第370話 制圧2
クーデターの首謀者らしき連中を捕まえて、中央庁舎前の広場にやってきた。
広場を見渡すと、それとわかる死体や重傷者は俺たちが庁舎に入っている間に庁舎の中に運び込まれたのか、どこか別の場所に片付けられたのか見当たらなかった。とはいえ、そこかしこにちぎれた手足は転がっているし、血の跡などはいたるところにある。
第二陣の到着が午前10時の予定なので、まだ、5時間ちかく時間がある。捕まえた連中を見張りながら、なんとか時間を潰す必要がある。
今までは捕まえた連中を歩かせる必要があったので、手を砂虫テープで縛っただけだが、歩かせる必要はもうないので、いったん広場の真ん中あたりの石畳の上に座らせて、アスカが全員の足を砂虫テープで縛っていった。
捕まえた連中がクーデターの首謀者だとして、たった1時間ほどアスカと俺で暴れただけで一国、それも大国のクーデター政権が瓦解してしまった。こんなのでいいのか?
「こんなに簡単なら、アリシアさんを助け出すより、最初から帝宮に突入してこの連中を捕まえてしまえばよかったですね」
確かに結果論からすればアスカのいう通りなのだろう。あの時そうしておけば、いらぬ手間もかからなかったろうし、帝都内の多くの人が不幸にならずにすんだだろう。
クーデターが起こったのにはなにがしかの理由があったのだろうが、その理由で暴力的な行動が正当化されるわけではないだろう。結局より大きな暴力で叩き潰されてしまう。暴力などによらずちゃんとした手順を踏んでの政権移行ならどこからも支持され政権も安定していたのだろうがいまさらどうしようもない。
俺は捕まえた20名ほどの連中を前にして、第二陣が到着するまで何をしていようかと考えていたら、中央庁舎の閉じられた正門の脇の通用門から立派な金属鎧を来た男が、数名の革鎧を着た兵隊を引き連れて広場に入ってきた。武器は持っていないようだし、ミニマップで確認しても赤くはないので、いまのところ敵意はないようだ。
「パルゴール陸軍首都警備隊の隊長のパウル・ハーセと申します。われわれはこれ以上の中央庁舎の破壊は望みません。そこに革命委員会の議長と委員、それに旧帝国軍軍団長が捕らえられているところを見ますと状況は理解できます。近々アデレート王国に亡命中の第3皇女が反革命政府を樹立するとのうわさもありましたが、あなた方はその関係の方々のようですな。
どうでしょう、現在われわれは、この中央庁舎を四千の兵で完全に包囲しています。今あなた方に捕らえられているそこの面々を解放してくだり即刻退去していただけるなら、われわれはあなた方に手出しをしません」
このおっさんのおかげで、俺たちが捕まえたのがクーデター側の首謀者たちで間違いないことが分かった。おっさん、サンキュー。それはそれとして、おっさんも脅しておくか。
「四千の兵でわれわれに何かできるという認識が状況をご理解できていない証拠でしょうが、逆に、こちらからの提案をいたしましょう」
「どうぞ」
「すみやかに降伏した方がいいですよ」
「ほうそうですか。分かりました。交渉は決裂ですな」
「そう判断するのは、待ってください。今いい物をお見せしますので、それから判断してください」
そう言って、男たちが入ってきた中央庁舎の正門のある塀の中にずらりと10個の瞬発爆弾をねじ込んでやった。
ドドーン。
衝撃と振動が轟音とともに襲ってきた。その後に続いて塀の破片と思われる小石がパラパラと降ってきた。立ち上る
「みなさんが突入しやすいよう、残った塀を壊して、見通し良くしてあげましょう」
まだ正面に残っていた塀に瞬発爆弾をねじ込み、
ドドーン。
パラパラとまた小石が降ってくる。
「だいぶ見晴らしがよくなって向こうにいる兵隊さんたちも良く見える。今度は兵隊さんたちを吹き飛ばしましょうか? 降伏しなければ四千人でしたか、
こういった
「さーて、ここから見える、あそこらの兵隊を最初に吹き飛ばすか。ざっと見、千人近く居そうだなー」
今の脅しはさすがに効いたようだ。
「待ってくれ!」
「他に言うことがあるでしょ?」
「分かった、われわれはいったん引く」
「あのー、ハーセさん? われわれはタダの冒険者。軍の者じゃないんですよ? 軍使のつもりでここに来たのかもしれないけれど、こちらからはそちらに軍使を送る予定なんかないんだし、向こうに帰れるわけないでしょ」
その言葉と同時に、ここにのこのこやってきた連中の武器を一気に指定収納してやった。
腰に下げていた剣などが消えて無くなったことに気づいた連中がなにやら騒ぐので、
「アスカさん、やっておしまいなさい」
越後の
「はい、マスター」
そこはマスターでなくご
やってきた面々が、アスカの手に持った砂虫テープでなす術もなく拘束されて、石畳の上に転がされていく。
ここから叫んで、堀の向こうで待機している連中に声が届くかどうかわからないが、とりあえず、
「おーい、おまえたちの親分は拘束したぞ。早いところ降伏しろー」
叫んでみたものの、責任者がいなければ返事のしようがないわな。
指定収納という技は、こういう時には使いでがある。こいつは、ミニマップ連動ではないようなので、視界に入っている連中限定なのが玉に瑕だが、いま目の前にいる連中だけでも千人近くはいるので、その連中から武器を一気に取り上げてやった。
その連中だが、自分の手にしていた武器、隠し持っていた武器、そういったものがすべてなくなってしまったことで騒ぎ始めた。
そこで、もう一度、
「おーい、早いとこ降伏しろよー」
と、叫んだやったのだが、聞こえていないらしい。仕方ないので、
「マスター、こうなったら後腐れのないよう、このまま首都の敵を殲滅してしまいますか?」
「俺たちが市街で暴れ回って、ここからいなくなったら、ここの連中に逃げられてしまうから、それはマズいだろ?」
「面倒ですから、ここの連中を処分してしまいましょう。そうしたら逃げはしませんよ」
今のアスカの言葉を聞いた石畳で座っている連中が明らかに怯えた目でわれわれを見ている。それは、怖いだろう。これ以上脅しても仕方がないので、
「その辺りのことは第二陣に任せるとして、第二陣が来るまではおとなしく待っていよう。いずれにせよ、戦力が揃うまで俺たちはここにいたほうが良さそうだものな。
まだまだ時間があるけれど、どうする?」
「とりあえず、食事にしましょうか?」
「どうもここは硝煙の臭いと血の匂いがまだ残っているから食欲が出ないな。俺はジュースでも飲んでおくけど、アスカは何を食べる?」
「串焼きがあれば、それを」
「まだまだたくさんあるよ。それじゃあ1本。それと、オレンジジュースでいいか?」
「はい」
アスカと俺の腰掛用に丸石を二つ取り出して、捕虜たちの前で朝食をとってやった。
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