第426話 試合場、サヤカとモエ


 サヤカとモエであるが、ショウタの出場した二回戦の第一試合を見た後、モエの気分がすっかり沈んでしまったので、その後すぐに王宮に引き上げた。


 昼食がまだだった関係で、かなりお腹が空いていた二人はすぐに食堂に行って食事をしているうちにモエもだいぶ元気を取り戻したようだ。


「サヤカ、明日あしたも児玉の試合を見に行ってみない? あいつの試合は朝一番のはずよ」


 モエは目の前の皿の上に乗った大き目のステーキをナイフで切りながらサヤカに話しかける。


「えー、しあい見ててもあんまりおもしろくなかったし、もういいじゃん。モエ、児玉のことがそんなに気になるの?」


「うーん。やっぱり気になる」


 そう言ってステーキを一口ひとくち口に入れる。


「そうなの。でも児玉がはくしゃくだってことは、マリア王女も知ってたはずだよね?」


 サヤカは、ステーキを全部サイコロ状に切り分けるつもりで、一生懸命ナイフとフォークを動かしながら受け答えしている。


「そうね。あの人も知ってて私たちに教えてくれなかったんだと思うわ」


「まあ、王女さまから見てもわたしたちと児玉のなかが良くないのはわかってたはずだものねー」


「ヒカルが児玉をだましたってことも王女さまは知ってるよね?」


「そうじゃない。あたしたちがわなのことをだまってたことも知ってると思うよ」


「そうだよね。今からじゃ遅いのは分かっているけれど、やっぱり私、あした児玉に謝ってくる」


「モエ、いまさらいみないから、やめようよ」


「でも、やっぱり謝ってくる」


「そうなの。じゃあしかたない。あたしもつき合うよ」


「サヤカ、ありがとう」


「どういたしまして」


「きょうのステーキもおいしいね」


「そうだね。モエが元気になってよかったよ」




 翌日。


 武術大会は三回戦、四回戦がおこなわれる。


 サヤカはモエがどうしてもショウタにキルンの迷宮での件を謝りたいというので、一緒に試合会場に来ている。今回も入場券は持っていないため、入り口のおじさんに立ち見でいいからと頼んで入れてもらった。そこいらの交渉は慣れたものである。


「試合は昨日と同じ場所みたいよ。もうすぐ始まりそうだから急ご」


「しあいが終わってしあい場から出てこなけりゃ、あやまれないじゃん。ゆっくりでいいよ」


「じゃあ、試合場からどこに帰っていくのかな?」


「そんなの分かんないよ」


「じゃあ、試合場から出てくるのをずーと見てなきゃいけないじゃない。だったら急がないと」


「もう」



 階段席の前の通路を通って昨日ショウタの試合を立ち見したあたりまで急いで行った二人だったが、目の前の試合場では、真っ黒い全身鎧を着た人物が、ローブを着たいかにもな魔術師と対戦しているところだった。鎧の人物は棒を持っているのでショウタのようにも見えるが、雰囲気がまるで違う。


「ねえサヤカ、真っ黒い鎧を着てるけど、あれって児玉だよね?」


「トーナメント表を見たら、今やってるしあいのところにショウタ・コダマって書いあるよ」


「なんだか、人が変わったみたいで迫力あるね」


「うん、ヒカルなんかよりだんぜんはく力ある」


「なんだか、あの黒い鎧姿よろいすがた、カッコよくない?」


「そういわれてみれば、ヘルメットで顔が見えないぶんカッコいいかも」


「それでカッコよく見えたのか。納得なっとく


「あっ! ファイヤーボール!」


「簡単にけた。それも、体の動きが最小限だった!」



「今のファイヤーボール、わたしのファイヤーボールに比べると、ちょっとい力はないしスピードもないけど、けっこうちゃんとしたファイヤーボールだったよ。

 あれ? 児玉はそのまままっすぐ進んでぼうでつけばそれで一げきだと思ったけど、まわりこんでいっちゃった。あっ! よく見たら相手せん手の前の地めんになにかある。児玉はあれをよけたんだ。

 あれれれれ? 児玉が近づいていったら、あいてせん手がかってにこうさんしちゃった」


「なんだか、児玉って実はヤバいくらい強いのかな?」


「じつはというより、さっきだってあのきょりでファイヤーボールをかんたんによけてたし、地めんの罠っぽいのもさけたんだから、じっさいそうとう強いんじゃない。しあい場から出るみたいだからいってみよう。あの目立つ黒いよろいだからすぐに見つかるよ」


「ねえ、やっぱり会うのよそう。サヤカが言ってたように、強くなった児玉にびてるみたいだもんね」


「ふー。モエ、どうしちゃったの? モエらしくないじゃん」


「やっぱり、自分のしたことを考えたら顔を合わせられない。ごめんサヤカ」


「一ばんわるいのは、ヒカルなんだし、そのつぎは、たからばこをかんていしたあたし、モエなんかはっきり言ってぜんぜんわるくないよ」


「サヤカ、ありがと。でも、私も一緒だよ。こうして、児玉が生きていたから良かったけれど、もしも死んでたら人殺しの片棒担いだようなものだもの」


「気にしすぎよ。わるいのはぜんぶヒカルと思っていようよ」


「うん。そうだね。悪いのは全部ヒカル。あいつが一番悪いのは確かだもんね」



 モエもサヤカのおかげで自己完結できて、やっと落ち着いたようだ。


「それじゃあ、もうようじがないし、これからまちに出て買い物でもしようよ」


「そうね。気晴らしには買い物よね」


 二人は、階段席の前の通路を通り会場から出ていこうとしたが、会場の裏手の方からいい匂いが漂ってきた。


「サヤカ、裏の方で食べ物屋さんの屋台がたくさんでてるよ」


「さっき朝食を食たべたばかりじゃない」


「ねえ、見てみようよ。美味おいしそうなのがあるかもしれないよ」


「ほんとに、モエは食よくあるよね。それで太らないんだからいいよね」




 サヤカとモエが階段席の前の通路から、会場の裏手にまわったところで、ちょどショウタが全身鎧のフーから普段着に着替えてみんなの待つ階段席に戻っていった。


 もちろんショウタはサヤカとモエが自分の試合を見ていたこともさっきまでそこらに居たことも知らない。



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