第365話 アリシア邸での密談
こちらは、ショウタたちが退室したあとのアリシア邸の会議室。
アリシアのほかは今や副官格のハンナ・ライヒ、それにショウタによって帝都から救出されたハムネア冒険者ギルドのギルドマスター、ソニア・バツーの二名。
「それで、先ほどの襲撃犯のことだけれど、やはりクーデター側が差し向けてきたのかしら? 招待客に紛れていたということはそれなりの準備が必要でしょう?」
「尋問の結果はまだわかりませんが、それ以外には考えられません。ある程度の組織がここセントラルに存在する可能性があります」
「これで最後とは言い切れないから、ハンナ、警戒は厳重にね」
「はい」
「それでは、今後のことを少し話し合っておきましょう」
「あのう、陛下。いただいた書状には内部工作を仕掛けていくということでしたが、帝都内の影響力のある主だった者たちの多くは逮捕されてそのほとんどのものは処刑されています。残った者は地下に潜伏しており今は活動できそうな状況ではありません。内部からの工作はかなり困難だと思います」
「そうね。そのことは今のところは諦めましょう。
あとは旧帝国軍の動向ね。軍は地方に分散させられていると聞いているけれどどうなのかしら? バツーさん何か聞いていますか?」
「私が知っている範囲では、地方の反乱を抑えるため帝都の旧近衛連隊は地方を転々としており、帝都および皇宮の防衛は新たに組織した首都警備隊が行っています。首都警備隊の規模は三千人から四千人程度だったと思います」
「やはり最初の予定通りアデレードに兵を借りての正攻法しかないわけね。帝都の守りはかなり薄そうだけれども、それでも攻城戦を仕掛けるとなるとこちらに多くの犠牲者が出るわ」
「われわれ側、クーデター側、どちら側に立つにせよ、地方の軍はすぐには動けないでしょうから、敵の首脳部を一撃で刈り取ってしまえば、地方の軍はすぐに
「それはそうかも知れないけれど、敵の首脳部を一撃で刈り取とることなどそれこそ不可能でしょう?」
「普通の手立てでは不可能ですが、それを可能にする人物たちに心当たりがあります」
「まさか、あの二人?」
「ショウタ殿、アスカ殿が引き受けてくれさえすれば、たやすく敵の中枢を破壊できると思います」
「いくらあの二人でも軍隊を相手にすることは難しくはありませんか?」
「私が捕らえられていたのは皇宮の地下牢だったはずです。あの場所にたやすく侵入して、意識不明の私を連れて簡単に脱出した二人にはなにか特別な力があると信じています」
「噂ですが、アスカ殿が一度、アデレートの第3騎士団相手に訓練で手合わせをしたそうですが、たった一人で、数百人の騎士団員をなぎ倒したそうです。それと、あの二人は、防具など一切つけずどんな時でも普段着なのだそうです。自分たちの力に絶対の自信があるからだと思います」
「そういえば、前に投擲弾なるとんでもなく物騒な物を持っていたわね。でも他国の戦争、それも内戦なのよ。さすがに引き受けてはくれないでしょう」
「そこは、陛下のお力で」
「私の力といっても、名ばかりの皇帝、実際はタダの小娘。しかも、相手は時価で大金貨5000枚は下らないという『エリクシール』をわずかな依頼料の依頼を果たすために惜しげもなく使う。そんな相手にこちらから差し出せるものは何もないわ」
「陛下、いっそのこと、陛下がショウタ殿を
「ハンナ、何をバカなことを言っているの? 私がショウタさんと結ばれるなどと、そ、そんなこと、で、できるわけないでしょう」
「そうですか? ショウタ殿はなぜだかわかりませんが髪の毛を短く刈っているため変人に見えますが顔立ちは整っていますし、大陸一の大錬金術師でAランク冒険者、しかもあの若さで、平民から今ではアデレート王国の伯爵。これほどの方はいらっしゃいません」
「わ、わたしが良くてもショウタさんにも都合という物があるでしょう。それにアスカさんはショウタさんといつも一緒じゃない」
「アスカ殿は実はショウタ殿の家来だという話です。現にいつもアスカ殿はショウタ殿の一歩後ろにいますし、ショウタ殿がいつもアスカ殿に指示を出しています」
「そ、そうだったの? それなら、……、いやいや、ないない。それにリリアナ殿下もショウタさんを狙っているし」
「それはそれ、これはこれ、こういったものは早い者勝ちだと思います」
「……」
「陛下、御決断ができないようでしたら」
「ハンナ、ほかに何かあるの?」
「ショウタ殿への返礼のことは置いておいて、
ショウタ殿がこの仕事を引き受けてくれ作戦が成功したとして、その後のことを考えませんか?」
「それもそうね」
「ここセントラルから、ハムネアまで馬車で移動したとして3カ月以上かかります。軍隊が移動するとなると、その倍はかかるかもしれません。それですと、敵を斃しハムネアを掌握したとしても、維持は困難となりますので、わが方の兵士は作戦決行の5から6カ月前にはアデレードから出発しておく必要があります」
「それはそうね」
「陛下、今の帝都の民衆はクーデター政権によりかなり苦しめられています。大手の商会などは、身に覚えのない罪状をでっちあげられ何軒も私財を没収されていますし、没収まで行かなくとも難癖をつけて金持ちや商会などに現金や物品などを差し出すよう強要もしています。物資の供給も細り、帝都では食料品までも高騰していました。その結果多くの者が帝都から逃げ出していまではひところの半分程度しか帝都には人はいません」
「帝都の奪還は早いに越したことはないし、遅くなればそれだけ帝都の復旧が遅れてしまうわけね。ということは、クーデターの中枢を排除したのち、すみやかに帝宮の掌握ができればいいってことかしら」
「はい、少数精鋭による先遣部隊を送り込むのはどうでしょう」
「小数と言っても、ショウタ殿の飛空艇を当てにしたとしても10名も送り込めないんじゃないの?」
「いえ、アデレートの騎士団には飛空艇があるそうで、それには20名は搭乗できるそうです。リーシュ宰相に陛下から依頼すれば、騎士団の飛空艇で人員の移送を行ってもらえるかもしれません」
「なるほど、20名を二、三度往復してもらえれば40~60名。それくらい送り込めば募兵で兵士をあつめたとしても、兵士たちに指示も出せるし、帝都の維持もできそうね。アデレートの第1騎士団の人を10名も借りれれば後の兵士はこちらで用意しても絶対だわ」
「そういうことで、成算は十分あります」
「そのようね」
「それでは、陛下ご決断を」
「ハンナ、私が何を決断するの?」
「ですから、陛下がショウタ殿にわが身を差し出してクーデターの首謀者たちの
「ハンナ、変な本の読み過ぎではないの?」
「今のは冗談です。ですが、いつでも人員を送り込めるようリーシュ宰相に話を通しておくことは早い方がいいでしょう」
「それはそうね。明日にでも王宮に顔を出してみるわ」
「それと、だめもとでショウタ殿に今の件を依頼してみてはどうでしょう。殿下がみずから、ショウタ殿の屋敷に訪ねて頼み込めば可能性はあると思います」
「そうね、ショウタさんって、頼み事は断れない人に見えるものね。やるだけはやってみましょう」
ショウタの知らないところで、なにやらいろいろな意味で恐ろしい計画が練られているようだった。
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