第386話 宇宙船2


 正面の壁の脇に現れたハンドルを上にげたところ、予想通り扉が開いてその先には今いる部屋の幅と同じ2メートルほどの幅で長さが20メートルほどの通路があった。


 その通路の突き当りに行くと、そこにも同じようなスイッチがあり、それを押すとハンドルが現れたので、ハンドルを上に上げて扉を開けるとその先は左右に延びる通路になっていた。


 右に行けば宇宙船の前方、おそらく海豚いるかの口の形をしていた操縦室。左に行けば宇宙船の後方、おそらくエンジンルームか何かがあると思う。


「まずは操縦室のありそうな右の方に行ってみようか? 誰かいるならそこだろう」


 左右どちらの通路も10メートルくらい先で行き止まりになっている。


 俺たちの進んだ右の通路の突き当りにはこれまでと同じスイッチとハンドルの組み合わせがあり、ハンドルを押し上げると扉が開いた。その先は、20メートルおきに扉があり、最後の扉を開いたところ、


 そこは、どこかのU.S.S.エン〇ープライズ号のブリッジを小ぶりにしたような部屋だった。正面から左右の壁にぐるっとまたがって曲面スクリーン。スクリーンにはところどころ真っ黒になった部分もあるが、そこに映し出されているのは、この島のパノラマ風景だった。


「マスター」


 部屋の中にはSF的な弧を描いたような机が手前に一つ、その先に二つ並んでいて、各々の机には突っ伏したような形のままで身動きしていない人型ひとがたの宇宙人がいた。


 三人とも透明のヘルメットを付け、体に密着した白色の宇宙服?を着ている。



 近づいて一人一人をよく見ると、透明のヘルメットの中の顔は人類に見える。見た目だけで判断するなら、手前が女で、その先に男女が並んだ形だ。三人とも、かなり短く刈り込まれた髪は黒髪で二十歳はたち前後。そんなことはないはずだが俺から見ると、全員日本人顔・・・・に見える。


「三人とも動きがないが、ダメか?」


「手前の女性?はまだ息があるようです。他の二人はすでに亡くなっています。身体形状から見て、骨格も人類と同じと思えます」


「体も俺たちと一緒なのか。宇宙人なのに不思議なことだな。亡くなった二人はやっぱり不時着のショックで死んだのかな?」


「死亡した一人は、頚椎けいついを骨折しており、もう一人は頭部と胸部に強い打撲を受けてのショック死のようです」


「生きている方は大丈夫そうか?」


「いえ、こちらも頭部と胸部に強い打撲を負っているようです。鼓動もかなり弱く危険な状態です」


「宇宙人に万能薬が効くかどうかわからないしな。アーティファクトも修理できる万能の『エリクシール』なら、宇宙人でも何とかなるよな」


「間違いなく効果があると思います」


「それじゃあ、その人のヘルメットを外してくれるか?」


「申し訳ありません、ヘルメットの外し方が分かりません。切断してもよろしいですか?」


「生きるか死ぬかだ、やってくれ」


「はい。……、取り外しました」


 アスカが髪の毛を使って、宇宙服の首のあたりで繋がっている透明のヘルメットの一番下の辺りを丸く切り取って、ヘルメットをとった。


「そしたら『エリクシール』を飲ませてやってくれ」


 アスカに『エリクシール』を渡し、代わりに、首元で切断された透明のヘルメットを受け取った。


 受け取ったヘルメットの材質は、もちろんガラスなどではなく、何かのプラスチックのようなものなのだろう。手で持つと相当薄く軽いものだったけれども、しっかりした物だった。


 ヘルメットをとった女性の顔は血の気は全くなく青白い。


 アスカは慣れた手つきで後頭部と額に手を当て、ゆっくりと顔を上に向けてそれで開いた口に、まず『エリクシール』を少量垂らす。


 意識もないし自力での呼吸も難しいような重体のけが人が、ちゃんと『エリクシール』を飲み込んだ。


 これは、いつも不思議に思っていることだ。まあ『エリクシール』だからと思っておくしかない。


 間をおかずひどく青白かった顔色に赤みが差してきた。呼吸もしっかりしてきたようだ。胸を触るわけにもいかないので、鼓動はどういった状態なのかは今のところ分からないが、ほぼ正常になっているのだろう。


 女性の容態を確認したアスカが、『エリクシール』を女性の口の中に一気に注ぐ。これも不思議と患者がむせるようなことはない。


「これで大丈夫と思います。この女性は見た感じ全くの人間に見えますが、こういったこともあるのですね」


「この人は宇宙人だよな? しかもどう見ても日本人に見えるのが不思議だ。今は眠っているようだけど、起きたらいろいろ話を聞きたいが、さすがに宇宙人との会話は無理だよな。この三人以外にはクルーはいないのかな?」


「こういった状態でこの三人が放置されていたところをみますと、この三人だけが乗組員だった可能性が高いと思います」


「そうか。そうだよな。ということは、この人の回復を待つしかないわけだな。しかし、さすがに会話は難しいよな?」


「少しずつ意思疎通を図っていくよりほかないでしょう。発声器官や視聴覚器官も人と同じようですから、何とかなるのではないでしょうか?」


「文化は少なくとも異なるわけだから難しい面もあるだろうけど、何とかするしかないな」


「努力してみます」


「この人、起きた時に、仲間が二人とも死んでいることを知ってショックを受けないかな?」


「可能性はありますが。そういった負の影響は『エリクシール』の影響がまだ残っているでしょうから、除去されてしまうのではないでしょうか? 私たちがこの宇宙船に入ったことで、同時にこの星の微生物などもこの宇宙船に侵入したはずですから、各種の感染症にり患りかんする可能性もありましたが、それも、『エリクシール』の残存効果で防げると思います」


「やっぱり『エリクシール』を使ってよかったな。この人は大丈夫でいいんだけど、逆にこの宇宙船の中にわれわれにとって有害な微生物がいた場合はどうなる?」


「それは、もはや打つ手はないと思います。諦めるよりほかにありません。最悪、万能薬で回復できますし、気にかけても仕方ありません」


「手遅れなら、どうしようもないな。俺たちのせいで、この星の文明が滅んだってことがないよう祈るしかないか」


「それでいいと思います」



「それはそうと、『エリクシール』はこのところ何本も使っているから、早めに作って補充しておいたほうがいいな。

 おっ! 動いた。そろそろ目覚めるかな? 意外と目覚めが早いな。

 この人から見たら俺たちは宇宙船に侵入した異星の宇宙人だもの、起きた時驚くだろうな」


「そこは仕方ありませんが、精神も安定しているはずなので、パニックにはならないと思います」




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