第415話 武術大会5、対魔術師訓練


 アスカの操る、魔術をしたつもりの三日月型の鉄の鉄板と穴あき鉄球。


 普通、魔術は直進するそうだが、そんなことはお構いなしにアスカがホーミングミサイルとしてあやつるのでそれを回避せよという。


 壊していいなら難易度はかなり下がるが、壊してしまうと、すぐにアスカが修理して、次はもっと難易度が上がることは目に見えている。


「まずは、エアカッターからいきます」


 アスカが胸の前に構えた三日月型鉄板が、風切り音とともに腰の高さで俺の方に飛んできた。ちょっと! スピードが前回と比べケタ違いに速いんですが?


 早めにけてしまうと軌道修正されるので、ぎりぎりのタイミングで避けなければいけない。


 ということで、腰の高さで飛んでくる鉄板に対して、しゃがむことで回避することにした。支えがないところで一気にしゃがもうとしたわけだが、思った以上にスピードが出せず、そのまま鉄板がひたいに当たってしまった。


 ガーン!


 鉄板の音なのか、俺の心の音なのか分らないような音が響いた。


 いたー、くはなかったが衆人環視のなか、地味に心が痛む。特に『うわっー』といった顔をそむけたシャーリーとラッティーを見るのがつらい。


 これには、他の見ている連中も相当驚いていた。それは驚くわな。


 鉄板はすぐにアスカの元に帰っていき、真ん中あたりが俺の頭の形にひん曲がった鉄板を、アスカが指で形を整えながら、


「マスター、下方向には重力を越えた加速はできませんから、しゃがみこむのではなく飛び上がるか横にけたほうが無難です」


 おっしゃるとおり。身をもって体感いたしました。なので、次回はこのような無様ぶざまさらさない。ハズだ。


 ただ、鉄板は横幅は1メートル50くらいあるので、上に逃れる方がいいのか、左右どちらかに逃れるのがいいのか判断に苦しむ。足に力が入るのは当然飛び上がる方だ。


「つぎ行きます」


 アスカの声と同時に鉄板が先ほどと同じコースで飛んできた。


 ここだ!


 十分引き付けて飛び上がった俺の足の下を、鉄板が通り過ぎて行った。


 フフフ。簡単にかわしてやったぜ。


 飛び上がった体が、体感的にはかなりゆっくりした速度で地面に向かって落ちていく。ひょっとしてこの状態はマズくないか。今は真下に落っこちるだけでどこにも動きようがない!


 ドスン!


 腰のあたりに衝撃を受けた。今回は予測していたためビックリはしなかった。


「空中に飛び上がってしまいますと、後は自由落下するだけですので、二撃目がある場合回避が困難になります」


 おっしゃる通りでございます。今回も身をもって感じてしまいました。


 やはり、左右へ華麗かれいステップ・・・・が必要なのか。


 ステップ? アッ! そうだ、ここはダンスのステップで華麗にかわせばいいじゃないか。


 よみがってきたーー! タンゴのリズムが頭の中で鳴り始めた。


 スロー、クイック、クイック


 スロー、クイック、クイック、スロー、クイック、クイック


 スロー、クイック、クイック、スロー


 いける。これならいける!


「さあこい」


「いきます」


 いかん! 最初がスローからだとちょっと厳しいか?


 なんとか右にステップを踏み、左の腰の辺りを三日月型鉄板が通り過ぎて行った。


 その三日月型鉄板が後方で旋回してまた俺の方に飛んでくる。ここで、


 クイック、クイック。


 決まったー!


 俺の脇を通過した鉄板がアスカの元に帰って行った。


「お見事です」


 これは華麗かれいに決まった。アスカはいつもの顔だが、シャーリーとラッティーが手をたたいて喜んでくれた。


 やればできる子なのだよ。俺は。


「それでは、次はエアカッター、二波でいきましょうか。マスターの能力で回避不能なコースは取りませんので、何とか回避してください」


 いきなり二倍攻撃か。だが華麗なステップを体得している俺に死角しかくはない! ハズだ。


 次の攻撃は、三日月型鉄板1号がまず俺の腰あたりを目指して飛んできた。一拍置いて鉄板2号が1号の左をややダブったコースで俺に向かってくる。当然俺は右にステップして1号をかわした。そしたら遅れて飛んできていた2号が方向を少し変えて俺に向かってくる。今度は左にステップでかわすことができた。


 そろそろ、1号が旋回して戻ってくる。これも華麗に躱したのだが、卑怯ひきょうにも2号がかなり手前で旋回を終えたようで、もう目の前に迫って来ていた。


 間に合わない。旋回を終えているのでその後の追撃はないだろうとふんで、その場でジャンプ。


 見事に決まって足の下を鉄板が通り過ぎて行った。


 スタッ。


 着地も決まったようだ。


「今回もお見事です。しばらく今のエアカッター二波で訓練を続けていきましょう」


 一度コツを覚えてしまったからには、そうそう失敗はない。



 それから何回かエアカッター二波攻撃で練習を続けたところ、


「エアカッター二波はこれくらいでいいでしょう。次はファイヤーボール二個で訓練しましょうか。ファイヤーボールは大きさは先ほどのエアカッターに比べれば小さいため軌道をかなり複雑なものにします。よく見極めて回避してください」


 また、難易度が上がるようだが、臨むところだ!



 撃ちだされたファイヤーボールてつのボールは俺に向かって、


 ボーーー。


 という音を立てながら直進してきたので無難に躱す。すでに撃ちだされていた次のファイヤーボールも最初の軌道は直線だったため難なくけることができた。


 問題は旋回した後のファイヤーボールの軌道だ。


 ブォン! ブォン!


 そんな音を立てて、旋回したファイヤーボールが斜め後ろからさらにカーブを描きながら俺に向かってきている。もう一つのファイヤーボールは逆方向に旋回したようで、俺を左右から挟み込む動きだ。


 そうと分かれば対処は簡単なはず。微妙に位置取りをして、二つのファイヤーボールが迫ってくるのを待つ。


 軌道が複雑に変わるとのことだからかなり引き付けてからでないと、躱すのは難しいだろう。


 ボー、ボー。


 飛んできた最初のファイヤーボールを華麗なステップで躱し、一拍遅れて飛んできたファイヤーボールが微妙にコースを変えるところを横目にもう一度同じ方向に躱してやった。


 今回もうまくいった。


 安心していたら、最初のファイヤーボールが急旋回して俺の側頭部を直撃。もう一つのファイヤーボールも急旋回して反対側の側頭部に命中してしまった。全く痛くはなかったが、今のはちょっと卑怯ひきょうじゃないかな?



[あとがき]

全く本文関係ないですが、ご参考までに。

カクヨムの表紙に『注目の作品』というのがあるんですが、あれに表示される作品は前日(何時から何時までが前日かは不明)に☆一つ以上あればランダムで表示されるということでした。作者側としては、自分の作品がそこに表示されても通知があるわけではないので、ほぼ見逃してしまいます。他にも方法があるのでしょうが、私の場合、カクヨム作品についてグーグルアナリティクスを入れているので、急に閲覧数が増えたりした場合表紙をチェックしています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る