第358話 再びハムネアへ


 アリシアさんの新居のお披露目式にお祝いに行ったはずだったが、アスカともどもパルゴール帝国の名誉子爵にされた挙句あげく、直接依頼を受けてしまった。依頼の内容はそれほど難易度の高いものではないようなので引き受けてしまった。


 俺たちが会議室を出たころには、立食パーティーの方もお開きになったようだ。帰りは近くの駅馬車駅に行こうか、折角だからアルマさんの屋敷に顔を出そうかと思っていたら玄関を出たところで、ハンナさんに呼び止められた。アリシアさんの馬車で送ってくれるそうだ。


 そういったわけで、アルマさんの屋敷に寄り道するのはまたの機会にして馬車にはそのままうちに送ってもらった。


 馬車に揺られながら、向かいに座るラッティーが、


「ショウタさん、だから・・・、帰ったらちゃんとフーにお礼を言ったほうがいいよ」


 ラッティーに『だから』と言われてもな。もしも俺が、フーの本体に二礼二拍手一礼して、ひたいの数字が一つ増えてしまって、信者認定されたらいやじゃないか。


 ということなので、ラッティーの布教にはあいまいに答えておいた。




 雑談をしていたら、じきに馬車は屋敷の前に到着したので、御者の人にお礼を言って、屋敷に入り二階の自室で普段着に着替えたら、こちらも普段着に着替えたアスカがやってきた。アスカの衣装も俺の衣装も、うちの者が確認して汚れやシミなどがあればきれいにして片付けたものを、一緒に俺が収納するようにしているのでどこかに行って急なパーティーなどがあっても大丈夫。


「マスター、ハムネア行きですが、日中到着してしまうと、『スカイ・レイ』が多くの人間に目撃されます。飛空艇を自由に使っているのは、アデレートのわれわれだけであることはいまや大陸中で誰でも知っていることでしょうから、われわれがやって来たことがハムネアのクーデター側に知られてしまうと思います」


「そう言われてみれば、そうだな。なるべくわれわれの潜入があっちに知られない方がいいもんな。とはいえ、街道上空を飛行するんだったら、いずれ向こうの連中に知れてしまうんじゃないか?」


「すぐに出発すれば、ほとんどの行程が夜間飛行となり目撃されにくいと思います」


「よしわかった。すぐに準備して、夕食を食べずに出発しよう」


「了解しました」




 これから午後4時に出発すると、10時間の飛行でハムネアの近くまで到達するのは深夜の2時ごろになる。ハムネア市街には前回同様、外壁に孔を空けて侵入するつもりだ。


 ハムネアの冒険者ギルドのギルマスが、ちゃんとギルドの中にいてくれればいいが、自宅に帰っていたりしたら朝まで待つことになるか。その日は『スカイ・レイ』が見つからないよう日が暮れるまで時間を潰してから帰ってくるとして明後日の朝までにはここに戻ってこれそうだな。



 そんなことを考えながら何気なにげなく部屋の中を見回したら、フーが目に入った。生きている鎧はいいが、こいつは鎧として装備できるんだろうか? 中身がないんだから、なんとか分解して一つずつ着ていけばいけるんじゃないか? 見た目、俺にちょうど合いそうな大きさだし、ちょっと試してみるか?


 今まで、フーを注意深く見たことがなかったので気付かなかったが、鎧自身は革製の留め具で固定されているようで、その革製の留め具を緩めてやればなんとか分解できそうな気がする。バラバラにしてしまって組み立てられなくなったら、ラッティーに怒られそうなので、今日は試さないでおこう。そのうち器用者のアスカに頼んでもいいだろう。



 出発前には、みんなに今夜から数日留守にして、パルゴールのハムネアまで行き、早ければ、明後日にも帰れるし、遅くとも4日で帰れると告げておいた。



 午後4時、ゴーメイさんに急いで作ってもらったサンドイッチなどの入った包みを手渡され、みんなに見送られて南の草原くさはらに置いた『スカイ・レイ』に乗り込んだ。



「『スカイ・レイ』発進!」


「『スカイ・レイ』発進します」



 王都を後にして、西の街道上空を『スカイ・レイ』が飛行する。西の空に陽が沈み、街道上には、この時間になると移動している馬車や旅人は往来していないようだが、街道の脇に焚火たきびと思える明かりが点々と並び始めた。そのため夜間でも飛空艇が街道上空から外れる心配はない。もちろんアスカが操縦しているので、そういったものがなくても位置を失うことはないはずだ。



 順調に西に向かって4時間ほど飛行を続けていたところ、前回バルゴールを目指していたときワイバーンに遭遇した辺りに差し掛かった。どんなものかとあたりを見渡したのだが、さすがに星明りだけだと何も見つけることはできなかった。


 念のためミニマップで今できる最大範囲で調べてみたが、北の方角に見える黒いシルエットで浮かび上がった山地の方に黄色い点は沢山あったが、その中に活動していないワイバーンが含まれているのかどうかは全く分からなかった。もちろんナンチャッテ冒険者の俺は、ワイバーンが夜目が利くのか、夜間活動するものかなど知らないので何とも言えないというのが実情だ。


 さらに飛行を続けていくと、街道上には灯りはだいぶ少なくなってきた。アデレードの領域を越えて砂漠地帯に入ったのだろう。


 途中一度、ゴーメイさんの作ってくれたサンドイッチをアスカと二人で夜食として食べただけで『スカイ・レイ』は飛行を続け、午前2時少し前に前方に黒い影となったハムネアの外壁と街並みが見えてきた。


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