第410話 なんでもMONちゃん2


 整体術の施術しじゅつを受け、身も心もリフレッシュ。


 アスカに礼を言って二人で屋敷に戻る道すがら、


「これでマスターの体調も万全でしょう」


「まあな。若干釈然しゃくぜんとしないところもあるが、身も心もリフレッシュできたのは認めよう」


「でしたら、リフレッシュ度合いを確かめたくないですか?」


「リフレッシュ度合い?」


「リフレッシュしたことでどれだけ体の動きが良くなったのか試してみたくなりませんか?」


「試すことが簡単にできるならそれも良いけど、簡単じゃないだろ?」


「そこは任せてください」


「そ、そうなのか?」


「はい、先日マスターにもお話していました王都武術大会にマスターをエントリーしておきました」


「え?」


「『え』ではなく、エントリーです。もう組み合わせも決まっていてマスターはシード選手です」


「え? えええ?」


「エントリーです。ちょうどそこの掲示板に組み合わせ表がはり出されています」


 アスカの指し示す方を見ると建物の壁に板でできた掲示板が貼られ、そこに武術大会の組み合わせ表が書かれていた。


 試合はトーナメント形式で普通の選手は7試合、俺はシードなので6試合勝ち進めば優勝らしい。


「全国から厳しい予選を勝ち抜いた120名がここ王都で決勝トーナメントを行います」


「俺は厳しい予選に出ていないんだけど」


「マスターは、エントリー時にAランクの冒険者、最初から決勝トーナメントのシードが決まっています」


「そうなの?」


「そうなのです」


「それって、出場辞退できないの?」


「もちろん可能ですが理由もなく辞退するのは厳しい予選を勝ち抜いた方々に失礼ですし、顰蹙ひんしゅくものでしょう」


「うーん。それで俺の試合はいつから?」


「ちょうど二週間後になります。それまで私とみっちり・・・・訓練して優勝をねらいましょう」


「優勝を狙うの?」


「もちろんです」


「アスカは出ないの?」


「私が出てどうするんですか?」


「どうもしない」



 アスカのサプライズ攻撃を受けて、すっかり元気がなくなってしまった俺は、アスカの後をトボトボと歩いていたのだが、いやなことは一時でも忘れたくて、ワイバーンの卵の話を持ち出してみた。


「アスカ、そういえば、ワイバーンの卵を『なんでもMONちゃん』に持っていってみないか?」 


「全部は無理でしょうから、とりあえず一、二個くらい持っていってもいいかもしれませんね」


「それじゃあ行ってみよう」


「はい」




 アスカについて『なんでもMONちゃん』にやってきた。そういえば、ペットになったモンスターを連れている人を一度も街中で見かけていないのだが、みんな家の中で飼っているのだろうか?



「ごめんくださーい」


 そう言って店の中に入っていくと、店の奥の方から、店主のベレットさんがパタパタと音を立てて小走りにやってきた。俺たちの他にお客さんがいなかったが、ちょうどお客さんの少ない時間帯に来店したのだろう。


「『なんでもMONちゃん』にようこそ。どのようなモンスターをお探しですか?

 あれ? 以前スノーハスキーの幼体をお買い上げ下さったお客さんですね。あの子に何かありました?」


「いえ、シローと名付けて元気にしています」


「それはよかった。それで、今日はどういったお話でしょう?」


「実は、ワイバーンの卵を見つけたんですが、かえったとしてもうちでは飼えないので、この店で良かったら引き取ってもらおうかなと思って」


「ワイバーンですか。高ランクモンスターですが生まれたてのヒナの状態なら私でもテイムできると思います。そういった高ランクモンスターをテイムしたことがありませんので一度はテイムしてみたいと思っていたところです。代金はいかほどでしょう?」


「代金などりません。うまくヒナがかえったら見せてもらえればいいくらいです」


「ええー、そんなのでいいんですか? ワイバーンですよ」


「十分です。これなんですが、うまくかえるでしょうか?」


 そう言って、ワイバーンの卵を一つベレットさんに渡す。


 卵を両手で受け取ったベレットさんが、


「大きくてずっしり重たいです」


 確かに小柄なペレットさんがボーリングの球くらいの大きさの鼠色の球を持つと余計よけいに大きく見える。


「これって、どうやってかえすんですか?」


「ワイバーンの卵は初めて扱いますが、他のモンスターの卵同様、魔素を当て続けていれば自然にかえると思います。この大きさですから結構大量の魔素が必要だと思います」


「どんな形で魔素を当てるんですか?」


「小さな卵ですと、毎日数時間ずつ両手から魔素を放出することでもかえすことができますが、ここまで大きいものになりますと、魔石を敷いた箱の中でかえすことになると思います」


「結構大変ですね」


「何とかなるかならないか。うちにある魔石全部使ってもこの大きさのものをかえすには厳しいかなー」


「どの程度魔石は必要そうですか?」


「そうですねー。レベル2程度の魔石で二、三十個は必要かもしれません」


「それくらいなら問題ありません。魔石ならたくさん持っていますから、卵と一緒に提供しましょう」


「ええ、そこまでしていただくと、私の方が困ってしまいます」


「ほんとに気にしないでください。どこに置きましょうか?」


「今持っているんですか?」


「はい。収納に」


「そうなんですね。ありがとうございます。今箱を用意しますのでお待ちください。すみません、卵をお願いします」


 アスカがいったんペレットさんが抱きかかえていた卵を預かった。


 すぐにペレットさんは店の奥にパタパタと走っていき、木箱と厚手の布を持って帰ってきた。


「この中に魔石をお願いします」


 三十個とか言っていたけど多い分には問題ないだろうと思い、大量にあるレベル2の魔石の内、五十個ほどその箱の中に入れておいた。


「こんなにたくさん」


「レベル2の魔石はほんとにたくさん持っているので気にしないでください」


「ありがとうございます。これだけ魔石があると、卵はかなり早くかえると思います」


「どのくらい?」


「一週間くらいでしょうか? いえ、この魔石なら五日ほどでもかえるかもしれません」


「楽しみですね」


「はい。魔石の上にこの布を敷いて。卵は布の真ん中に置いてください」


 アスカが持っていた卵を慎重に布の上に置いた。岩の上に転がっていたようなものだからそこまで慎重になる必要はないと思うが、何となくアスカも場を読んだのだろう。


 この雰囲気ふんいきだと、ベレットさんに預けることのできる卵は一個が限度かもしれない。まあ、残った卵はいつまでも収納に入れておけば安全なわけだから、それでもいいだろう。




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