第425話 武術大会12、三、四回戦2


 相手選手は、俺がこういった金属製の全身鎧を着ている以上動きは鈍くなると予想するはずだ。


 その予想に乗って俺はゆっくりと相手選手に向かって接近していく。


 相手選手は、主審の『始め!』の合図に合わせて自分の少し前に地雷魔術をセットしたようだ。魔力の込められ具合から見て昨日の地雷魔術より規模が大きいような気がする。俺の動きが遅いのでそれだけの余裕があったのだろう。しかし、前日使った手だ。大抵の選手なら警戒しているはずなのに、同じ手でくるとは、これしか技がないのか? それとも俺が甘くみられたのか?


 とはいっても少々地雷魔術の規模が大きくなろうが、もろに踏み抜いたところで、俺のPAが全損するようなことはありえないのでそこまで心配することはないだろう。


 地雷魔術を完成した後、相手選手は俺に向かって昨日見せたファイヤーアローとは違い速度は遅いが威力は高いファイヤーボールを撃ちだしてきた。あわよくばそれで動きの遅い俺を仕留めようというのだろう。


 乗ってやってもいいが、不壊と鑑定しては見たもののフーが実際どれくらい耐久力があるのかはやはり心配なので、俺の機動力がばれてしまうが、かわせるのならば躱してやろう。


 ゴーー。


 アスカのファイヤーボールくんと比べれば格段に遅いしまっすぐ飛んでくるだけのファイヤーボールだ。特訓前だったら少しは怖いと思ったかもしれないが全くそういった感じにならない。


 そういうことなので、俺を目がけて飛んでくるソフトボール大のファイヤーボールを軽く体をひねって余裕をもって躱してやった。ファイヤーボールはそのまま直進していき、やがて空中で霧散したようだ。


 俺はファイヤーボールを見送ったのち、一歩一歩、相手選手に迫っていく。


 相手選手も必殺の地雷魔術を仕込んでいる以上簡単に位置を変えることはできないので、同じ場所に立って何やら呪文を唱えている。


 ファイヤーボールでは、速度がでず簡単に躱されたので、次はファイヤーアローかウインドカッターを撃ってくると思っていたが、相手選手は決定打にかけるそういった魔術を撃ってくる代わりに、地雷魔術に新たに魔力を注いだのか、重ね掛けをしたようだ。


 ミニマップでも魔力の揺らぎからでも、地雷魔法の起爆範囲は今の俺から1メートルほど離れた相手選手の少し前、おそらく直径2メールの円だ。俺がそれをけて、横合いにまわり込んだらどうするつもりなのだろう?


 ということで、ゆっくりと罠の仕掛けられている場所を迂回して、相手選手の横合いに出て、腰を落として棒を両手で構えた。


 そして、一気に踏み込んで突きで決めてやろうと右足を軽く浮かせたところで、


「参った!」


「それまで」


「えっ?」


 俺は歩いていただけで、相手選手が降参してしまった。


 開始線に戻って軽く礼をして俺は大きな声援とわずかばかりのブーイングを聞きながら試合場を後にした。


 実際、何の防御力もなさそうなローブに、いかにもな俺に一撃を加えられたら、負けるだけでなく、痛い思いをするだけなので、降参したのだろう。合理的判断ではあるが観客には受けないようだ。



 それでも、勝ったことには変わりないので、一安心。一度、控室に戻って棒を返しフーをシュウノウでどこかに仕舞って、下に着ていた普段着に戻ってみんなの待つ観客席に向かうことにした。


 控室の中には選手が一人椅子に座っていたのだが、俺が一瞬のうちに鎧から普段着に着替えたところを見たようで、目を見開いて俺の方を見つめていた。照れるじゃないか。


 みんなの待つ観客席に向かう間、階段席の前の通路を歩いていたら拍手やら声援をずーと受けてしまった。何だかすごく有名人になったような気がしてしまった。ファンクラブを作ってくれても良いのだよ。一番会員数の多いファンクラブには俺から公認マークをあげても良いぞ。


「マスター、お疲れさまでした」


「お疲れさまー」「お疲れさまでしたー」


「みんな、ありがとう。

 アスカの特訓のおかげで相手の魔法が当たる気がしなかった」


「特訓が役に立ったようで何よりです。マスターの次の対戦相手を決める試合が隣の試合場でありましたが、残念なことにその勝者が次のマスターとの試合を棄権したようです」


「俺が次の試合不戦勝ってこと?」


「そのようです」


「じゃあ、今日はもう俺はここで見物するしかすることないのか?」


「そうなります」


 今日は朝一あさいちの試合だったので、これから丸々一日試合場にいてもつまらないぞ。他の選手の試合なんて見てもあまり面白いとは思えないし、これはつらい。


 せっかく入場チケットを買っているのですぐ出るのももったいないしどうしようか?



 俺は他の選手たちの試合を見ていてもつまらないのだが、うちの連中はそうでもないようで、他の観客たちと一緒に目の前で繰り広げられている試合に盛んに歓声を上げて拍手したりしている。娯楽がない世界なのでこういった出し物は大好物なのだろう。


 うちにあるのはリバーシと本くらいだし、何か娯楽になるようなものを考えた方がいいかもしれないな。


 一番の娯楽はやはりおいしいものを食べることだから、良い食材を仕入れていくことが大事だな。


「アスカ、俺はちょっとそこらを見て回ってくるから、みんなを見ておいてくれ」


「了解しました」


 うちのみんなが楽しそうに試合を観戦していたので、俺は一人で、試合場の周りを散歩してくることにした。

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