第414話 武術大会4、特訓3


「ようし、みんな集まったから、軽く準備運動から始めよう」


 見物人のシャーリーとラッティーも一緒になって全員でラジオ体操第1をアスカの前でえっちらおっちらおこなって、体がほぐれたところで、訓練開始だ。



「それでは、始め!」


 アスカの合図で、三人が俺を囲む、正面はマーサで、斜め後ろにエカテリーナとマリナの二人が木の短剣を構えている。


 マーサが両手で構える木製銃剣だが、非常にゴツイ。持ち手の方が太いので見た目はこん棒という感じではないが確かに少々のことでは壊れそうにない。


 昨日きのうと同じように、今日きょう相手さんにんの出方を待つしかないので、基本マーサの動きに注意を払いつつ、斜め後ろの二人を首を動かしながら横目でチラチラ眺める。


「マスター、収納は封印ですが、ミニマップは利用しても良いことを忘れていませんか?」


 そうだった。目の前の動きに集中してしまって、ミニマップに意識が向いていなかった。これなら後ろの動きもある程度わかるはずだ。


 ミニマップに注意を向けたとたん、


 トウ!


 マーサの気合の入った掛け声と同時に銃剣の突きをもろに受けてしまった。


 ダメージは全くないのだが、みぞおち辺りを強く押されたため体がやや『く』の字に曲がってしまった。マズいと思った時には、俺の胸にマーサの膝蹴ひざげりがヒットしていた。


 下から突き上げられた結果、今度は体がやや浮き気味に。


 そのまま、足を払われて仰向けに転がされてしまった。


 今日も青空がきれいだ。


「そこまで!」


 ダメージはないものの、非常にみっともない戦い方だった。


 マーサの連撃を予想していなかったのはマズかったし、あそこまでマーサが動けるとは思えなかったため不覚をとってしまった。確かに学校時代、近接戦闘・・・・でいい成績だったというのがうなずける。


 エカテリーナとマリナの二人、シャーリー、ラッティー、誰も言葉が出なかった。


 俺はすぐに起き上がり、ズボンに付いた土を払って、ちゃんと八角棒を構え直す。


「ショウタさん、今の連撃でも全くダメージないんですか?」


 マーサに心配というかあきれられてしまった。


「いやー、不覚をとった。ダメージはないけれど俺の完敗だったよ。だけど、マーサはすごいな」


「いえ、スーツのアシストがあったからこその動きです」


「そうだろうとやっぱりすごかったよ。気を引き締めて再開だ」


「それでは、始め!」



 今度は油断せず、マーサの動きを目で追い、斜め後ろの二人の動きは、ミニマップで軽く意識しておく。


 二人の体の位置はミニマップで分かるが、短剣の動きまでは分からないので、うまく合わせるのは難しい。それでもタイミングが分かれば何とかなりそうな気もする。


 先ほどと同じようにまずマーサが動いた。銃剣なのでどうしても突きから入ってくる。そこを慌てず軽く横に弾いてやる。銃剣で手は塞がっているが、マーサには足技もあるし、銃把じゅうはにあたる部分での横合いからの打撃もありそうだ。


 マーサの動きに少し遅れて、エカテリーナとマリナの二人が斜め後ろから切りかかって来た。


 まずはエカテリーナに半歩近づき何とかその一撃を八角棒で受け、同時にマリナの間合いを外すことができた。これならマリナの攻撃を受けることができると振り返ったところで、マーサから一撃をもらってしまい、結局マリナの攻撃も受け損なって一撃をもらってしまった。


「そこまで!」


 今回はいい線いったと思ったが、マーサが二人分以上の働きをする。



 そして、アスカの始めの声で、訓練再開。


「始め!」


 ……


「そこまで! 

 もうすぐ、昼食時ですし、午前の訓練はここまでにしましょう」


「みんなご苦労さん。アスカもありがとう」


 一応みんなに礼を言っておいた。午前の訓練と言っていたから、午後も訓練継続なんだな。


 まあ、アスカに相対あいたいして一方的な展開になるより、幾分こちらの方式の方が自分が進歩している実感があるからいいかもしれない。しかし、少々体を動かす程度では全く疲れないというのも考え物だな。俺はまだまだ大丈夫だが、マーサたち三人は大丈夫なのかな?



