第385話 宇宙船?


 海岸への200メートルほどの帰り道。俺とアスカが一番後ろを歩いている。


 前を歩く女子たちがいている水着のお尻の下の部分が少し上にズレて、日に焼けていない白い肌がちょっとだけのぞいている。脚が前後することで、その部分の面積が、少しずつ大きくなってきている。ような気もする。


「マスター、そうジロジロ女子の後姿うしろすがた、それも一ヵ所を見つめていると、また意識が飛んでしまいますよ。意識が飛んでしまう前に、青空を見上げて深呼吸しましょう」


 それはいい。何とか目線を外して青空を見上げ、


 スッスッハー、スッスッハー。


 だいぶ落ち着いた。


 しかし、これは確かにセクハラ。世が世ならそのまま警察のお世話になるような案件だ。


 しかし、海辺での水着は不自然ではないが、海辺以外での水着という非日常性が俺の想像力を刺激するのか? やはり男子高校生のさがでつい目がまたプリプリを追ってしまう。


 スッスッハー、スッスッハー。


 ここは、頭の中の話題を変えなくては。


「しかし、あの宇宙船?いつ頃不時着したのかな?」


「巻き込まれた木や土砂の状況から見てつい最近のことだと思います」


「そんな感じが確かにするな。あれ? そういえば、昨日きのう一昨日おととい、地震があっただろ。あれが不時着して地面が揺れたのかもな。まあ、それはないか」


「いえ、あの大きさのものが勢いをつけてあれだけ地面を削っていけば、地震が起こる可能性は高いと思います」




 海岸に出て、収納から出したいかだにみんなで乗り込み、アスカに少し沖に出してもらったところで、『シャーリン』を出してた。筏に乗り移った時と同様、浮き輪を使ってアスカに『シャーリン』に運んでもらって帰路についた。


 いずれまた使うこともあるだろうから筏はちゃんと収納している。



 すぐに水着から普段着に着かえたわけだが、相変わらず、女子たちは騒がしい。


『シャーリン』が一時間ほどかけてセントラル港に帰り着いたころには、陽も傾き、日差しも弱まったようだ。女子たちはそれなりに疲れていると思う。とくに一番小さなラッティーははしゃぎまわって水泳までしっかりしているので見た目に眠そうだった。


 ラッティーの前にしゃがんで、


「ほれ、ラッティー、屋敷までおんぶしてやろう」


「えへ。ショウタさんありがとう」


 俺が先頭に立って、ラッティーをおんぶして屋敷に帰ったのだが、後ろの方からひそひそ声が聞こえてくる。


『特別待遇……』


『小さな子が好きなのかも……』


『幼女……』



 もういいよ。何とでも言ってくれ。


 俺も疲れが出てきてしまったが、がんばって屋敷までぞろぞろと歩いて帰った。



 その日は、エメルダさんたちにもうちで泊ってもらうことにしていたので、夕食前に、みんなで風呂に入ったようだ。


 俺もとなりで風呂に入っていたのだが、肌が日に焼けてお湯に入ってかなりひりひり痛かったようで、女風呂から悲鳴が聞こえてきた。あとでヒールポーションを背中や肩に塗ったようだ。




 海水浴の翌朝。


 エメルダさんたちはうちの馬車で宿屋に帰し、そのあと俺とアスカは『スカイ・レイ』に乗って、小島に向かった。



 20分もかからず、島の上空に到着したので、昨日きのう整地をした宇宙船の隣の離着陸場に『スカイ・レイ』を着陸させ、すぐに収納しておいた。


 宇宙船?は、ぱっと見、きのうと比べ変化はないようだ。


「マスター、周囲の土砂を先に片付けてそれからもう少し詳しく出入り口がないか調べてみましょう」


 アスカに言われるまま、宇宙船の周りの盛り上がった部分の土砂と土砂に巻き込まれた森の木を収納した。土砂の中から出てきた先端部分が海豚イルカの口のように細長く伸びていたが、やはりどう見ても宇宙船だ。


