第369話 中央庁舎制圧
玄関ホールにいた敵が逃げ散っていったようなので、先に進むことにした。ホールの正面には上り階段があり、前回はその脇の下り階段を下ったのだが、今回は上り階段を上っていく。その上り階段は途中の踊り場で左右に分かれ二階に通じている。
二階にある廊下は中央庁舎をぐるりと
そこにいる連中が、クーデター側の首謀者たちであることを祈りながら階段を上って二階の上がった。二階に上がると、そこも広々としたホールになっており、左右に廊下が伸びている。当たり前だが図面通りだった。どちらから廊下を回って行っても同じなのだが、とりあえず、右の廊下を進むことにした。
赤い点の塊が首謀者たちだと仮定して、彼らが、自分たちでは到底襲撃者にかなわないと判断すればどこかに逃げだす可能性もあるので、ここは目的の中央庁舎の奥に急いで進むことにした。とはいうものの、後方も含めてミニマップでは周囲の警戒を欠かさない。
廊下を進んでいくと、何度か前方の物陰からクロスボウで狙撃された。
発射されたクロスボウの
いくら狙撃しても何事もないように近づいて来る俺たちに恐怖してか、バラバラと敵兵が逃げだしていった。
逃げ出した連中に瞬発爆弾をみまってもよかったが、廊下の床や天井を壊してしまうと面倒なので逃げていく兵隊は無視することにした。
ミニマップを確認しながら進んでいるのだが、急に目的の区画内の赤い点の動きが激しくなってきた。逃げ出すのかもしれない。
バラバラに逃げられると少し面倒だが、ここまで俺たちが来てしまった以上、最低でも四、五人は捕らえることができるだろう。
付近から敵はいなくなったようなので、小走りで急ぐ。
バラバラになって逃げられると困ると思っていたのだが、どうもそうではなく、赤い点が壁の中を一列になって移動を始めた。隠し通路が壁の中にあったようだ。隠し通路については事前の打ち合わせ会議で何も話に出なかったところを見るとアリシアさんたちもその存在を知らなかったのだろう。ミニマップがなければ気付かず逃げられるところだった。
「先回りしたいが、隠し通路がどこにつながっているか分からないからちょっと無理だな」
「マスター、ミニマップで確認できているわけですから、ここから連中の前方を塞ぐことはできませんか? 瞬発爆弾で吹き飛ばすこともできそうですが」
「どちらもできそうだ。爆弾を使うと、体がバラバラになって、誰が誰なのか分からなくなるんじゃないか? やはり捕らえた方があとあと役に立つと思うぞ」
「それもそうですね」
「それじゃあ、逃げられないように何かで通路を塞いでやろう。余っているから砕石でいいか。『排出!』
これで塞げたはずだ。
よーし。赤い点が止まったぞ」
「急ぎましょう」
逃げ出した連中がいたと思われる部屋に入ると、そこは会議室のようだった。拡大したミニマップで見ると、正面の壁の裏側が通路になっている。
どこかに隠し通路に入るための仕掛けがあるのだろうが、面倒なので適当な形で壁の一部分を収納して通路への入り口を作ってやる。
今回は指先ファイヤーの小さな明かりでこそこそする必要もないので、カンテラを出してアスカに持たせ、でき上った孔を通って隠し通路の中に入って行った。アスカは両手にブラックブレードを持っているので、カンテラはアスカが髪の毛で吊っている。その見た目はかなり変ではある。
隠し通路は幅が50センチほどで非常に狭い。その通路はカーブを描いた下り坂になっており50メートルくらい進んだとことで向きが最初の方向から直角になった。そこから通路の幅が2メートルほどに広がり水平にまっすぐ続いていた。通路がまっすぐなだけあって、前方に明かりがうっすらと見えた。逃げ出した連中に違いない。もはや『袋の中のネズミ』だ。
『
明かりに向かって近づいていくと、向こうからもこちらに近づいてきた。連中も前回俺たちがハムネアから飛空艇で脱出したところを見て俺たちを待ち構えていたのだから、俺たちが何者かは当然知っているはずだ。ただ何者かは知っているかもしれないが、どの程度の実力があるか分からなかったようだ。もちろん、アスカの本当の力を知っているのは俺だけなので当然だがな。
20メートルほどの距離を空けて、先方の一番前に立つ細目のでっぷりしたおっさんが、俺たちに向かって、
「前皇帝しか知らないはずのこの通路。なぜ、おまえたちはこの通路が分かった?」
そういった会話に何の意味があるのか分からないので、それには答えず、前に進みながら、
「降伏しろ。人の力では俺たちにはかなわないぞ」
アスカのブラックブレードが目に入ったようで、男たちは怯んだようだが、もはや逃げ場はないので、数名が前に出て剣を抜き放ち構えを取った。
「おまえたちでは、いくらあがいてもわれわれには勝てない。降伏しろ」
「この、皇帝派の犬め!」
「アスカ、前のヤツらが構えた剣を壊してやってくれ」
「髪の毛ではわかりづらいでしょうから、ブラックブレードで切り刻みます」
そういったアスカが、二本のブラックブレードを斜め下にしたまま、一歩一歩前に進んでいった。たまりかねて剣を構えた一人が切りかかってきたが、アスカによって簡単にいなされ、ついでに剣自体が切り刻まれて柄だけが手元に残った。
「これで分かっただろ?」
分かったらしい。剣を持っていた別の男が剣を足元に投げ捨て、他の連中も持っていた剣などを鞘ごと投げ捨てた。俺は捨てられた武器を収納しておいた。
アスカは俺が手渡した砂虫テープで、降伏した男達の手を縛っていく。
「一度この通路から出るぞ」
アスカを先頭、俺が最後になって、捕虜を出口まで歩かせる。
道すがら、最初に何か言ってた細目のでっぷりしたおっさんがまた大声を出し始めた。
「皇帝の圧政から国民を解放した、われわれには大義がある」
こんなところで演説されてもうるさいだけなので、
「アスカ」
「はい」
アスカが手に持った砂虫テープで素早くその男の口に
壁の中の細い通路を伝いもとの会議室に出た。
捕虜たちは建物の前に連れて行った方が、残ったクーデター派の連中も状況が理解できるだろうし、飛空艇でやって来る第二陣にも都合が良いと思いそのまま廊下に出て、庁舎正面の広場まで帰ることにした。
途中、どこかに敵が潜んでいないかミニマップで確認しながら歩いていたのだが、みんなどこかに逃げて行ったようで、戦意のないものを示す黄色い点はまだかなりあったが、庁舎内には赤い点はもういないようだった。
『スカイ・レイ』が降下を開始して、ここまでで、だいたい1時間といったところか。
玄関ホールに出ると、天窓のあった場所から朝の青空が見えた。
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