第404話 探検2、発見!


 早めの夕食を終えたころ、ようやく陽も沈んだようで、東の空にはすでに星がまたたいている。


「マーサはテントで休んでいいよ」


「はい。ありがとうございます。まだ寝れませんので、もう少し起きています」


 まだ時刻にして7時くらい。眠くなるはずないものな。


「マスター、お湯を沸かしてお茶でも入れましょうか?」


「ヤカンは、……、あった。あとはポットとお茶とマグカップかな?」


 収納の中で水樽からヤカンに水を移して取り出し、ポットとお茶っ葉入れと人数分のマグカップを並べて置いておく。


「あと、鉄のインゴット1つお願いします」


 アスカは俺から受け取ったインゴットを3つに切って、足の長いY字型の金具を二本、丸棒を一本作った。


 丸棒の真ん中には物をひっかけるためのかぎが付いている。Y字型の金具は簡易カマドの両脇に各々突き刺して、そのY字の窪みに横棒を置いた。ヤカンを横棒の鈎に吊るして準備できたようだ。


 俺には見慣れたアスカの金属加工だったが、マーサは金属塊を粘土のように簡単に加工するアスカの指先に目をみはっていた。ちょっと前に俺を尊敬のまなざしで見ていたのとは少し違う目だな。尊敬を通り越して崇拝すうはいかもしれん。


 まあ、アスカはアスカ。


 カマドに乾燥した木の葉を敷いてその上にまきを隙間ができるように組んでいき、指先ファイヤーで木の葉に火をつけたら、ほとんど煙も出さず薪に火が点いてくれた。


 しばらく三人でその火を眺めていたら、


「こうして、本物の火を見るのも幼年学校の時以来です」


『時の旅人』という言葉があるが、まさにマーサは完全な浦島太郎状態。彼女の知ってる人はおそらくみんな亡くなっているだろうし、近々では仲間二人を失っている。さらに、自国がどうなっているかも定かではない。


 これまで、孤児奴隷を何人も引き取ってきたが、マーサはそれ以上に孤独な存在なわけだ。俺のところに来たことは全くの偶然なのだろうが、俺からしたら何かしら必然的なものを感じる。


 ようやく湯が沸き、アスカがお茶の準備をしてくれて、ポットからマグカップにお茶を注いでくれた。


 辺りは星明りはあるが、カマド周辺以外の地面は真っ暗だ。


「星がきれい」


 確かにいつも通りの満天の星だ。


「宇宙船の中からの方が星はきれいに見えるんじゃないの?」


「光速にかなり近い速度で飛行していたため、星の光は前方に集中してしまって、観測窓から見える宇宙はほぼ暗黒でした。ソルネ4が十分に減速するまで、星々が満天に見えるということはありませんでしたが、その時には強行着陸の準備で星を見る余裕もありませんでした」


「ふーん、そうなんだ。真っ暗な宇宙を十数年か。うーん」


 当然だが並大抵のことじゃない。俺にはできないときっぱり言える。


 ああ、そういえば、アスカが一人でいた時間はマーサの比ではなかったな。正確なところは聞いていないが、千年ではきかないだろう。これも縁だよな。いや、俺の幸運のなせるわざか。


「マスター、盆地の中央あたり、何か薄く発光しているようですが、見えますか?」


 アスカの指さす方、盆地の中で盛り上がった台地が黒く見える。ここからだとその台地の上の方が一カ所わずかに青く光っているようで、その光が夜空にうっすらと柱のように立ち上がっているのが見えた。


「なんだろう?」


「明日の朝にでも確認しましょう」


「そうだな。あれがワイバーンが移動した原因なのかな?」


「直接的な原因ではないでしょうが何らかの関連がありそうです」


「うーん、それじゃあ、あの先に直接的な原因がいる可能性があるということかな? 直接的な原因って何が考えられる?」


「ワイバーンにとっての天敵のようなものでしょうか」


「天敵か。自分で言うのも何だが、モンスターにとって一番の天敵は俺だろう。他にどんな天敵がいるのかな?」


「マスターは別として、モンスターで言えば、頂点はやはりドラゴンですから、ドラゴンの影響範囲からは下位モンスターは逃げ出すと思います」


「ドラゴンか。強いという印象がこれっぽっちも湧かないが、確かにドラゴンかもしれないな」


「あのう、ドラゴンというのは?」


「マーサはワイバーンも遠くからしか見てないから実感はわかないかもしれないけれど、ワイバーンがもっと大きくたくましくなった感じかな。

 どれ、ちょっと暗くてよく見えないけど、ワイバーンとドラゴンを一匹ずつ出してやろう」


 少し離れたところに、例のレッドドラゴンとワイバーンを一匹ずつ出してやった。


 明かりが星明りと簡易カマドの焚火たきびしかないので細部までは良く見えないが、真っ黒に見えるワイバーンと、それより、二回りも三回りも大きなレッドドラゴン。レッドドラゴンは火に照らされたところだけは赤く見える。


「大きい方がレッドドラゴン、それなりに大きいだろ? こいつはドラゴンの中では大きい方ではないようだけれど、それでもこれだ。こんなのがいたら、ワイバーンも逃げ出したくなるだろうな。俺の知っている、というか今も収納庫の中に入っているブラックドラゴンはこいつの何倍も大きくて空も飛んでたからな」


「マーサ、自慢にはなるが、ドラゴンだろうが何だろうが、モンスターならマスターが一撃でたおせないものはいないので安心していい」


「モンスターだけな。そのほかはアスカが簡単に倒してしまうから俺たちは今まであぶない目に遭ったこともないんだ。それじゃあ本当はマズいのだろうけれど、アスカが油断することは絶対にないから問題ないんだよ」


「ショウタさんはアスカさんを本当に信頼しているんですね」


「それはそうだ。アスカはの最強のガーディアンだからな」





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