第429話 武術大会14、最終日2


 やや後味の悪い勝ち方をしたが、勝ったことには変わりない。


 悔しい思いをしたのなら、それをバネに精進してくれればいい。まあ俺がどうこう言うべき話ではないな。



 次の準決勝は、昼食どき近くになるだろうとアスカが言っていたので、まだまだ時間がある。


 昨日きのうまでは、試合場では間を置かずに次の試合が始まったが、最終日の今日はだいぶ間があるようで、なかなか次の試合が始まらない。



 フーを収納して普段着姿で、みんなの待つ階段席に戻る途中、ペラが冒険者学校の生徒たちを連れて観戦にきていた。ペラと一緒に四名の助手と二十名の生徒たちが並んでいる。さすがはペラ、気のいたことをする。


「マスター、おめでとうございます」と、ペラがいうと、後ろの連中が声を揃えて、


「おめでとうございます!」



 いやー、今のところは俺のファンではないかもしれないが、潜在的ファンには違いないので、笑顔で軽く手を振りながら、


「みんなありがとう」


 そう言っておいた。ただ、ここまで冒険者学校からみんなで駆けて来たそうで、帰りもみんなで駆けて帰るそうだ。どおりでみんな身軽な格好をしていると思った。


 俺が立ち去ると、後ろの方から、


『さっきの鎧姿は迫力あったけれど』


『でも、普段着姿も良ーく見るとカッコいいよ』


 うん、うん。よーく見てくれよ。


『すっごい筋肉が付いてるわけでもないのに、あの鎧を着てあの動きは異常だよ』


『だから、Sランクなんでしょ。だけど、ギルドの仕事じゃいつもは普段着らしいから、今回鎧は逆に相手にハンディを上げてるのかしら』


『われわれでは想像できない何かがあるんだろうな』


 いや、まったく想像できないような何かがあったわけだ。





 ペラたちの席の前の通路を進んでうちのみんなの席に戻ると今度は、


「ショウタさんおめでとう」「強すぎ」「相手選手が可哀かわいそうだった」


 確かに相手選手は可哀かわいそうだったが仕方ないじゃないか。


「マスター、また完勝でしたね」


「ありがとう。どうも相手が女性だと棒を当てに行けなかった」


「それは仕方がありません。実戦では私がマスターのそばにいるわけですからそういった状況になれば、私に任せていただければ処理します」


「嫌なことかもしれないけれど、そういってくれてありがとう」


「まだ準々決勝は終わっていませんが、次の試合相手はおそらく魔法剣士になると思います」


「そんなのがいるんだ。魔法を使いながら剣士とか、ゲームだとたいてい中途半端に終わってしまうんだが、ここまで残っているんだからそれなりなんだろうな」


「出てきました。右側の選手がその魔法戦士です」


 これもラシイ格好だ。


 全身黒ずくめの革鎧に黒いブーツに黒い手袋をして、ヘルメットの代わりに肩まである黒いフードをかぶっている。武器は左手に細身の木剣。右手には何も持っていない。その黒ずくめ格好からかわからないがずいぶん落ち着いているように見える。


 左側の選手は、明るいベージュ色の革鎧。しっかりとしたブーツとガントレット、それにヘルメットをかぶって、武器は両手持ちの木製のハンマーだった。一撃でも相手に当てることができればそれで勝負は決まりそうだ。


 主審の合図で試合が始まり、双方がある程度接近したところで、いきなり魔法戦士がファイヤーアローを撃ちだした。結構な速さで飛んだため、相手選手は避けることができず、肩口に受けてしまった。さすがにその程度では怯むわけもなく、一歩一歩と前進していく。さらに、魔法戦士は、二撃目、三撃目のファイヤーアローを撃ちだす。


 ハンマーを持つ選手は、これを嫌って、ハンマーで受けようと二撃目は防げたが三撃目を太ももに受けてしまった。


 そこで、何とか魔法戦士を間合いに捉えることができたようだが、魔法戦士はゆっくり下がりながら、さらに四撃目のファイヤーアローを撃ちだした。


 これを受けるためハンマーの選手は一度立ち止まったところで、魔法選手がファイヤーボールを撃ちだした。至近での攻撃のためハンマー選手は避けることも受けつこともできなかったが、魔法選手にも爆発の余波は当然当たったはずだ。


「そこまで!」


 ハンマー選手についていた副審の声。自爆はしたものの魔法選手は何とかPAを使い切らなかったようだ。


 今のファイヤーボールで相手を仕留め切れていなければ、魔法剣士はハンマーを受けて負けていただろうから、彼我ひがのPAの残量を見極める能力があるのだろう。それと、ふつうの魔術師よりも大きなPAを持っていたのも事実だろうな。


 その能力で試合中、俺のPAを見極めたらびっくりすると思うが、普通は間違いだと思うんだろうな。


「魔法戦士というからどんな戦いをするのかと思ったけれども、結局はタフな魔術師ってことなのかな?」


「剣術を訓練することで体力や俊敏性などを高めPAを底上げしているのでしょう。呪文の詠唱も相当早いようでした」


「苦戦するかな」


「マスターが先ほどのファイヤーアローを受けたとして、次のファイヤーアローを受ける前にPAは全回復していると思います。また、ファイヤーボールを受けたとしても連続で数十回受けなければPAが削り切られることはありません。先ほどのファイヤーアローはそこそこ高速でしたが、マスターなら三メートルの距離まで回避可能と思います」


「ということは?」


「マスターが負ける要素はどこにもありません」


「そ、そうなんだ」


「今回この大会にエントリーしたのは優勝前提ですが、目的はマスターの訓練でしたので、すでに目的は達成しています。おそらくマスターは収納を使わなくともこの大陸最強の人類ではないでしょうか」


「この俺が最強なのか? 実感ないな」


「そういうものです」


 今の一連の俺とアスカの会話を聞いていたうちの連中がしきりにうないている。


 そうなのか。フフ、フフフフフ。



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