第371話 第2陣到着


「こうやって落ち着いているとまた、状況を理解できずのこのこやって来るクーデター側の人間を捕らえることができるかも知れません」


 串焼きを食べながらアスカがこれみよがしな感想を述べる。


 首都警備隊隊長だとかいう先ほど捕まえたハーセなにがしが嫌な顔をして、アスカをにらむのだが、もちろんアスカにそんなものが通用するはずもない。


 諸々もろもろを無視してアスカが、


「串焼きをもう一本お願いします」


「あいよ」


 俺も、気にせずアスカに大き目の串焼きを渡してやる。こういった戦場の雰囲気ふんいきもに俺自身も慣れて来たようで、あまり周囲の臭いも気にならなくなった。


 そう思うと、急に腹がいてきたので、俺も串焼きを頬張ほおばることにした。


「アスカ、堀の外の連中が逃げるわけでもなくじっとしているけれど、降伏もしないしどうするかな?」


「脅しが足りなかったかもしれません。マスター、連中の頭上で2、3発瞬発爆弾を爆発させたらどうでしょう?」


「それじゃあ、景気よく、堀の周りいる敵にぐるりとサービスしてやろう」


 運動会の朝に鳴らされる打ち上げ花火の感じで、瞬発爆弾を中央庁舎を包囲している連中の頭上30メートルあたりで順に爆発させたやったら、大慌てで逃げ散ってどこかにいってしまった。


 連中のトップらしきおっさんはこっちに捕まっているし、歯止めはないのだろう。それに、瞬発爆弾は打ち上げ花火の比ではなく大きな音と爆風が発生するので、真上で爆発された連中はそれだけで動けなくなったようで、大半が逃げ散った後には二、三百人取り残されたままになっている。



 そんな感じで遊んでいたのだが、第二陣の到着までまだまだ時間がある。俺たちが捕まえた連中を尋問する必要などないし、何もすることはないので、アスカに監視を任せて、俺は第二陣が来るまでひと眠りすることにした。


 捕虜の連中からすればずいぶんナメた態度だが、アスカがいる以上俺がどうこうする必要はない。


 血などで汚れていない石畳を探して毛布を二枚重ねにして敷き、その上に寝転がって、もう一枚の毛布を枕に、もう一枚の毛布を頭からかぶって、朝日の当たる中眠ることにした。目をつむる前に毛布の隙間から横の方をチラッと見たら、少し離れた庁舎を囲む塀には血の跡があり、塀の下にはちぎれ飛んだ膝から先の足や肘から先の腕が何個か転がっていた。


 これから、気温が上がってくると、そういった部品てあしが転がっていると衛生上まずい気がする。


 仕方がないので、起き上がり、周囲で目に付く限りの部品てあしを収納していき、適当なところに穴を掘ってその中に埋めてやった。


 それで、やっと落ち着いて毛布に横になって眠ることができた。




「マスター、騎士団の飛空艇が到着したようです」


 アスカに起こされて明るさに目を細めながら空を見上げると、雲一つない青空の中を飛空艇が降下しつつあった。『ボルツR2型ボルツンワン3号艇』だ。寝っ転がって迎えるわけにもいかないので、俺も起き上がり、毛布は仕舞っておいた。


 すでに、アスカが捕虜たちを広場の真ん中から脇に移動させたようで、飛空艇の着陸には支障はない。


 徐々に降下する『ボルツン・ワン』3号艇の噴気が石畳に当たり横向きに風が吹き付けてくる。


 捕虜の連中も飛空艇の降下に見とれているようだ。



 着陸した飛空艇の後方にあるタラップが下ろされた。


 最初に中から現れたのは、騎士団のギリガン総長だった。今回は黒を基調とした立派な革鎧を着けており、かなり長い剣を左手に持っている。俺たちの姿を認めたようで、軽く会釈された。俺も軽く頭を下げておいたのだが、アスカは無視していた。アスカも貴族なんだからちゃんと社会人してくれよ。


 その後から、同じような黒い革鎧を着た18名のいかにもな騎士?が続いた。手にした武器は、長剣やメイスといった近接武器だ。そして最後に白い革鎧を着たハンナさんが出てきた。


 騎士団の騎士たちはギリガン総長とハンナさんを先頭にして二列になり、俺の方に歩いてきた。その間に、飛空艇の方はタラップを上げ、発進態勢に入ったようで、魔導加速器が起動して下方に噴気を吐き出し始め、間をおかず騎士団の飛行艇は上昇していった。


 作戦計画では、アデレート王国の王都セントラルとこことで人員と物資の輸送のため騎士団の飛空艇は何度か往復するとのことになっている。



「一応、クーデターの首謀者と思われる連中を捕まえました。あそこに座っている連中ですので確認してください。あと、戦意のある連中はいなくなったようで、皇宮内には戦意のない連中だけが残っているみたいです」


「それは、手間が省けました。コダマ伯爵、ありがとう。

 ライヒ殿、それでは確認を頼みます」


「はい」


 ハンナさんが、手足を縛られて石畳の上に座らされている連中の首実検くびじっけんをしていく。ハンナさんが近づくと顔をそむけたり下を向いたりする者がいるのだが、そういった連中に対して、ハンナさんは剣のさやの先を使って自分の方に顔を向かせていた。エグいといえばエグいがこんなものだろう。


「ギリガン総長、クーデター派の主だった者たちはほとんどこの中にいました」


「ライヒ殿、確認ありがとう。ということは、われわれは第三陣が到着するまで敵の反撃に備えればいいわけだな」


「ギリガン総長、首都警備隊とかいう連中が一度ここを包囲してたんですが、ちょっと脅したら逃げていなくなっちゃいました。すぐには反撃してこないと思います」


「どういった脅しだったのかはわかりませんが、理解はできます」


 そういった、ギリガン総長がチラッとアスカの方を見たような気がする。


「そうすると、ここに見張りを数名残して、帝宮を先に接収してしまった方が早そうか。捕虜をこのままここに座らせておくわけにもいかないからどこかに入れておきたいし」


「ギリガン総長、次の飛空艇の便が来る明日の朝まで、われわれがここで見張っていますから、全員で帝宮の中に入って行かれても大丈夫ですよ」


「この広い皇宮全部の監視はコダマ伯爵でも難しいでしょう?」


「いえ、種は明かしませんが、任せていただいて大丈夫です」


「わかりました。それではお願いします。

 よーし、捕虜をつれて、皇宮の中に入るぞ。扉は開いているな。いや? 扉がないのか。まあいい、急げ!」


 確かに帝宮の出入り口には扉はあった方がいいけど、爆風で半開きになっていたところを収納する時、蝶番ちょうつがいは壊しちゃったろうな。どこか、ホールの脇にでも出しておけば誰かが修理するだろ。アスカに頼めばすぐなんだろうが、壊れたこわした窓の修理もあるしな。


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