第394話 コア・シード、植え付け


「そうだな。それじゃあどこがいいかな?」


 ヤシマダンジョンの出口へ向かう帰り道、コア・シードをどこに埋めるのか検討しながら歩いていた。


「冒険者学校のトンネルの東口あたりはどうでしょう? 近いうちに線路を王都南口の駅につなげれば便利になりますし、荷降ろし用の建屋もありますから手ごろではないでしょうか?」


「あそこならペラも近くにいるわけだから、ちょうどいいか。『鉄のダンジョン』とは種類の違うダンジョンになるだろうから、将来的には生徒の訓練に使えそうだしな。その線で考えてみよう。ついでだから、『スカイ・レイ』でこのまま見に行ってみようか?」


「それはいいですね」


 マーサは俺たちの会話についていくことはできないので聞いているだけなのだが、これから候補地を見に行くのだということは理解したようだ。


 他の冒険者たちが大きな荷物を背負って歩いている流れの中で、普段着三人組がただ浮いていただけで、出口までの帰り道は当たり前のごとく変わったことは何もなかった。


 ダンジョンから出てヤシマに来た時と同じ場所に戻り、排出した『スカイ・レイ』に乗り込み、トンネル東口まで文字通り一飛ひとっとびで到着した。



 トンネルからの線路の脇に下ろした『スカイ・レイ』から外に出て、俺も周りを確認してみる。


 草原の中に線路がトンネルから伸びてその先に建屋たてやが一つあるだけだ。周りにはいつものように人影はない。


 荷降ろし用の建屋は作っては見たものの、俺が直接冒険者学校の脇のゴーレム置き場から収納を使って冒険者ギルドに運んだ方が鉄鉱石と石炭の分別もできるし簡単なのでまだ一度も使っていない。将来的には川から運河でも引いて、このあたりに鍛冶工房などを誘致ゆうちでもすればいいかと思っていたのだが、いったん取りやめだな。


「マーサ、ここだけどどうだい? ここなら王都からも近いし、いいんじゃないか? 今はタダの草原だけど鉄道もいずれ王都の南門までは繋げるつもりだ」


「はい。どんな所でも構いません」


「マーサ、助けたのは俺たちが勝手にやったことだから負い目に感じる必要はないんだぞ。要望があれば言ってくれてもちろん構わない。できないことはできないと言うし、できることなら大抵のことはしてやれるから」


「はい。ありがとうございます。ここで問題はありません」


「それじゃあ、ここにしよう。おそらく最初のダンジョンへの出入り口はコア・シードを埋めた場所の真上にできるだろうから、出入り口が目立たないように建屋の下にコア・シードを埋めてしまおう。早ければ早いほどいいからな。

 ところでどのくらいの深さが必要なのかな?」


「掘り返されなければいいだけのことでしょうから、10メートルもあればいいと思います。私の髪の毛で設置しますから、最長100メートルまで可能です」


「それじゃあ、50メートルくらいで行くか。

 ……、オーケー、穴を作った。それじゃあ、コア・シードの設置を頼む」


 直径で30センチ、深さ50メートルほど地面を収納して穴を作り、収納からゴルフボール大の真っ白い玉、コア・シードを取り出してアスカに渡す。


「そのボールがダンジョンに成長するのですか?」


「俺も初めてなので、断言はできないけれど、ちゃんとダンジョンに成長するはずだ。だめなら、一年後になるけどまたなにか考えよう」


「はい。分かりました」


 アスカがコア・シードを髪の毛で持って、今しがた作った穴の中にゆっくり下ろしていく。



「……、コア・シード、設置しました」


「それじゃあ、埋めてしまう。

 ……、完了。

 マーサ、一年後になるけれど、期待しててくれ。その間、俺のところでゆっくりしてればいいよ」


「はい。ショウタさん、アスカさんありがとうございます」


 とうとうコア・シードを埋めてしまった。ダンジョンのできるまで一年。ピッタリ一年なのかどうかは分からないが、出入り口の黒い渦は最初はコアの上にできるだろうと思い、荷下ろし用の建屋の下にコア・シードを埋めてやった。