「マスター、私たちは午後一時より訓練を再開しましょう」


「さっきの三人は?」


「かなり疲れているようでしたので、午後からは見学になります」


「そうなのか。午後からは俺とアスカで訓練するわけだな」


「おいやですか?」


滅相めっそうもない」


「午前中の訓練はかなり効果があったようですので、午後からは、魔術攻撃に対する訓練を行いましょう」


「でもどうやって? 魔術なんてアスカは使えないだろ?」


「そこは、それなりに演出して何とかしますから大丈夫です」


「演出でか?」


「演出です。見た目が魔術なら何でもいいと思いますので、それなりのことができると思います」




 昼食をはさんで、訓練再開時刻になった。


 観客は、シャーリーとラッティーと午前訓練に付き合ってもらった三人だ。ヨシュアとマリアは午後も錬金術の仕事を続けている。


「訓練を始める前に、小道具を何個か作りますので、鉄のインゴットを6個ほどお願いします」


 言われるまま、鉄のインゴットをアスカの足元に置いてやった。


 何を作るのかと見ていたら、大きな三日月形をした鉄板が三枚と、中空の鉄球が三個ほどでき上った。ドッジボールほどの大きさの鉄球には5センチほどの孔が数カ所開いていた。


 どれも鉄のインゴット一つを使ってのものだから相当重いものだと思う。


「こんなところでしょうか。調べたところ、競技会などで使われる攻撃魔術は、ファイヤーボールとウインドカッターが主なものだそうです。今回作った、三日月型の鉄板とボールはそれぞれウインドカッターとファイヤーボールを表してしています。これを私がそれらしく操りますから、マスターはそれをけてください」


「アスカが操るってことは、俺を追っかけてくるのか?」


「いえ、ウインドカッターとファイヤーボールも追尾機能はない魔術のようですから、直進するだけです」


「それを聞いて安心だ」



「それでは、マスター、構えてください。……、行きます!」


 俺が八角棒を両手で構え、アスカのいう魔術もどきが飛んでくるのを待つ。アスカと俺の距離は10メートル。これだけの距離があればよほどの高速でない限り余裕でかわせるだろう。


 来た!


 まずは、ウインドカッターのつもりの三日月型の鉄板は一度アスカの胸辺りに持ち上げられたと思ったらいきなり俺の方に打ちだされてきた。


 これなら、余裕だ。


 左に二歩ほど移動することで軽く回避することができた。


「マスター、だいたい今くらいの速さがウインドカッターのスピードだそうです。練習ですからこれより若干速くすることもありますが、そこまで速くはしません」


 ウインドカッターのつもりの三日月型の鉄板では言いにくいのでこれからはウインドカッターくんと言うことにしよう。


 アスカが話している間に、今のウインドカッターくんがアスカの手元まで戻って行った。


「次は、ファイヤーボールのつもりの中空の鉄球です。ファイヤーボールの速さはウインドカッターより遅いようですが、ここでは訓練ですから同じくらいの速さで飛ばします」


 こっちは、ファイヤーボールくんだな。


 そのファイヤーボールくんが、いったんアスカの胸の高さまで持ち上げられて、俺の方に打ちだされてきた。


 当然余裕でかわせる。ただ、驚いたことに、中空のボールに何カ所かに空いた孔が空気を切るのか、「ボーー」という音を出しながら迫ってくる。その音がボールの空洞の中で反響するのかかなり大きな音がする。


 妙な演出だし、アスカが作った割に何だかショボいと思って笑ってしまった。


「マスター、あまり直進だけでは訓練にならないようですから、追尾に変更しましょう。魔術師の上位者なら、追尾型のウインドカッターやファイヤーボールを使ってくる可能性もあります」


「アスカは実際そんな魔術師がいるのを聞いたことがあるのか?」


「聞いたことはありませんが、妥当だとう推論すいろんです。備えあればうれいなし。そういうことです」


 ショボい演出などとつい思ってしまったばかりにアスカに根に持たれてしまったようだ。いまさらどうしようもないので、真面目まじめに飛んでくる鉄の塊の回避に徹しよう。


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