第396話 ソルネ4、診断プログラム


『スカイ・レイ』に乗りこんで例の小島に飛び離着陸場に到着した。


 宇宙船を収納した跡は入り江から続いた窪地くぼちになっていたので、海水が流れ込んでいて、入り江が島の中央まで伸びたような形になっていた。


 ということで、そこには宇宙船を出さない方が良さそうなので、離着陸場にかかるような感じで手前に少しずらして宇宙船を収納から出してやった。


「マーサ、こんな感じで宇宙船を出しておいたけど、これでいいだろ?」


「はい。ほぼ水平ですし、作業に支障はありません。すぐに中に入って診断プログラムを走らせます」


 そう言って、マーサが一人で宇宙船の中に入って行った。俺とアスカは彼女について行っても仕方がないの外で待っておくことにした。


 内部診断にどの程度の時間がかかるのかは聞かなかったが、いくら長くても丸一日かかるということはないだろう。


 そう思って前回置いたままにしていた丸石の上に腰を掛けてアスカと宇宙船の前で待っていたら、20分ほどでマーサが宇宙船の中から出てきた。マーサは手に取っ手の付いたキャリーバッグのようなものを持っていた。


「診断プログラムを走らせました。完了まで約1時間かかります。それで、私物などを持ってきました」


「それじゃあ、その間に何かできることはないかな?」


「はい。特にはありません」


 はっきりできることはないと言われるとそれこそ何もできない。


「それじゃあ、その間何をしておこうか? 三人でバーベキューをしても、朝食べてそれほど時間も経っていないし」


「それでは、たまに杖術の訓練でもしますか? 近いうちに王都で武術大会があるそうですよ」


「武術大会が開かれるのは結構だが、俺には関係ないじゃないか」


「マスター、私以外との試合形式での闘いはよい経験になります」


「そうかもしれないけれど、それは今はしたくないな」


 なにこの嫌な予感。まさか、エントリーしてるとかないよな?


「それでしたら、この島の周りを一周してみますか? まだこの島で見てないところもありますし、一周3キロ程でしょうから、あまり時間はかからないでしょうが、ここで座っていても仕方ありませんから」


「それじゃあ、そうしよう。

 マーサも良いだろ? 荷物は俺が預かっておこう」


「はい。お願いします」


 マーサの荷物を収納して、入り江の出口の方に歩いて行った。そこから時計の反対まわりで島を一周するつもりだ。


 入り江の入り口に立って海を見ると、遠浅とおあさの砂地がかなり遠くの方から入り江に向かってえぐれて深くなっている。よく宇宙船が外見上破損することなく着陸できたものだ。



 岸辺の砂地の上を歩きながら、


「マーサの宇宙船は原材料さえあれば自分で修理できるという話だったけれど、そのほかに機械なんかは作れるの?」


「はい。小型のものですと簡単に作ることができます。ソルネ4の汎用工作機械で製作できる機器には大きさに制限はありますが、外部にプラントのようなものを内部で製作した部品や資材を組み合わせて作ることもできますので最終的には大型の機械も製造できます」


「原材料はどういったものが必要?」


「化合物から元素を分離して必要な化合物などに再構成します。推進剤と燃料を兼ねる水素は大量に必要ですが、もう飛び立つ必要もありませんし、目の前に海水がありますから大丈夫です。

 今後大きなものを作る場合は構造部を構成する炭素が必要になりますが、樹木も近くにありますし二酸化炭素も大気中にある程度含まれていますから問題ないと思います。

 希少元素についても大抵は海水中から回収できますし、ソルネ4内にも備蓄はあります。大量のエネルギーは消費しますが、元素合成も可能です」


 よくはわからんが、資源関係については全く心配はいらないらしい。


 話しながら歩いていたら島を一周して入り江の入り口にまで戻って来ていた。そこから島の中央まで入り江沿いに歩いて、離着陸場まで戻ってきた。


「まだかな?」


「はい。もう少しかかります。一緒に中に入って結果が出るのを待っていましょう」



 アスカと二人、マーサについて宇宙船ソルネ4の中に入った。もちろん俺だけは自力で扉のある張り出しまで上れないのでアスカに引き上げてもらっている。



 操縦室に入り、マーサは自分の席に。俺とアスカは残った二つの席に座って、診断プログラムの終了を待つことにした。


 目の前の机の上のモニターのような物やスイッチ群を見ていると、『押すな! 押すなよ!』の心境がなんとなくわかってきた。これをひねったらどうなるんだろうとか、このボタンを押したらどうなるんだろうとか思ってしまう。最近よく意識が飛ぶので、無意識に手が伸びたら大変と思い、左手で右手の手首をつかんでおくことにした。



 そうやって、待っていたら、


「診断結果が出ました。資源が充足された状況でのソルネ4の完全修復には6週間必要と出ています。艦の基幹部分から修復作業を行いますが、受精卵コンテナルームの修復は優先しますので2週間後にコンテナルームにコンテナを戻すことができるようになります。

 いずれにせよ動力用燃料は必要ですので、これから燃料となる水素を補充するため海水を取り込みます。すぐにソルネ4からチューブを海まで伸ばしますから、三時間程度で作業は終わります」


「了解。それじゃあ、俺たちはここにいればいいの?」


「はい。海水の取り込み作業が終われば、いったん作業は停止するようにしていますので、どこにいても問題ありません」


「じゃあ、しばらくここにいるか。

 そういえば、マーサの国は戦争してたって話だったけど、この船には武器とか積んでないの?」


「はい。ソルネ4は一種の移民船ですから工作機器を中心にその他機材を目いっぱい積み込んでいる関係で艦としての武装は積んでいませんし、装甲なども施されてはいません。

 武器として積んでいるのは、新しい惑星環境ですぐに必要になるかもしれない個人用携帯武器だけです。武器そのものは現状それしかありませんが、必要があれば汎用工作機械でより強力なものも簡単に作ることができます」


「そういった武器など使わないに越したことはないけれど、この世界だって、街道を外れれば猛獣もいるしモンスターも出てくるからどうしても必要だよな。やっぱり個人用の武器ってレーザー銃?」


「はい。レーザー兵器はありますが、大きすぎるため携帯武器としては不向きです。通常は杖のような形をしていて、先端から高速の弾体が発射される武器を携帯武器としています」


「ふーん。そうなんだ」


『魔界ゲート』はいざとなれば収納できるので何も脅威とは思っていないが、収納はさすがに最後の手段と思っている。何も関係のない宇宙人のマーサがこの件に関与する必要はないが、マーサもすでにこの星の一員。何らかの手助けを頼んでみてもいいかもしれない。



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