 いずれにせよ、最初のダンジョンはコアルームのある最下層1層があるだけだろうから、早いところ、生まれたばかりのコアのマスターになってコントロールしないといけない。



「マスター、失念していましたが、来年の今頃は『魔界ゲート』がすでに開いています」


「そういえばそうだったな。勇者たちは『魔界ゲート』を閉じて元の世界に戻るんだろうな」


「マスターはいいんですか?」


「帰りたくないと言えばうそになるけれど、みんなを放って帰れないだろ。両親には悪いと思うけれど、今となっては帰れなくても構わないと思っている」


「……」


 また、マーサを仲間外れにした会話をしてしまった。これはマズいな。


「それじゃあ、せっかくここまで来たから、冒険者学校に顔を出してみるか?

 マーサ、そこのトンネルを登っていくと、露天掘り鉱山の跡地があるんだけど、そこに冒険者の新人たちのために学校を作っているんだ。せっかくここまで来たから一緒に見に行ってみよう」


「はい。学校ですか。興味があります」



『スカイ・レイ』はもう収納してしまっているので、そんなに遠くもないので歩いて行ってみようと三人でカンテラを持って、トンネル入り口の柵をいったん収納してトンネルの中に入って行った。


 坑口辺りの気温は外とそんなに変わりはないが、中はそれなりに涼しい。そういう意味では、一年中気温の変わることのないダンジョンが一番過ごしやすいのかもしれない。コア・シードがかえって、新しいフィールド型ダンジョンができたら、フォレスタルさん次第だけれど、俺もそこに別荘を建ててもいいかもしれない。



 坂道になったトンネルを上った。10分ほどでトンネルを抜けた先は狭いながらも完全な盆地のためか、やはりかなり気温が高かった。生徒たちには十分な水と電解質でんかいしつを与える必要があるが、ペラのことなので心配は無用とは思う。



 トンネルを抜けてその先の階段を上って、露天掘りの底の平地、いわゆるグランドに出ると生徒たちはみんなでメイスを振っていた。


 すでに全員ペラマーク入りの革鎧を着てそのほかも防具もちゃんとつけている。盆地の底と言っても、もう少し経たないと日陰にならないようなので、日向ひなたでメイスを振っているみんなは汗びっしょりだ。その中で、助手の四人が、バケツに入れた水をひしゃくに入れて、メイスを振っている生徒たちにかけて回っていた。


 予想以上の熱中症対策だった。熱中症対策としては、かなり効果的ではあるんだろうな。あとは電解質の摂取せっしゅだ。


 生徒たちの革鎧を見ると、濡れていないところにうっすらと白い粉がふいていた。どうも、かけていた水は塩水だったようだ。


「私の幼年学校時代の訓練などよりよほど厳しい訓練なのですね」


 担当教官はペラだし、生徒たちは将来の生活と命を賭けているわけだから真剣さが違うのかも知れない。俺なんかでは到底とうていまねのできない世界だ。


 俺たちが久しぶりに顔を出したので、ペラがこっちにやってきた。今日はさすがにあのマフラーはしていなかった。あれは生地も問題だが、何よりこの季節、周りが見てて暑苦しいので外したのだろう。


 マーサを簡単にペラに紹介し、ペラのこともマーサに紹介しておいた。ややこしくなるので、ドールとかマキナドールについてなにも言っていない。


「ペラ、何かあるか?」


「順調です。一期生の時と比べて人数は増えましたが、助手がいるのでかなり楽になりました」


「三期生から増員は問題なさそうか?」


「それならもちろん大丈夫です」


 フォレスタルさんに依頼している冒険者学校の増築工事も順調で、既に枠組と屋根まででき上っている。もう一月ほどで完成するはずなので、三期生から予定通り生徒を今までの倍の40人取ることができる。



[あとがき]

2021年1月22日より

『常闇(とこやみ)の女神 ー目指せ、俺の大神殿!ー』の投稿を始めました。

https://kakuyomu.jp/works/1177354055372628058 よろしくお願いします。

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