘書のポーラさんがやってきた。


「ショウタさま、お待たせしました」


「お忙しいところ、ありがとうございます」


「そう言えば、Sランクご昇格おめでとうございます。それと先日の武術大会の優勝おめでとうございます。私もショウタさまのおかげでお小遣いが増えました。あと、政務官へ任官されたそうで、そちらも重ねておめでとうございます。

 それで、口座をお作りになる件は問題ありませんが、ご相談というのは?」


 政務官になったことも知っていたのか。正直、商業ギルドは凄いな。


「ありがとうございます。それでですね、実はうちで預かっていた孤児奴隷を先ほど全員解放したんです。そのうち五名は実際働いていますので、給金を出さなくてはいけないため、口座を作ってそこに振り込んでもらいたかったんですが、どの程度の金額が給金として適当なのかご相談にきました」


「ショウタさま、孤児奴隷の買主としての義務を立派に果たされたわけですね。五人というのは、飛空艇を操縦されている四名と錬金術の仕事をされているマリアさんでしたか?」


「よくご存じですね」


「いちおう、私が当ギルドのショウタさまの担当ということになっておりますし、私も孤児奴隷でしたもので良く存じ上げています。目安としては、成人したばかりの労働者の給金がありますが、五人とも特殊な職業ですからある程度高めの給金が妥当と思います。ただ、五人ともショウタさま、アスカさまが仕事を覚えさせたわけでしょうし、五人ともショウタさまのお屋敷で住、食を提供するのでしょうから、最初は一般労働者と同じ程度の給金で構わないと思います」


「そうですか、分かりました。数年ごとに給金を少しずつでも増額してもいけば本人たちも喜ぶでしょうから、そのうち増額を忘れないようにします」


「そのように対応なさるのなら完璧でしょう。あとは、ショウタさまのお屋敷で働いていますそのほかの人たちとの給金との釣り合いも大事ですから、その辺りを勘案して、最初は、ハート姉妹の姉のミラさんと同じくらいでいいのではないでしょうか?」


「そうですね。ではそういった感じで、私の口座から毎月五人に支払うようお願いします。それと、今までそういったことに対して無料でサービスしていただいていましたが、これからもそういった案件が増えてくるでしょうから、正規の手数料をお取りください」


「かしこまりました。ありがとうございます。しかし、ショウタさまはその若さで政務官におなりになられて、将来的には、アデレート王国の宰相になられるかもしれませんね。ショウタさまに投資できるものなら投資したいところです」


「よしてくださいよ。私は見た目通りのただの若造ですから、責任のある仕事などできるわけありません」


「またまた、ご謙遜けんそんを。あれほど活躍されてそういったことをおっしゃるともうイヤミになりますよ」


 謙遜は日本人のさがなのかもしれない。これは俺からなくなることはなさそうだ。傲慢ごうまんよりはマシなので矯正きょうせいの必要はないだろう。



 そんな感じで、すこしポーラさんと雑談をして、商業ギルドを後にした。



 屋敷に戻って、玄関まで迎えに出てくれたアスカと一緒に居間のソファーに座り、


「五人の手続きは済ませてきた」


「ご苦労さまです。そういった仕事もうちの者にさせていく方が良いかもしれませんね」


「それもそうだけど、自分でできることだからな」


「マスターは、そのとしで働き過ぎではありませんか?」


「おれが働き過ぎなわけがないだろう」


「いえ、いつもヒマだ、ヒマだといってはすぐになにがしかの仕事をしているように見えます。今回王宮の仕事も始まっていますので、本当に働きづめですね」


「ラッティーの入学式が終われば、さしあたり、週一回の王宮への出仕しゅっし以外用事もなくなるから、またヒマになるだろうけどな」


「マスターもマーサの授業に出てはどうですか?」


「不思議とそっち方向には食指しょくしが動かないんだよな。俺といつも一緒にいるアスカならわかるだろ? 俺は義務感で努力はできるけれども、義務じゃなければ努力できない体質なんだよ」


「マスターは自分ではそう言っていますが、たいていの事柄を義務と思ってしまうんじゃないですか?」


「そんなことはないと思うぞ」



 俺とアスカが居間でそんな話をしていたら、今日ハットン商会に連れて行った六名がシャーリーを先頭に俺たちの前にやってきた。


「どうした?」


 シャーリーが最初に、


「あのう、ショウタさん、アスカさん、今まで本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします」


 そのあと、五人が揃って、


「ショウタさん、アスカさん、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします」


 最後に、六人で揃って頭を下げた。


「みんな今までよく頑張ってくれたから一人前になったと奴隷商の人だいさんしゃに認められたんだよ。こちらこそこれからもよろしくな」


 俺の後に次いでアスカが、


「みんなを引き取って本当に良かったと思っている。これからも頑張ってくれ。それ

と、今学校に行っているシャーリー以外の五人については、マスターが来月から給金を支払う。さきほど、マスターがわれわれと別行動をとったのはその手続きに商業ギルドにいったためだ」


「五人には新たに口座を作ったから、今勤めてくれている連中と同じ日に振り込まれると思う」


「ありがとうございます」


「シャーリーについては、給与という訳にはいかないから、これまで通りお小遣いだな」


「はい」


 みんな、俺が育てたわけじゃないけれど、素直に育ってくれてよかったよ。


 なんだか、この歳で成人した子を持つ親になった気分を味わうことができたとは、世の中何があるかわからないものだ。その前に、俺がこの世界に来ている方がその言葉に当てはまるわけだけどな。






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