第367話 新必殺技


 俺とアスカで他国の争いに介入することを決めたわけだが、今まで通りの方法でアスカに任せて敵を蹴散らしていってもいいが、敵を脅して戦意を喪失そうしつさせた方が少しは敵の無駄な被害も減るだろうと思い工夫くふうをすることを考えた。


 こちらの力をはっきり示すだけで威嚇いかくすることにはなるだろうが、アスカが力を示せば、髪の毛斬撃ざんげきの射程内の敵は皆殺しなので、それでおしまいだ。それでは威嚇も何もない。そこで、アスカには俺を防御することに専念してもらって俺が攻撃を担当することにした。


 方法は、折角せっかく作ったものの俺の収納の中に文字通りお蔵入くらいりしている投擲弾とうてきだんを利用するのだが、今までのように導火線に指先ファイヤーで火を点けて投げつけるのでは地味だし、時間もかかるため連射性が低いので、一工夫ひとくふうすることにした。


「アスカ、ここでは危ないので、まえに投擲弾の実験をした川原かわらにいくぞ」


「はい、マスター」



 二人で屋敷を飛び出し、例の川原にやって来て付近に人がいない上流まで少し遡って、作業開始だ。これがうまくいけばかなり派手な攻撃手段となるはずだが、準備段階ではタイミングが重要だ。それでも何回か練習すれば何とかなるだろう。


 指先ライターでは少し時間がかかるので、アスカに魔道具の着火器を渡して、最初に作った爆発力の高い投擲弾をアスカの足元に数個置いている。


 俺が合図したらアスカが投擲弾の導火線に火を点けて、それを放り投げる。空中で爆発した瞬間を狙って俺が収納する。というものだ。


 言い方を変えると爆発そのものを収納してやろうという試みだ。そして、必要な時に必要な場所に爆発を排出・・・・・してやるという寸法だ。


 収納スキルを利用しているためミニマップにも連動している回避不能攻撃だ。俺がその気になれば目に見えている相手だけでなくミニマップ上の相手の体内に爆発を排出することもできる。もはやエグいを通り越した最凶攻撃と言えるだろう。


「アスカ、投げて3秒後に爆発するように、投擲弾に火を点けて向こうに放り投げてくれ」


「了解しました」


 アスカが足元の投擲弾を手に持って、着火器で導火線に火を点け、少しめてから放り投げた。


「3、2、1」


 ピカッと光った瞬間収納したはずだったが、少し遅れたようで、光球がだいぶ膨らんだ後、収納したようだ。すぐに、


 ドー、という少し間の抜けた音が響いてきた。


「マスター、別に爆発した後でなくてもいいんじゃないでしょうか?」


 それもそうか。排出して爆発まで間が空いてはマズそうだけどすぐに爆発するなら何も問題ないな。


「わかった。それじゃあ次いってくれ」


「はい。……、3、2、1」


 アスカが『1』と言い終わって、ほんの一瞬おいて収納した。まだ爆発はしていないが、これは成功だろう。


 アスカの足元の投擲弾を補充しながら、


「よーし、どんどんいこう」


「はい。……、3、2、1」


「……、3、2、1」


 ……


 かなり、爆発のストックができてきた。


「アスカ、だいぶ貯まって来たからちょっと休憩しようか?」


「はい。まだ、100発くらいですから、あと2、300発は欲しいですね」


「しかし、帝宮の中で100発もぶっ放したら、帝宮そのものがダメになってしまわないか?」


「少々壊してもいいとアリシアさんからお墨付すみつきをもらっていますから大丈夫でしょう。怒られたとしても、マスターお得意の後の祭りですし。復興需要があればそれはそれでいいんじゃないでしょうか?」


「それでいいのかな。とはいっても俺たちが気にすることでもないか。クーデターの連中がやったことにすればいいものな」


「マスターが特に気にしないのであれば、最初から帝宮ごと粉々にした方が手っ取り早いですし、それこそマスターが、クーデターの連中ごと帝宮を収納してしまえば、敵は空中から落っこちて、大怪我をしてそれでおしまいです」


「それもそうだがそれだと犯人が俺だとまるわかりになるからな。まあ、せいぜいメチャクチャは控えてメチャくらいにしておくとするか。それじゃあ、そろそろ作業を再開しよう」


「はい」



 結局それからアスカの言うように200発ほど爆発間際まぎわの投擲弾を製造してしまった。


「よーし、これくらいあれば、一生ものだな」


「一生ものは言い過ぎかもしれませんが、補充しなくても当分はマスターの必殺技になりそうですね」


「だろ。あともう一つ試したいことがあるんだけど、これはすぐに終わるから。アスカ、見ててくれ」




 アスカにことわり、もう一つ新たな攻撃手段を試してみた。


 以前、敵の体の一部を物と考えて、相手から収納でむしり取ってやるということを思いついていたのだが、さすがに人相手に手足や頭をむしり取るのは気が引けるので、別の方法を考えてみた。


 どうするのかというと、あらかじめ空気でできた膜状の円盤を何個も収納しておいて、相手の切断したい部位にその膜状円盤を強制的に輩出してねじ込んでやるという方法だ。


 試しに空気の膜状の円盤を一つ取り込んで、川原に転がっていた丸石の真ん中目がけて排出してやったところ、難なく丸石がぷたつになった。


「やはりマスターの収納を使った攻撃は圧倒的ですね。お見事です」


 これまで石を岩の中にねじ込むときには多少の抵抗があったが、今回空気の円盤を丸石の中にねじ込む際には抵抗を全く感じなかった。空気の円盤の収納はどこでもできるので、これから暇なときは空気の円盤をどんどん収納していこうと思う。


「さーて、今回の新しい攻撃方法にはなんて名前を付けようか?」


「そうですね。投擲弾の方は、マスターが排出したらすぐに爆発するわけですから、『瞬発爆弾』でしょうか。おそらくマスターのセンスから考えれば『なんちゃってファイヤーボール』とか考えていたと思いますが」


 ギクッ!


「さすがに、『なんちゃってファイヤーボール』はないから、アスカの顔を立てて、『瞬発爆弾』でいいや。そしたら、空気の円盤を相手にねじ込んで切断するのは、中を取って『なんちゃってエアカッター』でいいな」


「予想はできていましたので、マスターのお好きなようにどうぞ」


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