第348話 実習旅行3、10層ボス戦


 階段を下りる12名の生徒たちの靴音が一つに重なって響く。


 ザッザッザッザッ、……。


 10層への階段を降りると、当たり前だが前回と同じく体育館ほどの広さの石造りのボス部屋に出た。前回出てきたモンスターはゴブリンロード1匹と10匹ほどの手下のゴブリンたちだったと思う。そいつらをたおして出てきた宝箱の中身は、『ゴブリンのふんどし』。なんだかそれなりの特性があったから、どこかで売れば売れたかもしれない代物しろものだったはずだ。


 収納の中を見てみると、あのときのまま、まだあった。


『ゴブリンのふんどし』

ダンジョンの大蜘蛛おおぐもの糸で編まれた布を使用した豪華ごうかなふんどし。

こげ茶色。

形状:使用者に合わせサイズが変わる。 

速さ+2 巧みさ+2

特殊:臭いに対する耐性が上がる。身も心もといいたいが心だけゴブリンになった気がする。


 女子たちに履かせるわけにはいかないだろうが物好きな男子ならこれをめる者もいるか? さすがにそれはないか。しかし未使用だから、色に少々難はあるがそのままマフラーにでもするという手もあるか。女子から送られていい気になって首に巻いた後、出自を知ったら悲鳴が上がりそうだ。



 ボス部屋への多数の侵入者に、ゴブリンロードがえた。咆え声で威嚇いかくして相手をひるませようというつもりなのだろうが、そんなものでひるむ生徒はいなかった。ただ、部屋の中は臭い。この異臭いしゅうの方がえ声などよりよほど脅威きょういだ。


 ゴブリンロードの周りには子分のゴブリンがやはり10匹。剣や槍で武装しており、二匹ほど弓矢で武装している者もいた。この連中は腰布くらいしか身につけていないところがちぐはぐではある。


 まず、弓を持った二匹のゴブリンが矢を生徒たちに射かける。山なりの二本の矢が明後日あさっての方向に飛んでいった。弓矢は真面目に訓練しないと使い物にならないというのは本当だったようだ。


 生徒たちは、矢を射かけられて素早く散開したまでは良いが、そのまま喚声かんせいを上げながらメイスを手にゴブリンの群れに突撃してしまった。


 これではメチャクチャだ!


 と思ったのは俺だけだったようで、次の矢が放たれることもなく、10匹のゴブリンたちは生徒たちの喚声にすくんでしまったのか何もできずにメイスの打撃を受けて床に転がってしまいそのまま動かなくなってしまった。革の鎧を着込んだゴブリンロードも剣を振り上げたところを横合いと後方からメイスをたたきつけられて、前のめりに倒れこんだところを、滅多打ちにされてしまった。ゴブリンロードが最期に片手をわずかに上げたところがちらりと見えたが、その手も無残にたたき潰されたようだ。


 うわー。


 生徒たちの成長はすでに十分把握はあくできていたが、その容赦ようしゃなさには脱帽だ。俺なんかのようなナンチャッテ冒険者と違い、この連中は本物の冒険者だ。


 生徒たちは、ゴブリンロードの着ていた革鎧の留め具をナイフで切り離して各部分を回収し、ゴブリンロードの持っていたやや立派な剣と子分のゴブリンが持っていた剣、それと根元で折って穂先だけにした槍をまとめて布でくるんで回収した。弓は使い物になりそうもないので放置している。


 物品を回収したあとは、ナイフでゴブリンの胸を切り裂いて魔石を回収し、討伐報酬の右耳も全部切り取り終えて、またたく間にお金になりそうな物は全て回収してしまった。



 生徒たちの一連の作業を見届けたペラが、


「宝箱が出てるぞ! 訓練通り処理してみろ」


 ゴブリンロードが最初に立っていたところには宝箱、その先には11層への階段が現れている。


 宝箱の訓練をペラが生徒たちに対してどう行ったのかは分からないが、一人の女子生徒が宝箱に近づいていった。他の生徒たちは、宝箱から距離を取っている。罠があれば開錠作業は周囲も危険にさらすので、たった一人で開錠に挑むのだろう。


 彼女はまずメイスを使って宝箱をひっくり返し、その後、宝箱の横に少し離れて立ち、メイスの根元ぎりぎりの先端を持ち思いっきり宝箱の鍵の部分にたたきつけた。


 メイスを何回かたたきつけたところで、その部分がひずんんで鍵は壊れてしまったようだ。


 そして、もう一度メイスを使って宝箱をひっくり返したら、中から勝手に中身がこぼれ出てきた。


 罠があろうがなかろうが、宝箱は壊してしまえばいいじゃないかの発想だったようだ。毒針や飛び出す刃物、電撃くらいなら対処できそうだ。俺がかかってしまったテレポーターも罠から1メーターも離れていれば作動しなかったかもしれない。


 


 俺が最初にここに来た時は、罠がないことはミニマップで分かっていたから何も考えずに宝箱を開けたのだが、生徒たちは大したものである。


 中から出てきた布の塊を見て、その女子生徒は首を傾けていたが、全員の戦利品にはちがいないので、みんなの元に戻ってそれを見せ、最後にその布をペラに渡した。一つしかないため、ペラが預かっておくのだろう。と思っていたのだが、


「われわれの最初に見つけた宝箱からの戦利品です。ペラ教官、受け取ってください。最初の宝箱から見つけたアイテムは、教官にお渡ししようと前々からみんなで決めていました」


「ありがとう」


 そう言ってペラは渡された布を受け取り、改めて他の生徒たちに向かい、


「ありがとう、みんな」


 ペラがみんなに礼をいったところ、みんながすごくうれしそうな顔をして笑っていた。


 すごーく、うらやましいぞ。


 そのアイテムが『ゴブリンのフンドシ』であると知っているのは俺とアスカしかいないのでそこは黙っていよう。



 10層のボス部屋の真ん中あたりは、先ほどの戦闘というか金目の物の回収作業で凄惨せいさんな状況だし、臭いもひどいので、ここでの朝食はあきらめ、11層まで下りて食事にすることにした。


 11層からは石組みの迷路層でもあるし罠もある。


 当初の予定では、10層のボスをたおしたら引き返そうと計画していたのだが、生徒たちの予想を大きく上回る成長ぶりに、予定を変更しもう少し下に潜ることを今回の実習旅行前には決めていた。


 階段を下りきって少し広くなった通路の脇で、朝食をとりながら休憩をすることにした。生徒たちは荷物を前に置き、メイスをいつでも手にできるよう床に置いて、通路の石の壁に寄りかかって干し肉に乾燥果物や木の実を食べ、革製の水筒に入った水を飲んでいた。


 俺たちも生徒たちを真似まねて、干し肉と乾燥果物と水で朝食を済ませたのだが、俺は塩辛い干し肉は食べたくないので、ちゃんとタレで味付けされた、ゴーメイさん謹製きんせいのドラゴンバラ肉ジャーキーを三人で食べた。うまい!



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