第357話 直接依頼

[まえがき]

2020年12月15日、270万PV達成しました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 シャーリーたちの衣装を紹介するのを忘れていたので、ここで。


 シャーリーのドレスは、内側が真っ赤な生地のノースリーブのワンピースで、アクセントの黒いベルトが腰の少し上に巻かれてその下のスカート部分には、下の生地が透けて見えるような薄い生地が取り巻いている。背中もそれなりに露出しており、ブランドがブランドだけにややスカートの丈は短い。少しお姉さんっぽいドレスだ。


 ラッティーの方は青い生地で、要所要所に黒の縁取ふちどりがされた引き締まった感じの半そでのワンピースで、こちらもスカート部分の丈は短い。


 二人とも服の色と同じサンダルを履いている。



 立食パーティーのなか、俺たち四人はテーブル一つを占拠して適当に料理を小皿にとってつまんでいたら、ハンナさんがやってきた。


「賊の襲撃を防いでいただいた上、捕縛ほばくもしていただいたようで、ありがとうございました。まさに大陸最強の冒険者の実力を間近に見ることができ感動しました。それと、突然の叙爵は申し訳ありませんでした。どうしても陛下がお二人を叙爵したいとおっしゃりまして」


「これも何かの縁ですから、これからもよろしくお願いします。それと、先ほどまでご即位されたとは知らなかったもので、陛下にご即位おめでとうございますとお伝えください」


「ありがとうございます。それと貴族年金ですが、申し訳ありませんが、亡命政権の現状ですので、お支払いできません。帰国後、本年度起算きさんでお支払いいたしますのでご了承ください」


「そんなことは気にされなくて結構ですよ。なあ、アスカ?」


「もちろんです」


「ありがとうございます」


「それと、今日は新居の披露ということでおうかがいしたため、お祝いを持ってきたのですが、ご即位のお祝いもかねて、これをお受け取り下さい」


 そう言って、収納の中からアスカの作ったミスリル製ドラゴンを取り出しテーブルの空いたところに置いた。


 ミスリルの特徴のある銀色がきらめき今にも動き出しそうなドラゴンの像。全長60センチとかなり大きさのあるミスリル像のため迫力がちがう。この像をみたパーティーの出席者からのどよめきが波紋はもんが広がるように広間の中を広がって行った。


「これが、王都でうわさのミスリルのドラゴン。おそらく、将来陛下が帝都にお戻りなった暁には、国宝とされ帝宮宝物庫に納められるでしょう」


 国宝とはまた大げさな。ハンナさんもリップサービスがうまいな。


 アスカの顔を振り向くと、まんざらでもないというか、ちょっと嬉しそうな顔をしている。そりゃ自分が作ったものが国宝にされるとなると嬉しいよな。そんなに嬉しいなら、俺の机の上のアスカフィギュアも関節部が可変式でけっこうすごい作品なんだから将来バルゴールに送れば国宝にしてもらえるんじゃないかな。


 あれ? アスカがそっぽを向いた。それはさすがに恥ずかしいのか?


 ハンナさんが、


「せっかくですので、ステージの上に飾ってしまいましょう」


 近くにいた侍女の人に、ドラゴン像を運んでパーティー会場の正面に一段だけ高くなったステージの上に飾るようハンナさんが指示をした。像はすぐに運ばれてきた台車に乗せられ、ステージの真ん中に急いでしつらえた台まで運ばれ、その上に飾られた。同時に俺とアスカがアリシア陛下に贈ったものだと発表されてしまった。


 その発表を受けたパーティー会場から、俺たちに向かって一斉に拍手があがった。俺は軽く会釈えしゃくしながら、アスカの顔を盗み見ると、今度はドヤ顔をしていた。俺が見ていることに気づいたようで、慌てていつもの顔に戻ってしまった。いいんですよ、どんな表情をしていても。


「あのドラゴンはほんとに生きてるみたいだもんね!」


「アスカさんが作った物はどんなものでも芸術品になるんですね!」


 ラッティーとシャーリーがまたアスカを『ビックリマーク』付きで持ち上げるものだから、またアスカの顔がドヤ顔になってきたような気がする。



 そんな感じで、立食テーブルを囲んで立ち話をしていたら、侍女らしき人がやって来て、アリシアさんが俺たちと折り入って話があるという。ラッティーとシャーリーも連れて行っても良いそうなので、その人の後について、ハンナさんも含めて五人で別室とやらに案内されていった。


