第399話 ワイバーン、着替え


 冒険者ギルドのスミスさんにおだてられ、気分よくワイバーン討伐の指名依頼を受けた。前々から気になっていた案件だったので、報酬ほうしゅうもかなりのものだし、ちょうどいいといえばちょうどいい。


 ワーバーンの営巣地を四つ全部破壊して、目に付いたワイバーンをたおしていけば大金貨で1000枚近くになりそうだ。ミニマップを見ながら『スカイ・レイ』で営巣地のあるあたりの上空をしらみつぶしに飛び回るだけの簡単なお仕事だ。何日かかるかはわからないがそんなに時間はかからないだろう。ほくほくの一仕事だな。



 冒険者ギルドから屋敷まで駆けて戻り、その日は明日以降の仕事の準備をして終わった。


 準備と言っても、仕事先での食事の準備をゴーメイさんに頼むくらいで、俺自身には準備という準備はない。



 夕食を終えて居間で寛いでいたら、アスカが、


「マスター、マーサですが、みんなと溶け込んだようで二階で何やらラッティーたちと遊んでいるようです」


「マーサの話によると、たった三人で12歳から宇宙船に乗って旅をしていたんだものな。もしも今から国に帰ったとしても完全な浦島太郎だろうし、仲間の二人も亡くなってしまって、それはさびしいだろう。いいんじゃないか」


「そうですね。それで、マーサがマスターと私に、亡くなった二人の宇宙服を着てみないかと言っていました。どうします? 私自身は、不要なので断りましたが、温度、湿度調整機能などがついて非常に着心地がいいものだということでした」


「興味はあるけれど、俺にはあのぴったりフィットの全身タイツ姿で外を歩く勇気はないな」


「分かりました。良かったら私が、マスター用に上下を作りましょうか? 先日の生地屋でいろいろ生地を購入していますから簡単に作れます」


「ありがとさん。海パンは仕方ないけれど、できればゆったりした服がいいな」


「わかりました。明日の朝までには仕上げておきます。そうですね。風通しのよさそうな帽子も一緒に作ってしまいましょう」


「ほう、それは楽しみだ」


 アスカは前回の水着以来裁縫さいほうに目覚めたのかしらないが、何をやってもそつなくというか一級品を作ってしまうので、今回は普通の衣服だし期待が持てる。明日が楽しみだ。





 そして、翌朝。


 日課を今日もマーサも含めてこなした後、昨日アスカが言っていた上下ができ上っているというので、朝食前にアスカの部屋に。 


 アスカが、机の上に置いてあった上下を俺に渡してくれた。


「一応夏ですので、半そでの開襟シャツを作ってみました。下は膝丈の半ズボンです」


 カーキ色の開襟シャツに半ズボン。まさにサファリ仕様の上下じゃないか。これはいい。上下とも無駄とも思えるほどたくさんのポケットがついている。だがそれがいい。


「それと、帽子です」


 これもカーキ色でサファリ帽とでもいうのか、麦わら帽子型だが、頭の部分が入るところが丸くなっていて、ところどころに空気抜きの孔が空いており、アゴ紐が飾りでついていた。生地はかなり厚手でしっかりした帽子だ。帽子の内側にはメッシュの生地か張ってあり、通気は良さそうだ。カッコいいぞ。


 この三点で揃えれば、まさにサファリルックだ。とはいえ、サファリの意味を俺はよくは知らないがな。しかも履くのは『大盗賊のブーツ』だ。そこだけは少し浮くな。ドラゴンの革もあることだし、そのうちアスカにカッコいい革靴を作ってもらえればいいな。そしたら、アーティファクトとは言わないまでもそれに準じたような靴ができそうだ。


「どうです?」


「ありがとう。今回の仕事に着ていくのが楽しみだ」


「私もお揃いで作りましたから、食事のあと着替えます」


「アスカとおそろいか。それも楽しみだな」


「それじゃあ、そろそろ食事に行こう」


 アスカの帽子を預かり、俺の帽子と一緒に収納しておいた。




 朝食中、俺とアスカで長くて一週間ほど留守にするとみんなに伝えておいた。そのあとマーサから貰った通信カードをハウゼンさんに使い方の説明をして渡しており、もしものことがあればそれで連絡してくれるよう頼んでおいた。もちろん試しにアスカとハウゼンさんで使ってみたのだが、隣の部屋にいてもちゃんと会話ができたので相当みんなも驚いていた。これで、わざわざ俺たちが留守の間、ペラを屋敷に呼び戻さなくてもいいだろう。


 その後いつもなら居間で寛ぐところ、自分の部屋に戻って、さっそくアスカの作ってくれたサファリルックに着替えてみた。


 鏡に映した自分の姿は、ことのほかサファリだ。


 帽子がまたしゃれていて。飾りの紐を伸ばしてアゴにかけるとちゃんとアゴ紐として役に立つ。これなら強風でも安心。裏側のメッシュに俺の坊主頭の短髪がこすれるのだが何だか新鮮で気持ちいい。


 アスカもそろそろ着替えたろうから、部屋の中から隣の部屋にいるはずのアスカに声をかけた。


「おーい、アスカも着替えたか?」


『はい。今そちらに』


 俺の部屋とアスカの部屋は中で机の横の扉で繋がっている。因みにその扉の反対側がお互いの寝室になっているのだが、その真ん中の仕切りの扉からアスカが着替えてやってきた。


 いいねー。なかなかいい。


 今回の服は、下は膝が出るくらいの丈のキュロットスカートで、上に着ているシャツは俺の着ている物とほとんど同じだ。帽子も同じものを被っていて、帽子の脇から流れている銀髪がきれいだ。もとよりスタイルはいいのでたいていの衣服が似合うが、こういった活動的な格好も新鮮だ。


 アスカは髪の毛の動きが制限されるのでかみかざりなども以前は敬遠していたが心境の変化でもあったのか? アスカが髪の毛をどうしても使わなくてはならない状況など想定できないものな。




 いずれにせよ、俺とアスカの衣装がペアルックなのは一目瞭然。この場合そういった関係だと傍から思われはしないか? なんてね。


「マスター、どうでしょうか?」


「なかなかいい。と月並みな言葉でしか言い表せないけれど、良く似合っている」


「ありがとうございます。作った甲斐がありました」


 おっと、少しほほ笑んだのではなかろうか。確かに美人ではある。




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