「こういったものは、だいたいにおいて機能的に洗練されているはずなので、どこで作ったものであれ設計はおおむね似てくるんじゃないか?」


「マスターのいう通りだと思いますが、似る対象を私は知りません」


「確かに。俺だって、何がオーソドックスかはわからないけれど、先端部分を操縦室と考えるのは普通だろ?」


「はい」


「パイロットはそう簡単には船外に出ないだろうから、出入り口は後ろの方にあるんじゃないか?」


「位置については、開口部を設けると強度が低下しますので、先端部にはなさそうですが、あとは何とも言えないような。しかも中に乗っている、あるいは乗っていた生物の外観が今のところ不明ですので、出入り口の形状も推測できません」


 確かにアスカのいう通りだ。


「ということは、隅から隅まで、ずずずいーと、調べなくちゃいけないわけか?」


「その方が結果的に早く見つかると思います」


「もう面倒だから、孔をあけて中に入ってしまうか?」


「宇宙船に孔をあけてしまうと、この船体の素材の加工は私には無理のようですので、この宇宙船はもう使い物にならなくなります。いまのところは、それはしない方が良いと思います」


 仕方ない、地道に周りを調べていくか。 


 丹念に宇宙船の周りを見ていたら、一カ所人が数人並んで立てるくらいの張り出しが船体中央あたりにあった。


 張りだしの上に飛び乗ったアスカに引っ張り上げられて、そこに立つと、船体側もいくぶん窪んでいる。


「ここが扉になってるんじゃないか? どう思う?」


「いかにもな作りですから、どこかにスイッチのようなものがあるのかもしれません」


「ミニマップでは中の様子は見えないし、スイッチのたぐいはやっぱり見当たらないな、しかしこの謎金属は一体何なのかな?」


「謎金属なので、謎ですね」


「それはそうだ」


 アスカと二人で漫才をしながら、なにか変ったところがないか、手で謎金属の表面を触りながら調べてみたところ、胸の高さ当たりに、3センチほどの丸い窪みがあった。そこに親指を当てて押してやったら、その下の壁がスライドして、ハンドルのようなものが現れた。形状からいって、下から上に押し上げると扉が開きそうな気がするがどうだろう?


「このハンドルを押し上げれば扉が開くんじゃないか? ここに扉があるとしてだけど」


「非常用の手動開閉装置かもしれません」


「不時着している今は非常時だろ。それじゃあ、押し上げてみる」


「マスターは横に避けていてください。私がやります」




 アスカがハンドルを押し上げたと同時に、正面の壁が上下左右の四つに割れてのそのままスライドして壁の中に入ってしまい、縦2メートル、横1メートルちょっとの孔が空いてしまった。少なくともこの宇宙船を作った宇宙人は、巨人ではないようだ。



「中に入って見よう」


「では、まず私が先に入ってみます」


 アスカがそう言って先に宇宙船の中に入って行った。


「特に問題はないようです」


 俺も中に入ると、そこは2メートル四方の部屋とも呼べない小部屋だった。中にはもちろん何もない。天井や壁、床までクリーム色に発光して結構中は明るい。


 あれ? この部屋に入った瞬間ミニマップが視界から消えてしまった。いつも視界のはしに見えていても気にならないミニマップだが、無くなってしまうと途端に心細くなる。


 後ろの入り口は開いたままだったので、急いで外に出たら、ミニマップは復活してくれた。


 この宇宙船の中はミニマップが使えないわけか。仕方ないな。


 もう一度、部屋の中に入り、


「ミニマップがここでは使えないようだ」


「前後の壁にまた窪みスイッチがあるようです」


 アスカが前後のスイッチを押すと、またあのハンドルが現れた。


 前方のハンドルを押し上げようとしたアスカが、


「このハンドルは動かないようです。これ以上力を込めてしまうと折れてしまいます」


「ここが、宇宙空間で外に出るための気密室だとすると、後ろの扉を閉めてから前の扉を開ければいいんじゃないか? 入り口を閉じておく」


 後方のハンドルを押し下げたところ、扉が閉まった。


 そして、アスカが、前方のハンドルを押し上げたら


 正面の壁が四分割して壁の中に消えた。その先には通路があった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る