第349話 実習旅行4
ジャーキーを食べ終え、ピスタチオによく似た木の実を
「マスター、この生徒たちが卒業すると、次の二期生からは20名ですよね。今後、20名以上の生徒を募集することはあるのでしょうか?」
「ペラの能力次第だが、今のところいくらペラでも20人が限度じゃないか?」
「そのことでご相談があります」
「なんだペラ、あらたまって?」
「もし、マスターが20人以上冒険者を教育したいのなら、今の生徒たちの中から、助手を雇えばどうでしょうか?」
冒険者学校が軌道に乗れば、もちろん生徒は増やしたいと思っていた。学校の建物は最初から増築できるように設計しているから、入れ物的には40人程度までは余裕で生徒を増やせるだろう。
たしかに、ペラの意見は考えさせられる。しかし、現役冒険者の実力を底上げしようと思って始めた冒険者学校だ。その卒業生を青田刈りではないが、冒険者学校で雇ってしまうのには何か抵抗がある。
それに、雇うとなると給料の問題があるが、うちで雇っている他の連中との釣り合いもあるだろうから、さすがに法外な給料を払う訳にはいかない。
生徒たちのこのできだと、そのまま冒険者を続けていく方が稼げるんじゃないだろうか? 学校の助手をすることのメリットは安定した収入と危険が比較的少ないというところだ。いくら安全で安定した収入といえどもあまり稼げないようでは魅力はないだろう。
「こういった場合の給料の相場はどんなものなのかな? ペラ、今生徒たちはどのくらい稼いでいる?」
「半日の実地訓練で、パーティー当たり平均して4体のヘマタイトゴーレム、8体の
「ほう、かなり稼げると思っていたが、ずいぶんだな。ということは、一月当たり大金貨4枚ほどは払うことになりそうだな。おそらく男爵の年金が大金貨50枚だろうから、年間大金貨48枚ともなると、男爵なみか」
「マスター」
「アスカ何かあるか?」
「生徒たちも、これほどの収入があるのは『鉄のダンジョン』で四輪車を使って活動しているからだと理解していると思います」
「まあ、そうだろうな」
「卒業した場合、『鉄のダンジョン』の近くに宿舎があるわけではありませんし、四輪車も使用できません。そう考えると、ほとんどの卒業生はこの『ヤシマダンジョン』か、またはそのほかの地方、例えばキルンのダンジョンで仕事をすると思います」
確かに。いまは、最高の効率で生徒たちはモンスターを狩っているわけで、これが将来的に続くと思っている者はいまい。
あれ? それなら、一般冒険者と生徒を二期生から分けてやろうと、生徒用の区画を『鉄のダンジョン』で作っているけど、一般冒険者は心配することもなかったな。まあ、こういうことも
「ということは、そこまで高額な給料を出さなくても雇えそうだということか?」
「はい。助手といって全く危険がないわけではありませんから、その辺りを考慮して一カ月当たり大金貨1枚程度でも雇えると思います」
ダメでもともとだし、ここはペラに任せてみるか。
「どうだペラ? 大金貨1枚でリクルートできるそうなら試してみてくれ。うまくいったら、次の二期生には間に合わないが、その次の三期生から生徒を増やすことができる。無制限には雇えないが、四人程度なら雇っていいんじゃないか?」
「了解しました。その線で動きます」
「それじゃあ任せた。結果をそのうち教えてくれ」
朝食を終え、11層の探索にかかる。
俺とアスカは、目の前の一本道をそのまままっすぐ進めば12層への階段があることを知っているのだが、ペラは知らないはずだ。生徒たちが事前にヤシマダンジョンのことを調査していれば、19層まではこの親切設計であるということを知っているかもしれないが、生徒たちの動きを見た感じでは、そういった情報は得ていないようだ。いや、分岐の先に何もいないことだけを目視しただけで直進したところを見ると、親切設計のことは知っているようだ。
ただ、親切設計ではあるが、この12層からは罠が設置されているのでその対応が必要になる。一応、人工的に見えるこういった迷路型ダンジョンには罠があるということは冒険者だけでなくこの世界の常識らしいので、生徒たちは、慎重に歩みを進めている。
12層の罠は確か落とし穴だけだったはずなので、落ちてもケガはするだろうが、致命傷になるほどの深さではなかったはずだ。俺にはできないが、目の前を進む生徒たちなら床の違和感に気づくことができるはずだ。
まだ、罠には出くわしていないが、ミニマップ上、前方に赤い点が一つ現れた。
生徒たちがここでどういった対応をするのか見るため、警告はあえてしていない。まあ、十分警戒しているので、モンスターに不意を突かれるようなことはないだろう。
この階層に入ってからは、生徒たちの隊形は横に広がった第1パーティーを先頭にパーティー間の間隔を少し開けて第2、第3パーティーが横列で順にその後についている。
俺の位置ではまだ見えないが、第1パーティーが前方のモンスターを発見したようだ。
第1パーティーの四名のうち左右の
前方で、
バキッ! グチャ! といやな音がしたが、モンスターがメイスの餌食になったのだろう。
先に進んだ二人は、叩き潰したモンスターはそのままに、少し進んだところで、前方を警戒していた。
追いついた第1パーティーの二人は、床で潰れた大型の昆虫型モンスター、おそらくはG型モンスターから素早く魔石を抜き取った。
第1パーティーの次は第2パーティーが先頭、次が第3パーティーという順にこういったイベントがあるたびに最前列を交代していき、気が付けば目の前に12層への階段が見えた。その間生徒たちは落とし穴を三つ見つけて、蓋を破壊している。
「なんだか、これ以上の実習は無駄なような気がするが、ペラはどう思う?」
「訓練の総仕上げの意味合いは、とりあえず達成されたと思いますが、通常、ヤシマダンジョンで10層を越えての活動は珍しいようなので、生徒たちに
「確かに、ヤシマの十層を越えていけるところまで行けば、なにがしかの箔が付くかもしれないしな」
このまま、前進を継続することが決まった。いずれにせよ18層までは親切設計で罠に注意していけばいいだけだし、罠自体も
そういった感じで、12層、13層、14層と進んでいき、15層への階段前で昼食。
それから、15層から18層までかなり早いペースで進むことができた。途中、いつぞやの大蜘蛛も現れたが、生徒たちによって瞬殺されてしまった。あの逃げ足だけの冒険者たちは一体どうなっているんだろうとぼんやり思い出してしまった。
19層は、これまでの親切設計と違って階段下でいきなり分岐なのだが、ここでも生徒たちは事前に情報を得ていたようで迷わず正解の左の通路を進んでいった。途中の罠も難なく回避していくさまは俺など足元にも及ばないまさにベテラン冒険者。
そして、ついに20層への階段が目の前に現れた。
20層は、ボス部屋でボスは確か『オーガ・ロード』だ。
「みんなおそらく知っているのだろうが、次の20層はボス部屋で『オーガ・ロード』がいる。『オーガ・ロード』を
「はい!」
全く生徒たちの気力も体力も衰えていないようだ。この分ならスタミナポーションを飲む必要はなさそうだ。
生徒たちが階段を下りていくのについて俺たちも階段を下りていく。
[あとがき]
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2020年12月8日。12月8日なので
短編SF『我、奇襲ニ成功セリ』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894691547 よろしくお願いします。
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