第407話 探検5、穴の底2


 黒く見えていた小山に近寄ってみると、それはつばさをたたみ首としっぽを体に巻き付けるようにして丸くなったドラゴンだった。


「大きいな。これは、ドラゴンの亡骸なきがら? まるで生きてるように見えるな。色からいってブルー・ドラゴン?」


「そのようです。この大きさですと、おそらくはエンシャント・ドラゴンになる前に亡くなったのではないでしょうか」


「ということは、エンシャント・ドラゴンにはよわいを重ねていれば勝手に成れるんじゃないってことか?」


「それにふさわしい経験と十分な魔素を吸収する必要があるのかもしれません。

 同じような膨らみはまだたくさんありますから、この小島の中を確認してみましょう」


 マーサは既に言葉を失って俺たちにただついてくるだけだ。



 小島を見て回ると、何体もドラゴンの亡骸が砂の中に半分埋まるような形で残っていた。


「ここは、ドラゴンの墓場のようですね」


 象の墓場という言葉は聞いたことはあるが、ドラゴンの墓場か。どういう理屈かわからないが死骸が全て昨日亡くなったようにフレッシュだ。肉が腐って骨だけになったり、骨に皮がはり付いたようなものはどこにもなかった。


 こんなところに象の墓場よろしく死ぬ間際のドラゴンがやって来たのなら近くのモンスターたちが逃げ出すのも分かる。特に、それまでこの近辺で生存競争の頂点に君臨したであろうワイバーンなどは空を飛んでいれば目立つ存在だ。ドラゴンからいち早く逃げ隠れしたのだと思う。ワイバーンが移動してきた原因はドラゴンだったと考えていいだろう。


 死に際のドラゴンが、どの程度の頻度でここにやって来るのかはわからないが、ドラゴンがここで死んだあと、ワイバーンたちがこの近くまで戻ってくるにはそれなりの時間がかかるだろうから、数十年の間隔があるかもしれない。


「マスター、ここがドラゴンの墓場だとすると、光り物が大好きなドラゴンですから死ぬ前にここに運び込んで、どこかに隠しているかもしれません」


「ありうるな。よーし、もう少し詳しくミニマップを確認しながらあたりを調べてみよう」


「えーと、今度は宝探しですか?」


「ドラゴンはキラキラしたものを集める習性があるようなんだ。死ぬ前にここに来て、ここで死んでいったのなら、それまで住んでいたところからそういったものを運び込んで、どこかに隠している可能性があるからな」


 こういった会話をしながらも水煙で濡れた衣服から水滴がしたたっている。季節柄寒くはないが非常に不快だ。しかし、宝探しとなると俄然がぜんやる気が出てきた。


「探検には財宝があった方がラシイからちょうどいい。まずは、この島をぐるっと一周して見落としがないか確認していこう」


 ミニマップだけに頼らず目視で確認していきたいのだが、この水煙のおかげで今の俺の視界は10メートルほどしかない。視認についてはアスカに任せるほかないかもしれない。


 それでも、ミニマップと目視で丁寧に変わったところがないか確認しながら歩いていく。


「マスター、水の向こう、穴の壁が不自然に崩れているようです」


 今いる地面を取り囲んでいるのは50メートル幅のリング状の泉らしいのだが、俺の目では、水煙の向こうがはっきり見えない。


 ミニマップを目を凝らして見ると、アスカのいうような場所があるようには見えるがはっきりとは分からなかった。


「マスター、水深は胸まではないようですから、服もびしょ濡れですしそのまま歩いて向こうまで渡ってしまいましょう。

 マーサは水は大丈夫?」


「大丈夫です」


 結局、服を着たまま泉を渡ることになった。以前の俺だったら足がつくと分かっていても怖く感じただろうが、この前の水泳の特訓のおかげで何とも感じることはなかった。世の中なにが役立つかはわからないものだが、こうまですぐに役立つことは珍しいと思う。



 たどり着いた場所は確かに穴の壁が崩れて、泉の中に砂地が広がっていた。


 ミニマップをよく見ると、壁の崩れた先には空洞があるようだ。これは当たりだな。


「砂をどけてみる。『収納』」


 目の前の崩れた砂がなくなり、その先に空洞が現れた。奥の方は暗いが手前は今あけた入り口から光が入っているので近寄ればそれなりによく見える。


 そこには、キラキラ光るいろいろなものがゴミ山のように積まれていた。


「きれい」


 マーサにとっては、キラキラのゴミ山は美しく見えたようだ。人それぞれではあるな。


「あのブラックドラゴンも光り物をたくさん集めていたけれど、ドラゴンというのは整理整頓せいとんができないんだな。

 それでどうする? ここでより分けるか?」


「一応、人の骨などないようですから、マスターがこの山ごと収納して、屋敷の草地くさちにでも出してみんなで宝探しごっこをして遊べば楽しそうです」


「ほう、それはラッティーが喜びそうだな。それで行こう」


 一山ひとやま丸ごと収納したら、空洞が空っぽになった。


「マスター、せっかくですから、他にもないか壁際かべぎわを一周して確認してみましょう」


 

 アスカの後に続いて、壁際を歩いていく。足元の水はどうも壁の中に吸い込まれているようだ。上から滝になって水が落ちてきているんだから、どっかに流れ出てないと穴が水没するわけだから当然か。


 そういった感じで足元と壁を見ながら歩いていたら、先ほどのような空洞がいくつもあった。どうやら、ドラゴン一匹当たり一つの光り物置き場があったようだ。そういったわけで結局恐ろしいほどの光り物を収納してしまったのだが、これだと宝探しごっこも年に一度の定例行事にできる。



「こんなところかな」


「そうですね。ドラゴンの死骸はどうします? かなり価値があると思いますが」


「そうなんだろうけど、こうやって自分たちの死に場所を探してここに来て死んだわけだしそっとしておいてやろう。まあ、副葬品は全部いただいたから偉そうなことはいえないけどな。

 そういえば、ドラゴンの死骸にはどれも収納できそうな魔石は確認できなかった。死ぬ前に消耗したのか、死んでから消えていったのかはわからないけれど、魔石が自然に還ったんだろうな」


「他のモンスターも自然死したら、魔石を失って、この世界の中で魔素や魔力が循環するのでしょう。モンスターは自然とはかけ離れたものだと思っていましたが自然の一部なのですね」


「そうだな。ワイバーンにも卵があったし、モンスターと言っても普通の生物とそこまで違いがないのかもな。それじゃあ、今回はこれで帰ろう」


「了解」「はい」



 俺たちは『スカイ・レイ』に乗り込んで、マーサはタオルで濡れた髪の毛を拭き、俺とアスカは服を着替えたわけだが、アスカは全く周囲を気にかけることなくマッパになって俺の渡した自分の服に着替えた。


 そうなると逆に俺の方が非常に恥ずかしくなる。だからと言って、トイレに隠れて着替えたりバスタオルで隠しながら着替えるのもカッコ悪いので『スカイ・レイ』の後ろの方で二人にお尻を見せながら俺は着替えた。当然二人とも俺のお尻には何の興味もないみたいだった。




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