第397話 ソルネ4、収納待機
宇宙船用の燃料や各種資源を回収するため海水を取り込むのに三時間かかるという。
その間、操縦室にいてもつまらないし何かやらかしてもいけないので、艦内を見せてもらおうと思ったのだが、基本的に人間が自由に出入りできるのは、ここ操縦席と、一層下にある個人住居区、そして後部にあった二部屋だけだそうだ。個人住居区はさすがにプライベート空間だろうから見学は遠慮しておいた。
宇宙での食事についてマーサに尋ねたところ、船内には調理設備などなく、食事は全てチューブに入った栄養食だけだったそうだ。詳しくは聞かなかったが、
「それじゃあ、そろそろ昼だから何か食べようか? 操作机の上に何かこぼしてしまったらマズそうだから外に出よう」
「はい」「はい」
なんだか、アスカとマーサが似てきた気がする。アスカが語学教師をしている関係で話し方が似ている。声まで似ている感じがしてきた。ただ、マーサの場合、軍隊言葉なのか、最初に『はい』をつける癖があるようだ。
その方が都合がいいものな。誰にとってとは言いません。
食事が終わってしばらくしたら海水の取り込み作業も終わっているだろう。
そういうことで、またあの丸石に座って石のテーブルを囲み、少し早いが食事にすることにした。
いつもの俺の保存食を並べて、いちおう「いただきます」
日の当たる場所なので、少し日差しが気になる。
食べながら、マーサが、
「先ほどショウタさんに預かってもらった荷物を出していただけますか?」
マーサの横に預かっていた私物だという取っ手の付いた箱型の荷物を出してやった。
どこを触ったのか分からなかったが、その箱のふたが開き、中からカードのようなものを二枚マーサが取り出した。
「通信用の小型端末を持ってきましたので、お二人で使ってください。使用法は、相手の名前を最初にカードに向かって言うだけで、相手につながります。カードが接続先を類推しますので正確な名称である必要はありません。
ある程度の
かなり丈夫なものですから一般的な使用で壊れることはないと思います。内部は電池で動作していますが、おそらくあと20年は使用できると思います」
「おう! これはすごい。マーサありがとう」
「マーサ、ありがとう。
マスターと私はいつも一緒ですから一つは屋敷に置いておきましょう」
「それはいいな」
「その二枚は亡くなった二人の物でしたが、工作機械が動かせるようになったら、何個か作りましょう」
「そいつはありがたい。そしたら冒険者学校のペラにも渡しておけるしな。ちょっと試しに使って見るか。
『もしもし、アスカ?』」
アスカのカードが軽く振動している。そういったところは地球と同じだな。
「『はい、アスカです』」
「これって、通話を切るのはどうするの?」
「しばらく放っておけば接続は自動で切断されます。明示的には『通信終わり』とかそれらしい言葉を言えば切断できます」
「ただ、話しかければいいってことか。分かった。無くさないように収納に入れておこう」
「マスター、収納庫に入れていてはあまり意味がないのではありませんか?」
「よそから呼び出された時、分からないものな。それじゃあ上着の胸ポケットか。いまは上着を着ていないからズボンの尻ポケットだな。慣れないと忘れる。やっぱり、アスカが持っててくれよ」
「分かりました」
アスカにカードを渡したら、どこかに仕舞ったようで見えなくなった。
マーサは自分のカードを見て、
「あと、もう少しで海水の取り込みは終わります」
マーサのカードは宇宙船のコントロールと連動しているのかもしれない。俺たちのもらったカードに通話以外の機能があるのか知らないが、俺とアスカのカードは俺が何かやらかしそうだから、間違っても宇宙船に連動してほしくはないぞ。
それからしばらくして、海水の取り込み作業は終了したようだ。
「マーサ。まだ時間があるけれど、他に何か作業をしておくかい?」
「はい。いいえ、これからの作業は一区切りまでかなりの時間がかかりますから、これくらいにしておきます。一年後再開できれば十分です」
「わかった。それじゃあ、屋敷に帰ろう。宇宙船は収納しておく」
宇宙船を収納して、代わりに排出した『スカイ・レイ』に搭乗して、俺たちは屋敷に帰った。
屋敷ではちょうど昼食時だったが、さすがにもう食べられないので、食堂に顔だけ出して居間の方で三人で寛いでいたら、ハウゼンさんがやって来た。
「午前中、冒険者ギルドのスミスさまがいらっしゃいましたが、お二人は不在と申したところ、明日またいらっしゃるそうです」
「了解しました」
冒険者ギルドか。何の用事だろう? 思い当たる節はワイバーンのことくらいだが。
「それと、商業ギルドから手紙が届いています」
渡された手紙を開くと、
キルンまでの測量はまだ完了してはいないそうだが、王都から100キロほどは敷設の目途が立ったそうだ。まずは、25キロ分、2000本のレールと、関連部品を王都南駅に新設した資材置き場に提供してほしいというものだった。
いつ行っても資材置き場では受け入れ態勢はできていると手紙にあったので、もう少ししたらアスカとランニングを兼ねて行ってみることにした。
将来的に、マーサの技術が鉄道も含めて幾分でもこの世界に転用できればすごいことになると思うが、言葉通り将来のことなのでどうなるかは分からない。
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