第359話 ハムネア潜入

[まえがき]

2020年12月18日8:50

前話において、セントラル-ハムネア間の距離を間違えていましたので、その関連部分を修正しました。(片道に5時間とかいていましたが、10時間かかります)

◇◇◇◇◇◇◇



 パルゴール帝国の帝都ハムネアの外壁から5キロほど手前、ミニマップでも周囲1キロに動きのある点のないことを確認して砂地の原っぱに『スカイ・レイ』は着陸した。


 そういえば、アスカに飛行中教えて貰ったのだが、バルゴール帝国の今現在の国名はタダのバルゴール、帝都ハムネアは首都ハムネアというらしい。皇帝も王さまもいないわけだから当然と言えば当然か。革命委員会とかいう組織が今のバルゴールを指導しているらしいが、必ずしも地方がそれに従っているとは限らないということだ。


 着陸後、素早く『スカイ・レイ』を収納して、ハムネアに続く街道まで駆けて行った。


 時刻は午前二時少し過ぎ。


 二人で石畳の街道の上を駆けて、ハムネアの西門に近づいていったところ、門はしっかり閉ざされていた。この時間でも外壁の上ではたいまつを持った兵士が行き来しており、かなり厳重な警戒を今でも続けているようだ。


「何だか、相変わらず物騒な感じだな」


「街道の上では目立ちますから、ここから外れたところから、外壁まで接近しましょう」


 首都を囲む外壁の外側には空き地が広がっていて、さえぎるものはないのだが、白っぽい石畳の上にいるより地面の方が目立たないだろう。


 外壁前の空き地を一気に突っ切るように横断して外壁にとりついた。たいまつを持った哨戒しょうかいの兵士の行き来の合い間、外壁の向こう側の道路上に誰もいないことを確認して、前回侵入した時と同じようにアスカが入れたアーチ形の切れ目に沿って外壁を収納。でき上ったトンネルを自慢の指先ファイヤーのわずかな明かりを頼りにくぐり抜け、すぐに切り取ったアーチ形でトンネルをは塞いでおいた。


 さすがにこの時間、民家には明かりはついていない。セントラルと違い街灯などもほとんどないようで、たいまつなりカンテラを持っていないと星明りだけでは建物の陰になっている足元は真っ暗である。走っていくほど急いで冒険者ギルドに行く必要はないため足元に気を付けながら、途中何度かたいまつを持って見回り中の兵士をやり過ごしてながら、ゆっくり冒険者ギルドに向かった。


 なんとか、誰にも出くわすことなくハムネアの冒険者ギルドの前まで到着することができた。


 前回来た時は中から明かりが漏れ、冒険者たちの騒ぎ声なども聞こえたのだが、今は真っ暗で、人の気配が全くなく物音も聞こえない。


「アスカ、この時間だから誰もいないのかな?」


「その可能性もありますが、通常冒険者ギルドは24時間営業のはずです。このギルドだけ24時間営業を止めてしまった可能性は低いと思います」


「と言うことは?」


「店仕舞いして閉鎖してしまったとか」


「そんなことがあるのかな?」


「あまりないのでしょうが、マスターのミニマップでも誰もいないように見えますが」


「ほんとだ、自分のミニマップのくせに気付けなかった。だけど困ったな。ここに誰もいないのならソニアさんもここにはいないわけだし、ソニアさんが今どこにいるのかの手がかりもないな」


「マスター、困った時の神頼み」


「なんだよ、ここから、東に向かってフーに頼めって言うのか?」


「いえ、フーではなくクエストマーカーさまです」


「そういえばそうだったな。クエストマーカーさまにお祈りしてたら、現れてくれたものな。それじゃあ今回も、

 クエストマーカーさま、クエストマーカーさま、なにとぞお現れになってください。アーメン、ソーメン、ヒヤソーメン、……、あれ、ダメか。

 クエストマーカーさまは現れなかった」


「マスター、万が一ということが有ります。ここは、試しに東に向かってお祈りしてみてはどうでしょうか? 東の方向はあちらになります」


「気は進まないけど、やるだけやって見るか」


 アスカの指し示す方向に向かって、


「フー大明神さま、どうか、クエストマーカーをお出しください。……にれい、パンパン、……いちれい

 あっ! 出た。出てしまった」


「おめでとうございます。これでマスターも立派なフー信者ですね。フーの額の数字が1つ増えているといいですね」


 いやだよ、そんなの。とはいえ、クエストマーカーが現れたのはありがたい。マーカーの方向にソニアさんがいるはずだ。


「アスカ、あっちの方には何がある?」


「あの方向には帝宮があります。今は中央庁舎とか呼ばれているそうです」


「しかし、何でもいいけれど、アスカはパルゴールのことをよく知ってるな」


昨日きのうの式の時に小耳にはさみました。ソニアさんはアリシア派の重要人物でしょうから、彼女が元帝宮、中央庁舎にいるということは、どう見ても普通ではありません。クーデター側に捕らえられている可能性もあります」


「その可能性は高そうだな。とにかく急いだほうがよさそうだ」


「中央庁舎で捕らえられていた場合、そこから救出することになると思いますが、それはこの国に対する明白な敵対行為と見なされます。マスター、よろしいですか?」


「気にしても仕方ないだろ。帰ってリーシュ宰相に何か言われるかもしれないが、アデレード王国も『魔界ゲート』が片付けば、このクーデター政権を倒してアリシアさんを復権させようと思っているんだからその程度のことは今さらだろ」


「分かりました。それでは急ぎましょう」


 急ぐと言っても、いつもの高速走行はさすがにはばかられるので、俺たちは見回りに出会わないよう、様子を見ながらクエストマーカーの示す方向に進んでいった。



 進んでいくと、アスカのいった通り、目の前に中央庁舎と思われる巨大な建造物が見えてきた。高さが5メートルほどの塀で囲まれていて、周りには、幅5メートルほどの水堀みずぼりめぐらされている。


 水の中には入りたくないし、どうしようかと思ったが、堀の向こうには人が歩けるような小道になっていたので、5メートルくらいなら助走をつけて飛び越えることはできそうだ。アスカなら難なく飛び越えることができそうだが、俺の場合、飛び越えた後、勢いを殺せず塀にぶつかりそうだ。


「マスター、何か適当な材木を渡したらどうでしょう」


 そうだった、木ならたくさん収納庫の中に入っている。


 太目で比較的まっすぐな木を手前から堀の向こうに渡すように排出し、枝はアスカに払ってもらった。


「うまくいった、渡ろう」


 枝の払われた木の幹を注意深く渡って、向こうの小道にたどり着いて、渡り終えた木はすぐに収納しておいた。


 ミニマップで確認したところ、塀の先やその近辺には見張りなどいないようなので、さっくりとアスカにアーチ形に切れ目を入れてもらい、俺がアーチ部分を収納して、いつもの通路を作って中に侵入した。アーチ部分はすぐに元に戻しておいたので、見回りの巡回程度では気付かれることはないだろう。



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