第387話 宇宙船3、ファーストコンタクト


 宇宙船クルーのたった一人の生き残りと思われる人物が瀕死ひんしの状態だったために『エリクシール』を使った。


『エリクシール』を使ったにしても回復が早い。まあ、前回は外傷という意味ではかなり状態が悪かったので時間がかかったのは仕方ないか。


 その人物がいま覚醒かくせいしようとしている。


 おっと、目が開いた。見開かれた瞳の色は俺と同じ茶色だった。


 その瞳が俺たち二人を交互に見ている。


 取りあえず落ち着いてはいるな。


「〇×△#? !%◇□&」


 当然何を言っているのかはわからなかったが、女性の声だった。そこは安心。この顔で、野太いおっさん声だとかなり引いてしまうものな。


 異世界にやってきている俺が言うのも変だが、よく考えたらこれが人類と宇宙人とのファーストコンタクト。最初の第一声は心して話しかけよう。たとえ相手が理解できなくともな。


「おはようございます」


 言っちまったが、これでいいのか歴史の一ページであるはずのファーストコンタクト?


「〇×△#? !%◇□&」


 あれ? これはさっきと同じ言葉? ということは、自己紹介かな? 


 自分の胸をたたきながら、名まえを言って見るか?


「わたし なまえ ショウタ」


 もう一度、自分の胸をたたいて「ショウタ」


「わたし なまえ アスカ」「アスカ」


 アスカまで、俺のマネをして、胸をたたきながら名前を言った。つい笑ってしまったら、アスカに少しにらまれてしまった。


「F+/□*、M@@&@」


 今度は、アスカが、女性の肩に手をやり、


「あなた なまえ M@@&@」


 そうしたら、女性が頭を縦に振った。これは、イエスなのか? やっぱりイエスだよな。


 しかし、名まえが『M@@&@』だと俺には発音が難しい。アスカは良くまねができるな。


「マスター、彼女の名まえに近い発音は『マーサ』ですから『マーサ』と呼べばいいと思います」


 そう言われると、『マーサ』と言っていたような気もする。喉や口の形状が似ている以上、母音ぼいんはそんなに変わらないだろうし、子音しいんだってそこそこ似てないとおかしいものな。


 今度は、彼女が俺の方を向いて、


「ショター?」


 アスカの方を向き、


「アシュカー?」


 そう言った。アスカと二人で大きくうなずいてやった。


 ブラッキーとホワイティーが最初に『おとうさん』『おかあさん』と呼んでくれた時も感動したが、今回も感動ものだ。ファーストコンタクト大成功だ。


「マスター、おそらく、彼女に言語情報を大量に与えれば比較的早い時期に私たちの言葉を話すことができるようになると思います。ですが、その前に亡くなった二人を埋葬まいそうしなくてはいけませんね」


 アスカが、机に突っ伏して亡くなっている二人を見る。


 それで、彼女もその二人の状態に気付いたようだ。


「K〇A+&#! V#〇□▽!」


 座席から急に立ち上がろうとしたところ少しよろめいた。すぐにアスカが手を貸してやったので、倒れずには済んだようだ。


 彼女は、まず手前の男の人を抱いて、机に前のめりに突っ込んだ姿勢から、ちゃんと椅子に座らせてやった。


 その後、その男の人の宇宙服のどこかのボタンを操作し、透明ヘルメットを持ち上げて外してやった。


 次にもう一人のヘルメットも同じように外してやった。


 特に泣き出すわけでもなく淡々としていたが、彼女の顔を見たら目に涙がたまっていた。見た目が日本人の美人。その目に涙か。つらいね。


「マーサ、この二人を埋葬まいそうしましょう」


 アスカが、亡くなった二人を指さし、荷物を床に置くようなジェスチャーをした。埋葬という習慣がマーサの生まれ育った文化にあるかどうかはわからないが、どういった形であれ、少なくとも死体は処理するだろう。


 マーサもアスカの言葉を理解したのか頷いたので、亡くなった二人を運び出すことにした。


 死体なら収納してしまった方が運ぶのは簡単だが、目の前で死体が消えて無くなれば相当驚くだろうし、収納の説明は今の俺たちの会話能力では不可能なので、抱えて運ぶことにした。


 アスカと俺で一人ずつ抱え、操縦室を出て、あの出入り口に。後ろからマーサが何も言わずついて来ている。


 気密室を通り、船外の張り出し部分に立って、マーサは、周りの景色を眺めて驚いていた。この光景は操縦室のスクリーンに映ってはいたが、ちゃんとは見てはいなかったのだろう。


 俺が先に張り出しから地面に跳び下りて、アスカがマーサを髪の毛で支えて降ろしてやった後、最後にアスカが跳び下りた。むろん俺もアスカも死体をかかえている。あえてお姫さま抱っことはいわない。


『スカイ・レイ』の発着場を横切りってその先に宇宙船の不時着でできてしまった入り江の脇に穴を二つ掘った。いきなり穴ができたことにマーサは当然驚いたようだが、黙っていた。


 その穴に二人を横たえて、もう一度マーサの顔を見たら、涙を目に溜めたまま頷いたので、穴を掘った時に収納した土を上から戻してやって埋葬を終えた。最後に大き目の丸石をそれぞれに置いてやり目印にした。



「宇宙船の中は結局操縦室しか見ていなかったけれど、勝手に探検もできないから、どうする?」


「おそらく、マーサも『エリクシール』で急激に回復していますし、不時着してから何も口にしていないでしょうから空腹ではないでしょうか。私たちの食べ物を摂取できるようなら、食事を提供しませんか?」


「見た目は完全に日本人だもの、食事も俺たちと同じような物をれそうだよな」


「確証はありませんので、少量ずつ。体に合わずショック状態になったとしても、万能薬で十分治るでしょう」


 アスカの言うことももっともだが、『万能薬』前提というのはどんなものなのかな。


 今度は、ジェスチャーでなく、昨日のバーベキューで焼いた串焼きを二本取り出して、一本口に入れて食べてみた。うまい!


 残った一本をマーサに勧めたところ、その串焼きを受け取り、宇宙服を着た手をかざしていた。


 それからニッコリ笑って、串焼きを食べ始めた。今のは成分か何かを分析したのだろうな。良くは分からないけれど。


 いずれにせよにっこり笑った顔はかなりの美人だった。俺の周りには美人成分だけ・・はやたらと多いよな。


 アスカにも串焼きを一本渡しておいたが、立って食べるのもみっともないので、手ごろな大きさの石を三個出して、俺とアスカがその石に座ったら、残りの一個にマーサが座った。


 マーサも俺が収納を使うのにだいぶ慣れて来たようで、いきなり石が現れたくらいでは驚かなくなったようだ。そういうものだと思えばいいだけだものな。


 石の椅子だけだと食べ物を並べることができないので、テーブルになりそうな大きな石を真ん中にとりだし、アスカに頼んで、上の方をきれいに切り取ってもらってテーブル状に加工してもらった。そしたらそれだけで表面がツルツルで見事なテーブルができ上った。


 テーブルの上に、大皿を置き、昨日のバーベキューの残りを山盛りにしてやっり一緒に取り皿やコップ、フォークなども出してやった。食器類は俺たちが使ってみせてから、マーサに持たせたらすぐにまねして取り皿にとった食べ物をフォークで食べ始めた。


 アスカが気を利かせて、マーサが手に取るものの名前をいちいち教えてやっていた。アスカの言語教育がすでに始まったようだ。復唱するマーサの発音が、少しずつではあるが、よくなってきているのが分かった。





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