第403話 探検


 午前中にワイバーンを斃しながら営巣地えいそうちを五カ所ほど破壊してそこにあった卵を全部で30個ほど見つけて収納した。


 冒険者ギルドからの依頼は達成したが、ワイバーンが山地の周辺部まで移動してきた原因を予定通り調べるつもりだ。原因は当然、山地の中央部分のどこかにあるのだろうとは見当はつく。


「マスター、これから先は山並みの標高がかなりあるようですので、『スカイ・レイ』で山地の中央方向に進出することが困難になります」


 山地の中央方向は北西の方角になるのだが、ここから先、その方向の山並みが急に高くなっている。


「『スカイ・レイ』で行けるところまでいって、そこからは歩きだな」


「了解。できるだけ北西方角に進み、着陸可能な場所を探します」




 それからしばらく『スカイ・レイ』が北西方向に飛行を続けた。地表との高度差は100メートルもない。



「マスター、前方に着陸可能な場所を見つけました」


「そこに着陸してくれ。下りたらそこらで昼食にしよう」


「了解」



『スカイ・レイ』が着陸した場所は、立木たちきがちょうど生えていない30メートル四方の空き地だった。広さからいって『スカイ・レイ』がぎりぎり着陸できる広さだったが、アスカの操縦で難なく着陸した。


 やや傾いて着陸した『スカイ・レイ』から外に出てみたところ、地面が土ではなくて岩だったようで、ところどころに草が生えているだけの空き地だった。


 ミニマップで周辺を確認すると少し離れた場所にモンスターの気配があるようだが、大型のものではないようだ。こちらにやって来るようなら駆除するが、面倒なので放っておくことにした。



 すぐに『スカイ・レイ』を収納し、いつもの布を広げて昼食をとり始める。


 食事しながら山の方を見ると、山歩きの感覚で何とか登っていけそうな感じだ。本格的な登山などしたことはないが、アスカの位置把握能力と今の俺の身体能力があれば何とかなるだろう。


 マーサの宇宙服にはパワーアシストが付いているそうで、数カ月間は今使っているパワーパックが切れることはないそうだ。因みに予備のパワーパックも何個か屋敷の部屋に置いているし、宇宙船に戻れば空になったパワーパックの再チャージもできるということだ。



「ここで少し休憩して、それから4時間くらい登った先でキャンプできそうな場所があればキャンプの用意をしよう」


「了解」「はい」



 俺とアスカは例のサファリ帽子をかぶって準備万端。マーサにも帽子があればよかったが、未来的な宇宙服を着た上にそこらの帽子をかぶると妙に浮きそうなので、俺の持っているつば広帽テンガロンは勧めなかった。


 1000メートルちょっとの標高では、山の中は普通の森と植生しょくせいは変わらないようで、道のない山を登るのは木々が邪魔になって思った以上に速度がでなかった。


 アスカが木を払いながら進もうかと言ってくれたが、山登りをするためだけに木を伐採ばっさいしながら進むのはあまりに自然破壊っぽいので、立ち木を迂回うかいしながら山登りを続けた。


 速度は出ないといってもわれわれの基準での話なので、一時間も歩けば10キロは進んでいる。登りの途中、平地や下りもあるので、標高として5、600メートル程度登ったようだ。その間モンスターには遭遇しなかったし、ミニマップにもモンスターの気配はなかった。


「マーサ、1時間ほど山歩きをしたけれども大丈夫か?」


「はい。問題ありません」


「わかった。それじゃあ、もう1時間ほど登ったら休憩しよう」


「はい」「はい」




 さらに1時間、山を登った。


 休憩では、腰を下ろして水分補給できればいいくらいなので、適当に斜面に腰を降ろし、大き目のコップにジュースを注いで二人に渡し、俺もコップに注いだジュースを飲んで一息入れた。こういった時は冷たくなくても甘めのジュースがいいようだ。


