第372話 帝都ハムネア、炊き出し


 ギリガン総長たちが、捕虜ほりょを引き連れて帝宮の中に入って行った。ハンナさんも帝宮内を案内するために同行している。捕虜の足を拘束こうそくしていた砂虫テープは、すでに硬くなってきていたためアスカが切断したようだ。これから先さらに砂虫テープは硬くなるだろうから、両手を拘束している砂虫テープはますます切断しにくくなるだろう。そこを俺が心配する必要はないな。



 騎士団の飛空艇の第二便が到着する明日の朝まで、アスカと二人、何もすることもなく石畳の上にいるのは大変だ。何か暇つぶしはないかな?


「アスカ、瞬発爆弾もだいぶ減って来たから、少し補充しておこうか」


「はい、マスター」


 アスカに投擲弾と着火器を渡して、瞬発爆弾を作り始めた。知らないものが見れば、謎の行動だろうが、黙々と二人で瞬発爆弾を作って行った。


 そういえば、ギリガンさんたち騎士団の面々は武器以外は手ぶらだったけど、食料や水はどうするんだろう? 中央庁舎、今は奪還したから、帝宮か。この帝宮の物を当てにしてるのかな? さすがにこれだけの建物の中にそういったものがないはずはないか。


 50発ほど瞬発爆弾ができたころ、今は塀が吹き飛んでしまって見晴らしの良くなった正面の、堀にかかるつりばしを渡って|それなりの服装をした三人組がこちらにやってきた。敵意はないようだ。三人とも頬が少しこけて痩せていた。


 その中の一人が進み出て、


「お二人は、帝室の軍の方ですか?」


「軍には属していませんが、帝室に雇われている者です。それで、みなさんは?」


「クーデターが起こるまで、われわれ三人とも帝都の行政官をしていた者です。これまで帝都内に潜んで、クーデター政権に対抗するための地下組織を作っていました。早朝中央庁舎が襲撃されて、帝宮が解放されたうえ、反撃に帝宮に集まった警備隊が逃げ出したといううわさが流れてきました。同志が、そのうわさを確認したところ、どうも真実らしいということでしたので、われわれがこうして参った次第です」


「革命委員会の面々と警備隊隊長はすでに捕らえています。捕らえた連中は、いま帝宮の中のどこかで監禁されているはずです」


「ということは、帝都は解放されたということでしょうか?」


「まだ帝宮を解放しただけですが、じきに帝都も解放されると思います」



『マスター、この人たちにお願いして、すでに帝宮が新皇帝によって解放されたと触れ回ってもらえばどうでしょう。帝都の住民も安心すると思いますし、敵兵への投降呼びかけにも役立つでしょう』


『それもそうだな。頼んでみよう』



「みなさん、帝都が新しい皇帝陛下、前皇帝の第三皇女、今は新たに即位されたアリシアI世陛下の軍によって解放されたと触れ回ってくれませんか? そしたら、帝都の住民も安心できるでしょう。それと警備隊にも投降して帝宮に出頭するよう呼びかけていただけませんか?」


「わかりました。帰り次第、同志を動員してみます」


「よろしくお願いします。そうそう、帝都では食糧なども不足していると聞いたのですが、いかがです?」


「今の季節ですから餓死者はまだ出ていないようですが、かなり厳しい状況です」


「よかったら、肉を供給できますが。砂虫の肉なので牛肉などとは違いますが食べて食べられないものではありませんよ」


「砂虫というと?」


「砂漠の地下に棲んでいるかなり大きなモンスターです。見た目はあまりよくありませんが肉は肉ですし、大量にありますからどうです? ちょっと見てみますか?」


「は、はい」


 鉄道敷設などに地盤の転圧用に使ってくたびれてしまい少し柔らかくなった砂虫の輪切りを一つ石畳の上に排出してみせた。


「うわー!」


 いきなりの直径10メートルばかりの巨大な車輪状の砂虫の輪切りが突然目の前に現れたものだから、三人とも驚いてしまった。しかも亀裂の入っていた石畳の石まで亀裂が大きくなって何枚か本当に割れてしまった。


 ドンマイ。


「小分けにするのは簡単ですから、一人5、6キロは持っていってくれてもいいですよ。あと、この輪切りはまだまだたくさんありますから安心してください」


「は、はい」


「アスカ、試供品で、少し肉を切りとってくれるか、10キロもあればいいだろ」


「了解しました。ついでに皮の方もぎ取ってしまいましょう」


 ゴロリと回転した砂虫の胴体の輪切りから、表皮がべロリとはがれていった。


 行政官をしていたという三人がビックリしたのかあきれているのか、口を開けてアスカのやっている作業を見ている。俺はもう何度も見ているけれど、近くで見るとそれなりに迫力があるものな。


 5センチの厚さで三枚にされた砂虫の皮を収納し、最後に切り取られた砂虫の肉のブロックを収納の中にあった大皿の上に置いて三人に渡しておいた。一般人ではかなり重たいものなので、大皿を二人がかりで持つようだ。


「肉が必要な人には、お皿か何か入れ物を持ってここにくるように言ってください」


「伝えておきます、ありがとうございます」


 三人が元来た方に帰って行った。



「いまこの帝都に人は何人くらいいるのかな?」


「おそらく、10万程度ではないでしょうか。四人家族として2万5千世帯、10キロの肉×2万5千とすると250トン、今の砂虫がだいたい750トンですから、これ一つで十分足りるでしょう」



「砂虫はほんとに役立ったな。まだまだストックはたくさんあるけれど、大きな砂虫はもういないようだし、そこは残念だな」


「私たちならどうとでもなりますが、あれが地下に潜んでいると交通が遮断されますから、ほとんど退治したのは結果的に良かったことだと思います」


「いずれたおすんだから同じではあるな。そういえば、冒険者ギルドも閉じているんだろうけれど、生活用の魔石なんかも不足しているんじゃないか?」


「そうですね、街の灯りが極端に少なかったのもその辺りが影響しているのかもしれません」


「俺の手持ちだと、レベル2の魔石が結構あるな。とはいえ、帝都全体分をまかなえるわけでもないからどうしようもないか。早いうちに冒険者ギルドが再開されて軌道に乗ってもらわないとどうしようもないな。その辺はアリシアさんとギルマスのソニアさんの手腕次第だろうけどな」


「少し前に、マスターがその気になれば大陸だろうと簡単に手に入れることができますと言いましたが、大勢の人間の面倒を見ることになるわけでしょうから、マスターのいう通り、労が多いだけで無意味ですね」


「だろ。今まで通り、気楽に生きていくのが一番。ちょっと意味が違うかもしれないが『おうちが一番!』なんだよ」




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