第356話 ご新居2、襲撃
今日はアリシアさんの新居のお
ただのお披露目式であってほしいがアリシアさんが殿下から陛下にクラスチェンジしたかもしれないとアスカが言うので、ただのお披露目式ではないような気がする。その
なんであれ、遅刻はマズいので、式の始まる時間に余裕をもって間に合うようサージェントさんの馬車で四人そろってアリシアさんの新居に向かった。
馬車が屋敷街に入りしばらく進んで、アリシアさんの新居に到着した。屋敷の門は大きく開かれており、門前に立っていた案内の人がやって来てその人の誘導で馬車は敷地の中を進み、車寄せに到着した。
馬車の中から見えた駐車場には空きはあったが、そこまで広くないようだったし、式の後はパーティーくらいあるだろうからいつお開きになるか分からないので、馬車のサージェントさんにはそのままうちに帰ってもらった。ここからの帰りは近くの乗合馬車の駅から箱馬車になる。アルマさんの屋敷はここから近いので顔を出してもいい。
馬車を降りると、係りの人に新しい屋敷の中に招き入れられた。そのままその人の後について屋敷の中を四人でぞろぞろと進んでいき、
「別の者がお迎えに参りますので、こちらでしばらくお待ちください」
帝国式でこれが普通なのだと言われればそうなのかもしれないが、お披露目式なのに大げさな対応がちょっと心配だ。
そんなことを考えながら5分ほど、控室で迎えの人が来るのをおとなしく待っていたら、アリシアさんの侍女兼護衛を務めていたハンナさんがやってきた。着ている服はぴっちりした白い上着に白いスラックス姿。上下とも金糸で縫い取りされている。胸には数個の勲章のようなものまで付けている。どうも、パルゴール帝国の正装のような気がする。しかも、ハンナさんは細身のサーベルような刀も帯刀していた。
「コダマ伯爵閣下、エンダー子爵閣下、それにお嬢さま方、お久しぶりです。これより式を始めますので、私の後に続いてください」
気味の悪いほどの
「マスター、いつでも
いつも通りのアスカの励まし。アスカの言う通りなのだが、そんなことができるわけないのが世の中だろ?
四人でぞろぞろとハンナさんの後を付いて屋敷の奥の方に進むと、大きく開け放たれた扉があり、そのまま中に。
この部屋は大広間のようで、中では、大勢の人が、扉の位置からまっすぐ道ができるような形に左右に居並んでいた。その通路の先にはまたも一段高くステージが
「コダマ伯爵閣下とエンダー子爵閣下は、そのままお進みください。お嬢さま方はこのあたりでしばらくお待ちください」
なんだか、今のこの状況はちょっと前にルマーニで経験した状況に
『アスカ!』
『はい、マスター』
ミニマップの中、窓際の柱のさきに一つ赤い点が見えるというところだ。ここからは柱の陰になっているので、目視できないが、モンスターはこんなところに出現しない。赤い点は間違いなく賊だ。
『賊は、おそらくアリシアさんを狙っていると思うが、確証はない。賊が周囲の人たちを巻き込まないよう動きを封じることができるか?』
『簡単ですが、処分しなくていいですか?』
『いや、何か情報を持っているかもしれないから捕えたほうがいいだろう』
『今すぐ取り押さえますか?』
『賊が行動を起こす前に捕らえてしまうと、説明が難しい。行動を起こした後で被害を出さず無力化できれば現行犯逮捕できる。それがベストだが、できるか?』
『問題ありません。賊が行動を起こせば私が対応できますから、このままステージに上がりましょう』
視線が妙な方向に向けないようステージの方向をしっかり向いて、歩きながらアスカと打合せをする。アスカがいる以上どのような物理攻撃も防ぎきれると信頼しているので、その辺りは大船に乗った気持ちなのだが、シャーリーやラッティーの目の前で血などが流れてほしくはないと思う。俺自身は現代日本の気持ちだけ高校生なのだが、おそらくそういったものを見てもなんともないだろうと思う。
