第398話 雑用を片付けて、指名依頼
午後から何もすることがなかったので、商業ギルドから依頼されていたレールなどのレール敷設部材を王都南駅の倉庫に運ぶことにした。マーサを連れて高速走行はできないので、屋敷で自習しておくようにアスカが適当な本を渡したようだ。どうせ放っておいても暇にしている連中が多いので、ちょっかいを出していい語学勉強になると思う。というか、語学勉強はもう不要かもしれないので、ただの雑談になるのだろう。
今までアスカと走るときは、俺が風を感じながら前を走り、その斜め後をアスカが走っていたのだが、ふとスリップストリームなる言葉を思い出してしまった。
「アスカ、俺の前を走ってくれるか? アスカを風よけにして俺が走るから。そしたら、かなりのスピードがでそうだろ?」
「マスター、分かりました。やってみましょう。走行時、急減速や方向転換などありえますので私の動きをよく見て合わせてください」
「了解」
「行きます!」
最初、普段の高速走行並みのスピードで駆けているアスカの後ろについて俺も駆けるのだが、たかだか時速20キロ程度ではスリップストリーム状態にはならないらしい。
「アスカ、もう少し早めてくれるか?」
「はい。時速30キロまで徐々に上げていきますから、マスターが走りやすくなったところで声をかけてください」
「了解」
「いきます」
だんだんアスカのスピードが上がって来た。まだまだいけそうだ。
結局時速30キロではスリップストリームの恩恵を感じることができなかった。
「アスカ、40キロまでゆっくり上ていってくれ」
「いきます」
時速40キロだと100メートルは何秒だ?
「9秒
辛くはないのだが、オリンピックの短距離走者を軽く上回る速さで長距離を走っているという事実が怖い。
「これで、時速40キロです」
「うーん、なかなかスリップストリーム状態を感じられない」
「これが時速100キロを超えるくらいだと意味があるかも知れませんが、マスターの実力からいって、スリップストリームがあろうがなかろうがこのあたりの速度帯ではあまり差は出ないのではないでしょうか?
マスター、駅が見えてきました」
「仕方がない、あまり複雑なことをしても動きも制限されるから無意味だったみたいだな」
「無意味とは言いませんが、いろいろ試していけばまた何か新しいことが分かるかもしれません」
「そうだな。あれが倉庫かな。ずいぶん大きいな」
「一山200本としても、レール2000本となると山が10個必要ですから仕方ないでしょう。レールを台車に乗せるにも滑車か何かで釣りあげる必要があるでしょうし」
「そう考えると、アスカはそんなこと関係なく右に左に重たいものを移動できるものな」
「マスターも収納を介せば
「自分で言うのもなんだけど、土木機械という意味では相当高性能だよな」
高速走行中でも普通に会話ができるのもすごいよな。
駅から東方向に少し伸ばされたレールが分岐して機材倉庫と思しき建物の中に入っている。
倉庫はレールの上の扉が閉まっていたので、勝手入るわけにもいかないので、人を探して駅の方に歩いていたら、俺たちを見つけた駅員らしき人がやってきてくれた。
「コダマ伯爵さまとエンダー子爵さまですね。お待ちしていました」
そういえば、俺たちは貴族さまだった。たまにそう言って呼ばれると新鮮だ。
もう一度三人で倉庫に戻ったところで、駅員さんが扉を開け中に入った。
「レールはこのあたりから、あの辺りにお願いします。その他の部品は、奥の方にお願いします」
駅員さんに指示されるまま、レールを置いて行き、連結部品や犬釘なども指定の場所に置いておいた。
駅員さんは、手に紙たばをもって、
「受け取り確認証は後日お送りします。今日はありがとうございました」
これから数量を確認していくのだろう。
俺とアスカは、これで仕事はなくなったので「後はよろしく」と、一言ことわってその場を後にすることにした。
簡単な仕事を終えたが夕方まで時間はだいぶある。
「アスカ、
「分かりました」
今度は普通に俺が前になって高速走行をすることにした。確かに、前にアスカがいようがいまいが風の抵抗にはほとんど変わりはなかったようだ。
冒険者ギルドのホールに入って、見回すと、ちゃんとスミスさんが立っていた。向こうも俺たちを見つけたようで、
「これは、わざわざお越しいただきありがとうございます。お二人にギルドよりお願いがありまして、午前中お屋敷に伺いました。詳しいことは、応接室でお話しいたしますので、こちらにどうぞ」