 面倒なこともなく、食事してさようならということにはいかなかったが、このあたりは織り込み済みと言えばその通りなので、仕方ないとあきらめるしかない。願わくば、頼みごとをされるにしても簡単なことがらであってほしいところだ。



 案内された部屋には楕円形の会議机があり、そこにアリシアさんが一人座っていた。式の時は上着に勲章やら、右肩から腰にかけて斜めにたすき掛けにしたカッコいいおびのようなものを付けていたが今は外しているようだ。


「ショウタさん、アスカさん、それにシャーリーさんにリリムさん、適当に座ってください」


 言葉使いが以前と同じで、全く皇帝陛下といった感じがしないのだが、いいんだろうか?


 それでも席に着く前に、儀礼ぎれい上、お祝いを述べておいた方がいいと思い、


「この度のご即位、まことにおめでとうございます」と言って四人で頭を下げておいた。


「ショウタさん、してください。ただ格好つけに即位しただけですから。それにただの亡命政権、何の実力も今のところありません。あと、見事な置物をいただいたそうでありがとうございます。プライベートな席では、わたしのことは今まで通りアリシアでお願いします」


「新居祝いのつもりで持ってきたものですが、アリシアさんの即位祝いということでお受け取りください」


「わかりました。それで、わざわざ皆さんを別室にお呼びしたのは、お願いがありまして」


 ほらきた。


「なるべく早く、手紙と荷物をある人物に届けてほしいのです」


 あれ? その程度でいいのか。相手がどこの誰かによるが無理難題ではなさそうだ。安請やすうけ負いはできないので、詳しい内容を聞いてからの判断だな。


「どこのどなたに?」


「ショウタさんたちも知っている、帝都ハムネアの冒険者ギルドのギルドマスターのソニア・バツーさんです」


 場所も分かれば、あて先の人も知っている人だ。ちゃんと冒険者ギルドの中にいてくれるのならば簡単なミッションになる。



「本来なら、冒険者ギルドを通じて指名依頼するべき案件でしたが、折角今日おいでになるならと思い直接お二人にお願いいたします。報酬は少額ですが大金貨50枚でお願いしたいのですが?」


 正直、お金のために働く必要は今となっては何もないのだが、こうやって知ってる人から頭を下げられて頼まれると受けざるを得ない。これから先断る必要があるとききっぱり断ることができるか心配だが、この程度のことは何とかなるだろう。


 戦力のかなめであるアスカの顔を見ると、うなずいたので、問題はないと思っていいだろう。


「お引き受けいたします。明日にでも出発いたしますが、荷物というのはどれでしょう」


「ハンナ、例のものを」


「はい」


 ハンナさんが一度部屋を出ていき、すぐに台車に木箱を乗せて帰ってきた。


「荷物はその箱になります、それと、手紙はこちらです」


 黒塗りの小箱がアリシアさんの前に置かれていたのだが、その中から厚めの封筒を手渡されたので、そのまま収納しておいた。


「いっしょに荷物も収納してしまいます。それで、先方の受け取り確認はどうすればよろしいですか?」


「そこはショウタさんを信用していますので、口頭で結構です」


「了解しました」



 収納して分かったが、木箱の中身は現金、大金貨だった。想像するに、何かの活動資金かなにかなのだろう。あえて詮索せんさくする必要もないので黙っておいた。


 一連のやり取りを黙ってそばで見ていたシャーリーとラッティーだが、いずれこういったやり取りを自分でするようになるのだろうから、見ていただけだったとしてもいい経験になったろう。



 ハムネアまで、1200キロだったか、だいたい片道5時間。今回は誰かの救出や脱出という訳ではないので、真夜中こっそり忍び込む必要もない。アスカと俺でハムネアに行って帰って、長くても丸1日の仕事か。準備といっても何もないし、『スカイ・レイ』の整備も終わっているから、明日早めに出発して、チャッチャっと済ませてやろう。帰ったら、みんなで海にでも行くとしよう





[あとがき]

斜めにたすき掛けにしたカッコいいおびは正式には大綬たいじゅというそうで、その下あたりに勲章である各種の大綬章だいじゅしょうを下げるそうです。

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