第419話 武術大会7、観戦と初めての試合


 目の前の試合場で剣士と魔術師の試合が始まった。


 剣士は軽装で、黒革の鎧に黒革のガントレット、それに黒革のブーツと言った黒尽くろずくめので立ち。右手にやや短めの槍を持ち、左手に盾を装備していた。防具を黒で統一しているためすごく精悍せいかんに見える。こういったスタイルもいいよな。


 これに対する魔術師は、相手の攻撃を受ければもとより勝負がついてしまうためか、これぞ魔術師といったローブ姿で頭に三角帽をかぶっている。ローブ姿よりも普段着の方が動きやすいだろうと思ったが、本人の普段着がローブなのかもしれないのでそれでいいのだろうと思いなおした。


 二人の足元には開始線のようなものがひかれておりその距離はだいたい12メートルほど。


 見合った二人がたがいに礼をした後、主審の「始め!」の合図で試合が始まった。



 遠距離攻撃ができる魔術師が、先に仕掛けるのかと思っていたが、そうではないらしく、魔術師はその場に立ったままだった。よくは分からないが、試合開始直後、魔術師から魔力が放たれそれが試合場の地面に吸い込まれそこで滞留たいりゅうしていた。その後も魔術師は何か詠唱しているようだったので、いつでも魔術を撃てる態勢のようだ。


 それに対して、戦士の方は、盾を構えゆっくりとにじり寄っていく。戦士の持っている短槍が一撃でも魔術師にヒットすれば勝負はつくのだろうが、果たして槍の間合いまでたどり着けるかの勝負となるようだ。おそらく戦士も魔術師の一撃をもろに受ければたとえ盾で防いだとしてもPAが吹き飛んでしまうと思っているのだろう。


 にじり寄ってくる戦士と魔術師との距離が最初の半分、6メートルほどになった。


 そこでいきなり魔術師がファイヤーアローを戦士に撃ち込んだ。意外と撃ち出されたファイヤーアローは高速で戦士はけることができずかろうじて盾で受け止めた。次の魔法はいくら早くとも一拍、ないし二拍の間があるはずで、大技の攻撃魔術は使えないとふんだ戦士は槍を構え一気に魔術師にチャージとつげきしていった。


 そして、槍を突き出そうと最後の一歩を踏み込んだところで、


 ボン!


 戦士の踏み込んだ地面が爆発して、戦士は後ろに倒れ込んだ。


 同時に、副審の声が上がった。


「そこまで!」


 すぐに担架たんかが運び込まれたが、戦士はそれを断って傷めた足を少し引きずって試合場から退場していった。ヒール・ポーションを飲めば傷めた足もすぐよくなるだろう。


「勝者、……」


 主審の勝ち名乗りを受けた魔術師は高らかに両手を挙げ、観客からの拍手に答えていた。もちろんうちの連中もやんやと拍手を送っている。見ている分にはあっけない試合だったが、観客にはそれなりに受けていたようだ。


 その中でアスカが今の試合の講評こうひょうを語り出した。


「最初のファイヤーアローは戦士がうまく設置型魔術にかかるよう、歩幅を調整させるものだったようですね。自分が位置を変えて歩幅の調整をさせるよりも確実でしょうから、見事でした」


「ああいった地雷みたいな魔術もあるんだ。俺は大丈夫かな?」


「私たちなら魔力の揺らぎで、設置型の魔術に気づけますから大丈夫でしょう。しかも今程度の威力ではマスターのPAは数秒で回復するはずです。ですが他の選手で今の設置型魔術を見破れる者はあまりいないでしょうから有効な攻撃方法です」