そのまま進んでくれと言われているので、このまま階段を上ってステージに上がってアリシアさんのところに近づいて行った。アリシアさんとの距離は約3メートル。一歩一歩進んでいく。あと1メートル。
これからステージの上で何をしていいのか戸惑っていると、アリシアさんが小声で、
『他国の貴族の方を
アリシアさんから指示が出たので、アスカともどもその位置で停止する。賊の動きはまだない。賊の位置からここまで約15メートル。考えられるのは飛び道具。暗殺ならば確実性を高めるため毒物の塗られた投げナイフか。
アリシアさんが隣に立つ女性の持つお盆の上から勲章のようなものを一つ取って一歩、俺の方に向かって前にでた。
その時、柱の陰に動きがあった。いままで招待客の中に紛れてじっとしていたのだろう、どこにでもいるような特徴のない顔をした男が一歩、二歩とステージの方に近づきながら、急に腕を振り上げ、細い金属棒のようなものを投げつけてきた。
金属棒を投げ終えた男は逃げ出そうとすぐに窓に向かって体を
その妙な格好のまま男は天井近く、宙を飛んでアスカの目の前まで引き寄せられた。
投げつけられた金属棒も、アリシアさんの手前1メートルの空中でアスカの髪の毛で受け止められ、見た目空中に浮いている。
アスカが右手を伸ばし引き寄せた賊の首筋に軽く触ったと思ったら、それまでアスカの髪の毛の拘束から逃れようとして必死の形相で体を動かそうとしていた賊は白目をむいて動かなくなってしまった。
『
だそうです。
そのあと、投げつけられた棒を手に取ったアスカが、
『先端に、致死性の毒が塗ってあります』
賊はまさしく
異変に気付いた広間にいた人たちが騒ぎ始め、数名の警備員と思われる人たちによって賊は気絶したまま、運ばれて行った。
その様子を見ていたアリシアさんが、
『今のは? お二方が?』
『私は、賊を見つけただけで、アスカが後は全て対応しました。いつでも簡単に捕まえることはできたんですが、なにがしかのアクションを起こさせてからの方が現行犯で捕らえられますから尋問などもしやすいと思い、動きだすまで放っておきました。申し訳ありません』
『いえ、ありがとうございます。中断してしまいましたが、式を続けましょう』
そう言ったアリシアさんが、手に持ったバッジのようなものを俺の左胸に取り付けてくれた。
そのあと、同じようにアスカの左胸にも同じバッジが取り付けられ、
「ショウタ・コダマ、アスカ・エンダー。両名の帝国への多大な貢献に報いるため、両名を名誉子爵に叙す」
そこで、広間から盛大な拍手。
今度は、パルゴール帝国の貴族になってしまった。皇女殿下が勝手にだれかに爵位を授けるわけにはいかないだろうから、やはりアリシアさんは皇帝陛下に即位していたということだろう。
確証を得たわけだが、突っ立ったままではまずいので、取り敢えず、
「ありがとうございます」
と二人で頭を下げてステージを降りてシャーリーたちの立っているところまで戻った。
「ね!」
またラッティーに言われてしまった。これもやっぱり『ね!』の一種なのか。
あとで警備の人に、直接毒には触らないように注意するように言って賊の放った毒の付いた針状の金属の棒は渡しておいた。
いろんな国の貴族になってしまったが、いずれラッティーも国に帰って女王陛下になればおそらく俺もアスカもなにがしかの
俺の叙爵が式の最後だったらしく、式の後、隣の大広間に移動して立食パーティーが始まった。
アスカに後で聞いたところ、最初にアリシアさんの皇帝への即位式が行われ、引き続き数名の帝国の人が本物の『名誉』の付かない貴族に叙爵や陞爵していたそうだ。ちなみに、アリシアさんは皇帝になり、自称や親書などでは『アリシア・バルゴール』のままだが、公式の場では『アリシアI世』と名乗るようだ。なんだかえらくカッコいい。
この屋敷は、この亡命政権が本国に戻り復権した
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