スミスさんの後について階段を上って4階に。エレベーターもないのに応接が4階にあるのはちょっとお客さんからすると大変だと思う。まあ、ここの2階には冒険者のための施設もあるようなので、商業ギルドと比較するのは酷か。
「どうぞおかけ下さい。資料などありますのですこしお待ちください」
応接室に入ってすぐにスミスさんは席をたった。
アスカと二人、俺はソファーに腰を掛け、アスカは俺の後ろに立ったままで、スミスさんを待っていたら、職員の女性がお茶を三人分持ってやってきた。
すぐにその女性は一礼して部屋を出ていったので、アスカに、
「アスカも、お茶を立って飲むのも変だし、座っていた方がいいと思うぞ」
「分かりました」
そう言って俺の右、扉側に座った。
「お待たせしました」
女性が部屋を後にして間もなくスミスさんが戻ってきたのでさっそく依頼の説明をしてもらった。
「ご存じかと思いますが、北の街道、西の街道で1年ほど前からワイバーンが目撃されていました。
目撃情報だけで被害もその時点ではなかったため、担当の地方ギルドで簡単な調査をするのみの対応をしていたのですが、3カ月くらい前から、家畜などへの被害も出てきたため本格的調査を複数の担当ギルドで行ったところ、ワイバーンの
担当地方ギルドではワイバーン討伐は無理ですので、ここ冒険者ギルド王都本部に討伐依頼がもたらされたというわけです。
そういうわけで当ギルドがほこるナンバーワン冒険者パーティーのお二人にワイバーン討伐を指名依頼させていただきたいということです」
「分かりました。要はワイバーンを見つけて退治すればいいということですね?」
「はい。こちらの地図。大まかですが、現在見つかっている、ワイバーンの営巣地です」
スミスさんが持参した地図をテーブルの上に置いたので、のぞき込むとそれらしい地図の上に、4カ所ほどワイバーンの営巣地を示すように赤丸が描かれていた。
「この赤丸で囲んだ場所に、少なくとも10匹はワイバーンがいたとの報告があります」
印のあるのは山の中なのだが、『スカイ・レイ』の上昇限度を超えるような山々があるようだと、適当なところまで『スカイ・レイ』で近づいて、そこから徒歩になるのだが、その辺は大丈夫だろうか?
「ということは、四カ所で合計40匹以上ということですね。あと、この地図では分かりませんが、標高はどの程度になりますか?」
「具体的には分かりませんが、現在見つかっている営巣地はだいたい標高1000メートル内外だと思いますが、山地の中央に近い山々は2000メートルは超えていると考えてください」
「わかりました」
「ワイバーンが40匹以上いることが確認されていますので、全て退治するのは難しいでしょうから、優先順位をつけて、まずは北街道に近いこの営巣地、次は東街道に近いこの営巣地。あとの二つはもしも可能ならで構いません。報酬は、営巣地一カ所の破壊につき大金貨100枚、ワイバーン1頭につき大金貨30枚。またワイバーンについては別途素材として買い取らせていただきます。魔石込みだとおそらく大金貨30から40枚になると思います。その中で魔石は大金貨10枚相当だと思います。当ギルドとしてもお二人以上の戦力は無いわけですから、期限はなるべく早くということで結構です」
ギルド最高戦力か。実力的に言えばもちろんそうだと俺も思うが、面と向かって言われるとちょっとばかし嬉しい。スミスさんは人の使い方がうまい。
「できるだけ頑張ってみましょう。
アスカ、何か問題はあるか?」
「あのワイバーンですから、問題は何もないでしょう。ただ、いきなりワイバーンが二つの街道に近づいてきた理由は気になります」
「そこらも、時間があったら調べてみるか。アスカ、地図は覚えたか?」
「大丈夫です。記憶しました」
「ありがとうございます。それとですね。今回の依頼をお二人が達成されましたら、ギルドとして、これまでなかった新しいランクとしてSランクを設け、お二人に最初のSランク冒険者になっていただきます。その際には、各国のギルド本部にも通達を出しますのでご了承ください」
Sランクか。どんなカードになるのか知らないけれど、カードを隠してどこかの冒険者ギルドにいって絡まれるのも楽しそうだ。そこで絡まれたら、カードを見せてやってビビらせる。これぞ水戸黄門の印籠効果だな。
「マスター、悪い笑顔をしていますよ」
バレたか。
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