 俺とアスカが先ほどの試合について話していると、隣に座っていたシャーリーが、


「ショウタさん、爆発に巻き込まれてケガすることはないですよね?」


「もちろんそんなことはないと思う」


「絶対ケガしないでくださいね」


「ああ、約束するよ」


 今度はアスカの隣に座っていたラッティーが、


「ショウタさん、優勝してくれないと、みんなの貯金がなくなるんだから、絶対勝ってね」


「絶対とは言えないけれど、任せておいてくれ」




 戦士と魔術師の対戦の後も、目の前の試合場では順次試合が行われて行った。


「マスター、そろそろ昼ですが食事はどうします」


「そうだなー、俺の試合ももうじきだろう。食べてすぐに試合はしたくないから、試合が終わってから食べることにする。みんなは適当に食べてくれてていいぞ」


 そうはいったものの、さすがにだれもお弁当を取り出そうとはしなかった。



「マスター、そろそろ、選手の控室に行った方がいいと思います。マスターの控室は1番のAですから間違えないようお願いします」


「それじゃあ、行ってくる」


「ショウタさん頑張って」「お気をつけて」……。


 みんなの声援を受けて階段席を下りて通路伝いに控室に向かった。


 選手控室は1-Aから4-Bの8室あり、1-Aから4-Bが南側階段席の下。5-Aから8-Bが北側の階段席の下にあるということだった。


 1-Aの控室を見つけて中に入ると、係の人がやって来て、


「コダマ選手ですね?」


「はい」


「次の次の試合ですので、空いているお席でお待ちください。試合用の武器類はあちらに準備しているなかからお好きなものをお選びください」


「分かりました」


 控室の中には選手が一人座っていたが、おそらく次の試合に出場する選手なのだろう。俺は軽く会釈えしゃくして、自分の得物を選びに壁際の武器置き場に。


 そこには木製の武器がいろいろ並べられていたので、その中にあった数本の棒を一本一本手に取って一番しっくりいくものを選んだ。



 俺が棒を手にして軽く突いたり、振ったりしていたら、係の人がやって来て、先ほどの選手を連れて控室から出ていった。


 一人になって俺も席についてじっとしていたら、次の選手が係の人と部屋に入って来た。ずいぶん回転が速い。


 椅子に座っていたら結局5分ほどで俺にもお迎えがきてしまった。


 お迎えに連れられて第1試合場に。


 試合場までの迎えの人の説明では、試合に負けた場合は大なり小なりケガをしているのので、動けない場合は係の人が担架で、動ける場合は係の人が付き添って救護室に案内してくれるということだった。勝った場合は、武器などに問題がなければそのままその武器を持って退場し、次の試合に間に合えばどこにいてもいいとのことだった。


 試合場は相撲の土俵どひょうとかボクシングやプロレスのリングのように一段高いわけではなく、地面に試合場の範囲を示す白いラインが入っているだけなので、やや拍子抜ひょうしぬけする試合場なのだが、逆に言えば、実戦に近いこの形の方が武術大会の本来の趣旨しゅしに沿っているのだろうと思う。しかも、試合場を示す白線だけは薄くなれば描き直されているのだが、試合場の凸凹でこぼこなどは直されていない。よく言えば、実戦を想定してのことなのだろう。


 俺が描き直された開始線の後ろに立つと、対戦相手もちょうど反対側の開始線の後ろに立ったところだった。


 俺の対戦相手は、こげ茶色の革鎧に身を包んだ大柄のおじさんで武器は両手持ちの大剣だった。普通の木刀でも即死はありえるといえばその通りだが、木製とはいえあんなものが一般人に直撃すれば、いくらヒールポーションがあるとはいえ、ただでは済むまい。



 特訓で回避を極めた俺が大剣の直撃を受けるはずはないと思い直し、相手選手に軽く礼をし、武器を構えた。相手選手も俺と同じように中段に構えていた。


 そこで、主審から、「始め!」の声。


 俺の私設応援団が大声で応援してくれているのが聞こえてきた。手を振って応えてやりたいが、相手選手に失礼なのでそれは控えておいた。


 防具も着けていない時点でずいぶん相手を舐めた格好なのだが、軽めの革鎧でも普段身に着けていないので動きづらそうなので、やはりこの格好が俺としてはベストのような気がしている。


 どちらも近接戦しかできないので、お互いに武器を構え試合場の真ん中付近まで進んだ後は、様子見の牽制。


 数度軽く棒を突き出して、相手の反応をうかがう。俺のフェイント気味の突きには全く反応しないところを見ると、相手選手はかなりの実力者のようだ。


 とはいえにらみ合っても仕方がないので、次は相手に当てる気持ちで突きを出していく。こうなると相手も受けざるを得ないので、大剣の最小限の動きで俺の突きをそらし、その上で一歩済み込んで俺に有効打を浴びせようとするのだが、突きでくるならはこちらでも簡単にそらせることができるし、大剣を振り上げればそのすきにこちらの突きを浴びせることができる。





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