第364話 再びアリシア邸へ

[まえがき]

誤字報告ありがとうございます

◇◇◇◇◇◇◇



 その日はソニアさんには客間を使ってもらった。


 翌朝、日課の体操とランニングを済ませた。ソニアさんも朝早くから目覚めたようで、なぜか俺たちと一緒にラジオ体操を見よう見まねで行った後、ランニングまで付き合った。たった一日で体力まで完全回復したようだ。



 俺やアスカにとっては単に予想外なことが起こってしまっただけのことなのだが、偶然が重なって歯車がかみ合った結果、ソニアさんは命を取り留めたうえ、全快してこうしてパルゴールのハムネアから2500キロも離れた俺の屋敷で食事をしている。そう思うとめぐりあわせとはつくづく不思議なものだ。


 朝食を食べ終えて、しばらくお茶を飲んでゆっくりしたところで、シャーリーを馬車で付属校に送り届けたサージェントさんが戻って来たようだ。そろそろソニアさんをアリシアさんの屋敷に連れていこう。依頼内容なんだかずれたことになってきたが、こればかりは仕方がない。



「それではソニアさん、アリシア殿下、いや、陛下の元にお送りします。ちょうど一昨日王都での陛下の屋敷のお披露目があったばかりなんです。そういう意味ではちょうどよかったですね」


 そう言ったものの、何がちょうどよいのかは微妙なのだが、


「どこまでも面倒を見ていただきかたじけない」


 と、またお礼を言われてしまった。あまりお礼ばかりされるのも気疲れするようだ。



 サージェントさんに馬車を玄関に回してもらい、そのままアスカと俺とソニアさんが乗り込んでアリシアさんの屋敷に向かった。


 馬車の窓からセントラルの街並まちなみや人の行き来などを眺めていたソニアさんが、


「セントラルはうわさにたがわず大きな都なのですね。それに道行く人がみな明るく見える」


「そうですね。日中にっちゅうのハムネアは知りませんが、ハムネアと比べてこちらの方が人の数が多いのかな?」


「クーデター以来、ハムネアから人が多数流出していますので今ではだいぶ人の数も減っています。元はこのセントラルと同じくらいの人の数だったと思います」


「ハムネアでは外壁の門が閉ざされ、見回りが多数街を巡回していましたがそんなに簡単に街から逃げだせるのですか?」


「帝都には、地下から外壁の外へつながる抜け道が実はたくさんあります。ですので家財を捨てる気と抜け道を知っている者への伝手さえあれば簡単に脱出できるのですよ。大手の商会などは、何軒も私財を没収されていますから、現金だけを持って帝都から夜逃げするものが後を絶ちません」


「そこまでのことをしているとなると、クーデター政府はかなり厳しい状況に陥っている?」


「そうだと思います。没収まで行かなくとも難癖をつけて金持ちや商会などに現金や物品などを差し出すよう強要もしているようです。そういった状況ですので、帝都外からの物資の供給もとどこおりがちで、食料も不足しています」


 どういった名目でクーデターを起こしたのかは知らないが、なるほど、クーデター政府はデタラメをやってるってことか。放っておいてもじきに瓦解がかいしてしまいそうだが、国民は可哀かわいそうではある。


 そんなことを話していたら、馬車がアリシアさんの屋敷に着いた。俺とアスカだけなら走って移動する方が速いので馬車はそのまま屋敷に帰した。


 門衛の人がすぐに出てきてくれたので来意を伝えたところ、そのまま玄関まで案内され屋敷の中の会議室に通された。


 通された会議室の椅子に三人でしばらく座っていたら、アリシアさんとハンナさんがやってきたので、立ち上がり、


「陛下、ただいま帰還しました。少し状況に変化がありまして」


「ショウタ殿、アスカ殿、ご苦労さまでした。状況に変化? それと、そちらは、えっ? バツーギルドマスター!」


「ご即位おめでとうございます。陛下が帝都を脱出されてからいろいろございまして、私は昨日までクーデター側に捕らえられておりました。

 拷問の末、意識を失いそのまま死んでしまったはずのところを、気付いたときには、ショウタ殿、アスカ殿に助け出されていました。

 私を助け出していただいた際、体中ボロボロになり両目まで失った私を『エリクシール』まで使い完治していただきました」


「なんと! ショウタ殿、アスカ殿、本当にありがとうございます」


「頭をお上げください。これもソニアさんの強運きょううん賜物たまものだったのでしょう」


「強運で片付けられるようなことではないと思いますが、これ以上ショウタ殿に何を言っても仕方がないでしょうからここはいったんおいておきましょう」


「それで、ご依頼の件の報告ですが、

 ソニアさんに書状はお渡ししましたが、そういったことでしたのでお預かりした箱の方はまだお渡ししていません」


 そういって、預かっていた小箱を床の上に出しておいた。


「分かりました。依頼達成ということで、明日にでもショウタ殿の口座に依頼料を振り込んでおきます」


「ありがとうございます。それでは、われわれは失礼します。また何かあれば言ってください。私とアスカでできることならやりますから」


「そう言っていただきありがとうございます。頼りにさせてもらいます」


 儀礼上なんとなく言った最後の一言が余分だったか? 仕方しかたがない。これも乗りかかった舟だ。



 俺とアスカはアリシア邸を辞して、次に冒険者学校にペラを訪ねることにした。


 王都内を高速で駆け抜け、そのまま走り続けてトンネルを通って露天掘り跡地の底にたどり着いた。


 トンネルの先から一段上に上がってみると、20名の新入生たちが50メートルくらいの短距離ダッシュを繰り返していた。四人の助手たちもなぜか生徒と一緒になって走り回って汗を流していたのだが、彼女たちは新入生たちを圧倒していた。これもペラの考えた教育の一冠なのだろう。


 生徒たちを見守るペラを呼び、屋敷が襲撃されたことを話し、今度俺とアスカが屋敷を留守にするときにはその前に知らせるので、屋敷にいちど戻って警備をするよう言っておいた。それと、釈迦しゃか説法せっぽうかもしれないが、季節が季節なので生徒や助手たちの水分と塩分の補給はこまめにするように言っておいた。


 そういった話をしながら、なにか雰囲気が違うと思ってペラを見ると、この夏の日差しの元、なぜか首にこげ茶色のマフラーを巻いている。はて? どこかで見たような。


 まさか?


 ペラが首に巻くマフラーをよーく見れば、先日一期生たちが最初の宝箱からの戦利品だと言ってペラに渡した『ゴブリンのフンドシ』じゃないか!


 まあ、本人が気に入っているんだったら好きにさせよう。




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