第427話 再会


午後からの試合も不戦勝で無くなってしまったし、試合を見ていてもあまり意味がなさそうなので、ちょっと会場を一回りしてこよう。アスカにみんなのことは頼んでおけば間違いはない。


「アスカ、俺はちょっとそこらを見て回ってくるから、みんなを頼んだ」


「了解しました」



 席をたって一人でブラブラと観客席の裏側に出てみると、昨日は気付かなかったがいい匂いがする出店が並んでいた。今日はもう試合もないので気持ちは完全な休暇モード。お腹はいているわけではなかったが、すぐ近くの屋台で売っていた縦長のパンにソーセージを挟んだホットドッグ?を一つ買って食べ歩くことにした。アスカがいると最近買い食いにうるさいのでこうして食べ歩くのも久しぶりのような気がする。


 うん。


 なかなかいい味だ。ケチャップとカラシがついていれば文句ないんだが。トマトはあるんだからスパイスとか工夫すればケチャップくらいできそうだよな。というかどこか探せばあるかもな。


 いろいろ考えながら歩いていたら、めずらしい人がいた。


「フレデリカ姉さん、お久しぶり」


「あら、ショウタ」


「フレデリカ姉さんも試合見物ですか?」


「ショウタの試合を見に来たのよ。そしたら試合はもう終わっちゃってたし、ショウタの次の試合はないそうだから、ここで何か食べてから帰ろうかと思っていたところ。あんたは何してるのよ?」


「そうでしたか。わたしは試合が終わったところ、次の試合が不戦勝になったので、暇になったからちょっと周りを見学しようかと思ってブラブラしているところです」


「アスカちゃんは一緒じゃないの?」


「うちの屋敷の手のいている連中が見物に来ているんで用心のため一緒にいてもらってます」


「そうなの。そうそうSランク昇格おめでとう」


「ありがとうございます」


「あんたたち二人がキルンの私のお店に最初にやって来た時には、かわった二人だなーって思っていたけれど、アッというまに偉くなちゃったわねー」


「それもこれもフレデリカ姉さんのおかげですよ」


「何言ってんのよ。全部あんたたち二人の実力よ」


「せいぜい頑張りますよ。アスカたちうちの連中は、そこの裏側辺りの階段席にいますから顔を出してやってください」


「それじゃあ、もう少ししたらちょっと顔を出してくるわ。明日は来れないけれど頑張ってよ。ショウタに賭けてるんだから」


「任せてください」


「それじゃあね」


 そういえば、メカオタクのフレデリカ姉さんがマーサの宇宙船のことを知ったらエライことになりそうだ。みんなが、あの宇宙船の話をフレデリカ姉さんにしないことを祈ろう。





 こちらは、屋台の匂いにつられたモエと付き添いのサヤカの二人。


 ブラブラ歩きながら屋台や出店を見て回っていた。


「ねえ、モエ、あそこにいるの児玉じゃない?」


「どこ?」


「ほらあそこ。すごい美人と話してる」


「ほんとだ。あんな綺麗きれいな人と親しそうに話してる。伯爵閣下だしSクラスの冒険者なんだし、美人も寄って来て当たり前か。なんだか、わたしたちなんかよりよっぽどすごいよね」


「まあね。あたしたちって、ゆう者さま、けん者さま、せい女さまとかいって持ち上げられてはいても、しょせんはただのろうどう者だもんね」


「そうよね。あっちは貴族。伯爵って言えばそれなりにえらそうだもんね。あっ! 二人が別れた」


「それで、モエはどうするの? あやまりに行くの?」


「ちょっと気後れしたけれど、謝りに行く」


「児玉がむこうに行っちゃうからいそごう」




 フレデリカ姉さんと別れて屋台を眺めながら歩いていたら、こっちに向かってサンダルで駆けてくる女子の二人組。二人は最近流行はやっている短めのスカートよりさらに短いスカートをはいている。視線がつい太ももに吸い寄せられてしまう。



 あんまりじろじろ見ちゃダメだ。無理やり視線を外して、駆けてくる女子の顔を見る。


 うん? あれ? まずい! 賢者と聖女の二人組だ。どう見ても俺に向かってきている。ここで逃げ出せば余裕で逃げ切れることができるが、さすがにそれはできないか。フレデリカ姉さんに会って気分良かったのに台無しだ。


「あなた、児玉よね」


 高飛車たかびしゃな言い方で、聖女工藤萌絵くどうもえに詰めよられた。工藤の隣りには賢者の月島紗耶香つきしまさやかが立っている。


「久しぶりだな、工藤」


「児玉に話があるの」


「モエ、あなた、あやまりにきたんでしょ。それじゃああやまってるふうに見えないよ」


「児玉、あの時はごめん」


「はあ?」


「あんたが、宝箱の罠で飛ばされた時黙ってて、ごめん」


「あ、あたしも、ごめん」


 ふーん、今さら言われても仕方がないし、この二人は俺に謝って何がしたいんだ? 俺としては復讐しようとか思っているわけでもないし、俺に関わらないでくれるだけで十分なんだ。とにかくこの二人の顔を直接見たくはない気持ちは変わらない。


「そう。二人の言いたいことはわかった。じゃあな」


 二人が何も言わず黙っていたのでそのまま俺はアスカたちの待つ観客席に戻っていった。何か言った方が良かったかもしれないが、今さらだし、俺にはアスカたちがいて実際楽しく暮らせている。あの三人のことは忘れたい苦い思い出ということでいいだろう。われながら小さな男だとは思うがこればかりは仕方がない。



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