第412話 武術大会2、説法


 今日たまたま全員フライトのないリディアたち四人娘。こんどの武術大会に出場するショウタがアスカと南の草原くさはらで特訓をするというので、軽い気持ちで見物に来ている。


「さっきのショウタさんの突きが見えた?」


「全然見えなかった」


「アスカさんの剣も見えなかったけれど、ショウタさんのあの突きよりも速いのよね」


「そうなんじゃない」


「この大陸で二人しかいないSランクの冒険者が目の前にいるってすごくない?」


「実感はないけれど、きっとすごいことなのよ」


「ショウタさんはいつもの八角棒を使っているけれど、本当はもっとすごい攻撃ができるんでしょ?」


「さっき、アスカさんがいってたじゃない、相手を一撃だって」


「そんなに強そうには見えないところが逆にすごいってことかしら」


「そうかも。だって、あの八角棒だって両手でやっと持ち上がるくらい重いって聞いたわよ。それを片手で楽々、目にもとまらぬ速さで振り回せるんだもの普通じゃないわよ」


「あたしたち、こんなすごい人たちのところに来れて本当にラッキーだったわね」


 ……。


「フフッ。リディアさんたちもそう思うでしょう?」


「ラッティーちゃん、どういうこと?」


「それはね、幸運の神さまのフーがこのお屋敷に来たことと同じ運命で決まっていたことなの」


「同じ運命?」


「そう、わたしも、シャーリー姉さんもみんな同じ。ここに来ることは運命で決まっていたの。その中心にフーがいたってわけ」


「ショウタさんとアスカさんが中心にいるんじゃなくて?」


「そう。そうなの。これはね、わたしたちが生まれる前から決まっていたことなの。

 遠い国からやってきたマーサさんが今この屋敷にいるのは、偶然に偶然が重なった結果かもしれないけれど、偶然に偶然が重なるってことはもうそれは必然なの。マーサさんもそう思うでしょ」


「はい。そうかもしれません」


「でしょ」




 アスカと杖術の訓練をしているのだが、俺たちの周りの観衆の中でラッティーが熱弁をふるっていた。何を話しているのかと思ったら、宗教活動だった。


 はっきり言ってこじつけもはなはだしい理論ではあるが真剣な少女の熱弁は話を聞いている者をその気にさせる効果があるのかもしれない。


 確か四人娘たちは既にフーの信者のはず。信仰心を維持するために信者に対して思いを新たにするよう働きかけているに違いない。


 まだ信者ではないはずのヨシュアとマリアの二人もラッテイーの話を聞きながらしきりにうなずいている。うーん。これは、マズくないか?



 などと、訓練そっちのけで耳をそばだてていたら、


「マスター、手がおろそかになっています」


 バシーーン!


 木刀で思い切り『進撃の八角棒』が弾かれてしまった。


 いたー、くはなかったが、手のひらがしびれてしまった。


「なあ、アスカ、相手の選手だけど、今のアスカの打ち込みくらい鋭い打ち込みができる選手が出てくるかな?」


「今の打ち込み速度を出せる選手はおそらくいないでしょうが、可能性はゼロではありません」


「そうかもしれないけれど、平均的な選手の実力も知っておいた方がいいんじゃないか?」


「平均的な選手の実力は、以前騎士団で手合わせした兵士くらいでしょう」


「そうなの? そうだとすると今さら俺が訓練する必要があるのか?」


「マスターはあくまで優勝を狙っているわけですから、出場選手の平均的な実力など意味はありません。ましてや、魔術師も出場する大会です。『備えあれば憂いなし』です」


「俺って、優勝狙ってるの?」


「もちろんです」




 そして、訓練はつづく。


 以前はアスカとこういった訓練だか稽古をしていると、精神的にも肉体的にも疲労感があったのだが、今日はそういった感じが全くしない。あの整体フルコースが良かったのかもしれない。あの時アスカが、思わせぶりに体を慣らすといっていたが、まさかこれが目的だったというのか? もしそうなら、まさに深慮遠謀しんりょえんぼうだ。


 それほど大げさなものでもないか。


「そうだ! ちょうどリディアたちもいることだし、四人組と俺とで対戦すればいい訓練になると思わないか?」


「そうですね、それはいいかもしれません」



「リディア、あなたたち四人、訓練用の木短剣があったでしょうから、各自、運動できる服装に着替えて木短剣を持ってここに集合」


 今まで気楽に俺とアスカの訓練風景を見ていたリディアたちに緊張が走った。すぐに四人は駆け足で自室に戻って行った。



 四人を待つことしばし、


「四人にもしものことがあるとマズいから、アスカがぎりぎりのところで止めてくれよ」


「もちろん事故は起こらないようにしますので安心してください。マスターとあの四人では実力差がありすぎますから、マスターは受けだけでお願いします」


 あの四人がどの程度の実力があるのかは分からないので何とも言えないけれど、妥当ところなのだろう。



「お待たせしました」


 息せき切って、リディアたち動き易そうな服に着替えて各自木短剣を持って帰ってきた。


「まずは、体を慣らすために四人は準備運動を」


 四人が軽く体を慣らすために準備運動としてラジオ体操を始めた。その間にアスカから、


「マスターからの反撃はないので、安心して四人で同時にマスターに打ちかかっていくように」


「四人同時で、良いんですか?」


「問題ない。四人の攻撃程度ではマスターのPAは破れないのでそこも安心していい」


 自信満々でアスカがそう言いうので俺も安心した。しかし四人同時にかかってこられてここちらは反撃なしとはかなり厳しいぞ。それでもアスカに相対あいたいするよりましなのは確かだ。





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