「アスカもマーサもジュースのお替わりはどうだい?」


「それでは、もう一杯お願いします」「私はこれで十分です」


 アスカのコップにピッチャーからジュースを注いでやり俺ももう一杯ジュースをお替りした。



 一息ついたので、二人からコップを回収し、山登りを再開する。



 それから一時間ほど山を登ったところで尾根おねに出た。


 尾根の周りは岩肌になっていて、立木たちきも背の高いものは近くに生えいないため見晴らしが非常に良い。


「どこか変わったところがないか見下ろしながら尾根の上を進んでいきましょう」


「了解」「はい」


 尾根の上を北西方向に進む気持ちで俺たちは歩いて行った。山の尾根はけっこう起伏や凸凹でこぼこがあり歩きにくかったがその程度ではスピードは落ちなかった。



「マスター、この山の先には盆地が広がっているようです」


 確かに、数キロ先から平地が広がって、さらにその先には遠く山並みが見える。ここから見た限り盆地には大きな木は生えていないようで、草原そうげんのように見える。


「まだ、陽が沈むまでには十分時間があるから、山を下って盆地に出てみよう」



 また、木立を縫っての山歩きになるが、斜めに下りていく感じで進みつつ盆地を目指した。



 木々を抜けた先に広がっていたのは、確かに草原そうげん


 草をかき分け、少し進んだところで、


「ここらで、今日はキャンプをしよう」


「はい」「はい」


「それじゃあ、まずは俺が『なんちゃってエアカッター』で草を刈っておく」


 シュパシュパシュパッと草を刈って、マーサにいいところを見せてやったところ、こういった小技も初めて見れば新鮮だったようだ。尊敬のまなざしで見つめられてしまった。


 とはいえ、本気モードのアスカをマーサが見てしまうと、尊敬のまなざしはアスカに奪われてしまうとは思う。負けてはいないからな。だって、俺はアスカのご主人さまのはずだから。そうだよね?


 一応地面の整備を終えたので、最近出番の無かったテントを出した。


 テントには、無理すれば二人入って寝られるかもしれないが、俺とマーサが使う訳にもいかないので、マーサ一人に使わせればいいだろう。


 テントはいつぞや俺が使ったまま収納していたので、中に毛布などが乱雑に広がったままだった。


 マーサに使わせるには少しみっともないので、中の毛布などを収納して、新しいのを3枚ほど入れておいた。


 俺とアスカは外でも構わないし、眠くなったら、草の上に毛布を敷いて寝ても良い。


 アスカにテント用の杭を打ってもらってロープで固定してテントの設営は完了。



 次は、食事の準備になる。


 いろいろ食べ物は収納に入っているので食事の準備は必要ないのだが、キャンプのつもりで、石を組んで簡易カマドを作ってみた。収納の中にはすみもあれば乾燥したまきもあるので非常に便利だ。



「アスカ、いちおうカマドらしきものを組んではみたけれど、特に料理するものもなかったな」


「夜間の焚火たきび用と思えばちょうどいいでしょう」


「そうだな」


 以前作っておいた薪をカマドの周りに山にしておいた。


 暗くなってしまうと嫌なので、布を敷いた上にどんどん料理を出していき、食事を始めた。



 今いる場所は盆地なのですぐに日陰になってしまったが、当然あたりはまだ明るい。


 先ほど草を刈り取った地面の上に布を敷いているだけなので、むっとするほどではないが草の臭いがそれなりに強い。


「草のにおいが新鮮です」


 長いこと宇宙船の中にいたマーサは、こういった感想を持つか。


「食べものも何を食べてもおいしいし」


 チューブに入った栄養食もまずいものではないかもしれないが、楽しんで食べるものではないだろうしな。


 とにかく、マーサの宇宙船がこの星に辿たどり着いたことは、仲間が亡くなったことをいてもそんなに悪いことではなかったかもしれない。



[あとがき]

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