第438話 付属校入学式
孤児奴隷たちを全員解放することができたということは、解放された全員が一人前になったということだ。俺も責任を半分は果たせた格好だ。
居間で
六人が自室に帰って行ったあと、俺とアスカで雑談を続けた。
「こんど、ハットンさんのところから新しく孤児奴隷を迎えると、寝起きするところは屋根裏部屋でもいいだろうけど、食堂やここの居間なんかも
「そうですね。北の方はブラッキーとホワイティーのために空けておいてやりたいし、南の方は、シルバーとウーマ、それに『スカイ・レイ』のために必要ですから、この真ん中の区画内で増築するしかありませんね。今は三階部分が屋根裏部屋しかありませんから、上の方に伸ばしても良いですし、横にもまだ伸ばせますからある程度の大きさのものはできるんじゃないでしょうか?」
「そうだよな。朝の体操なら南の
あとは、人数が増えると食事の手間も増えるだろうから、厨房の二人の負担も大きくなるよな。もう一人くらい雇うか? ハート姉妹の知人でいいんだがな。そしたら二人の部屋を使えるだろ?」
「こんど、二人に適当な人がいないか聞いてみて、いれば商業ギルドを介して雇い入れましょう」
「そうだな」
「それと、ハウゼンさんに孤児奴隷を四人から六人あらたに購入することは伝えておきました。屋根裏部屋をちゃんと寝起きできるよう寝具などを手配してくれるそうです」
「それは良かった。気付いてくれてありがとう。寝具はいいとして、衣料はお店で大きさを見てみないといけないな」
「それは今までのように屋敷に連れ帰るときでいいでしょう」
その日の夕方、全員が食堂に集まったところで、孤児奴隷だった六人が今日孤児奴隷から解放されたことをみんなに告げた。解放されたといっても実質的には左手の奴隷紋がなくなっただけで、生活が変わるわけではない。いままで孤児奴隷だからと世間に保護されていた面が多少はあったのかもしれないが、微々たるものだろう。これからは一人前の人として周囲から扱われるので、逆に気を引き締めていく必要もある。とはいえ、今回の六人なら大丈夫だろう。
それから、週が明け、とうとう今日はラッティーの入学式。
買いそろえてあった真新しい制服を着たラッティーと、俺とアスカとシャーリーの四人で馬車に乗って付属校の正門に到着した。今日からちゃんと授業のあるシャーリーは学校の制服だが、俺とアスカはあまり派手にならないような普段着を選んで着ている。
正門前で馬車を降りたところで、
「それじゃあ、ラッティーちゃん、私は教室に行くからね。それと、講堂の入り口の掲示板にクラス分けが出てるそうだから確認してね。ショウタさん、アスカさんそれじゃあ」
「シャーリー姉さんそれじゃあ」「それじゃあな」
今日はいつも通りの授業があるシャーリーは自分の教室に向かって、俺たち三人は入学式の行われる講堂に向かい、入り口前でシャーリーの言っていた掲示板を見つけた。
「えーと、……、おっ! ラッティーはAクラスだ。俺の思った通りだった。でしょ!」
「ショウタさん、『でしょ!』は私のセリフ。でもシャーリー姉さんと同じAクラスでよかった」
「ラッティー、ちゃんと頑張らないとすぐ下のクラスに落っこちるらしいぞ」
「大丈夫。ちゃんと勉強すればいいだけだもの」
「ラッティーなら大丈夫。俺が保証する」
「マスターが保証しても何もなりません。とはいえ、よほどのことがなければラッティーがクラスを落ちることはないでしょう」
「ラッティー良かったな。でしょ!」
「もう!」
「あははは。
ラッティー、新入生は、クラスごとに前の方に座るみたいだから、それじゃあな。あと、学校が終わったら正門で待ってるから」
「はい。それじゃあ」
ラッティーと別れ、俺とアスカは講堂の後ろに並んでいた保護者席に座った。紳士や
『あの若さで保護者なの?』
『あの
『ということは、お隣の
『さらに言えば、大陸随一の錬金術師』
『あっ! エリクシールの錬金術師!』
『お二人が保護者の生徒はどなたなのかしら? うちの子がすごい方のご子弟と同じクラスならいいんだけど』
この前の武術大会でちょっと有名になった関係か、誰かが俺の素性を知っていたらしく、それが伝わって、今度は別の意味で注目を集めてしまった。何にせよ、ショタアスなどとふざけた名前で呼ばれなかったことは良いことだ。
周りの注目は集めてしまったが、別に近くの保護者連中とお近づきになりたいわけでもないので、俺とアスカで勝手に雑談を始めたら、そのうちみんなも飽きたのか、自分たちで雑談を再開したようだ。
「ラッティーの試験の時は緊張したけど、入学式ともなるとあまり緊張しないな」
「ラッティーの入試で緊張するのもマスターらしいのでしょうが、そもそもマスターが緊張したところで何がどうなるわけでもありませんから、これからはリラックスしていきましょう」
「分かっていても緊張するものはするからどうしようもないんだ」
「先日は武術大会のためといって、マスターの反射神経を鍛えましたが、そのうち精神も鍛えなくてはなりませんね」
「おいおい
「鍛えておいて損はないと思いますが、マスターの言うようにそこまで必要ではないでしょうから、そのうちということにしておきましょう」
「そいつは助かった。かなり遠くのそのうちでいいからな。おっと、そろそろ始まるみたいだな。あれ? あれはラブレス先生だよな」
式の始まるのを待っていたら、講堂のステージの真ん中の壇上にシャーリーの担任のラブレス先生がぴっちりした黒のスーツを着て現れた。どうも司会をするらしい。
シャーリーの話ではラブレス先生はそのまま持ち上がりでシャーリーのクラス、二年A組の担任になったそうだが、ここで司会をしているということは、クラスは自習なのだろう。
ラブレス先生の司会で式は始まり、最初は、マクローリン校長のありがたいお話が結構長く続き、そのあと、三年生の代表が新入生に付属校生活の楽しさなどを伝えていた。
こういったイベントをシャーリーが経験できなかったことはかわいそうだが、時期的に間に合わなかったので仕方がない。大学に進学したらそこで入学式があるだろうからそれで我慢してくれ。
最後に新入生代表として女子が
俺はなんとなくラッティーがトップとばかり思っていたのだが上には上がいるものだ。
一応これで式は終わったようだ。来賓のあいさつなどなかったので思っていたよりもだいぶ早く式は終わった。
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