第430話 人類最強
アスカに人類最強とまで言われてしまった。悪い気はもちろんしないが、『ほんとかなー?』とは思ってしまう。俺って、肩書だけは立派なのをもらっているけれど本来ただの高校生だぞ。
「マスター、自信を持って次の試合に臨んで世界最強の実力を私たちに見せてください」
『世界最強!』『すごい!』『でしょ!』
何だか最近いつも最後に『でしょ!』を聞くような気がする。
準々決勝もそろそろ終わりそうだ。
「それじゃあ行ってくる」
「頑張ってください」「ショウタさん頑張って」「精一杯応援します」
さすがに『でしょ』は無かった。
選手控室に入り、フーをまとって椅子に座り、気持ちを落ち着かせておく。部屋の中には誰もいない。不思議とヘルメットをしたままでも汗をかかないようで、不快ではない。これもフーが持つ特殊機能なのかもしれない。
俺の相手はあの魔法剣士だ。アスカの言うように俺が世界最強かどうかは分からないが、たしかに相手に対しておそれのような物は全くない。これが試合前の精神状態としていいのか悪いのかはわからないが、結果で判断できるだろう。
「コダマ選手、試合場までお願いします」
係の人がやって来て一緒に試合場に向かって会場の中を歩いていく。
会場の中はまだ試合が終わってもいないのに割れんばかりの拍手と歓声の渦だ。俺がもしも負けたら大ブーイングかもしれないな。そしたら、全力で駆けて逃げだすしかない。
試合場の中の開始線まで進み、既に到着していた相手選手を見る。
先ほど観戦した時と変わらず、黒ずくめで落ち着いた感じの選手だ。
お互い一礼したところで、主審の合図があった。
「始め!」
世界最強とまで言われた以上、そのつもりで相手をたおしきる。
両手で木の棒を持って突進だ。
相手選手は俺が試合開始と同時に自分に向かって突進を始めてしまったことに驚いたようだ。
なんとか俺に向かってファイヤーアローを打ち込んできたのだが、手の向きを見ただけで撃ちだされる魔術の方向がなんとなくわかってしまう。これなら簡単に躱せる。
思った通りのコースにファイヤーアローが飛んできたので最小限の動きでそれを躱し、そのまま相手選手を棒の間合いに捉えた。そして棒を突き出す。
相手選手が、あわてて、俺の突きを左手に持った細身の剣で受け流そうとしたようだが、全く俺の突きに間に合わず、突きは相手の胸元に決まった。
「それまで!」
「勝者、コダマ選手!」
ほぼ三秒で試合に勝ってしまった。
相手選手はすぐに担架に乗せられて運び出されていったので、俺は相手のいない向こうの白線に向かって一礼して試合場を後にした。本来は審判にも礼をするのだろうが、これまで誰もしていなかったのでそういった決まりはないようだ。
これで残すは決勝のみ。
控室に戻って、フーを『収納』して普段着になり、階段席に戻る途中、俺が前を通るとペラたち冒険者学校の連中が前回以上に盛大に歓声を上げながら俺を取り囲んで握手などを求められてしまった。何だかヒーローになった感じだ。デヘヘヘ。自然の目じりが下がる。しばらくファンサービスをして、アスカたちの待つ俺の席に戻っていった。
座席に戻るとまたみんなからさっきと同じように拍手と歓声が沸き起こり、最後に、
「でしょ!」で締めくくられた。
「マスター、今の試合は見事でしたね」
「アスカにああまで言われた以上やる気を出してみたんだよ」
「それは良かったです。最後の決勝でもその調子でお願いします。次の試合がもうすぐですから、それを見て昼食にしましょう」
結局準決勝第二試合の勝者は俺に次ぐ第二シードだという双剣の剣士ということになった。第一シードと第二シードが決勝ということは順当だったということなのだろう。シードを決めた大会の運営が優れていたのかもしれない。
午前の試合が終わったのでみんなで昼食のお弁当を食べながらゆっくりしていた。決勝の開始時刻は2時頃だそうで十分くらい前には控室にいくつもりだ。
昼食を食べながら、決勝戦での相手選手について考える。
俺の棒と比べ圧倒的に間合いの短い双剣剣士の勝ち筋は、俺の棒を大きく弾いた上で、懐に入るようなつもりで俺に接近して連撃を放つほかないだろう。
ということが、だいたい予測できる以上、俺の対応策は相手を懐に入れないだけでいい。具体的には、相手の双剣に弾かれない、逸らされない重い一撃を加えればいいことになる。
「アスカ、相手選手は俺の本気の一撃を受けて大丈夫かな?」
「一撃死しないように、急所以外を狙えば大丈夫でしょう」
アスカが軽くそういうのだからそうなのだろう。俺が心配しても仕方がない。アスカの言うように狙いを急所以外にしておけば即死はないだろうからなんとかなる。
これで安心した。
「マスター、試合まで時間がありますから少し横になっていますか?」
「横になれればいいが、ここじゃ無理だろ?」
「私の
確かにアスカの言う通りなのだが、こんなところでそんな初めての経験をしてもいいのだろうか? いいんだろうな。ということで、
「それではお言葉に甘えて」
座席の上で体を横に寝かせて、アスカの太ももの上に頭を乗っけた。思った以上に柔らかくて気持ちが良かった。しかもなんだかいい香りもする。これは大発見だ。
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