第347話 実習旅行2


 1層から5層まで、一般の冒険者が進む流れに沿って、生徒たちを引率いんそつしていく。もちろん、一度ヤシマダンジョンに潜ったことのあるアスカは通った全ての通路を記憶しているので、道を行く冒険者がいようがいまいが同じことではある。


 5層に到達したところで、だいぶ冒険者の数が少なくなってきた。ここまで、前回同様、モンスターには遭遇していない。


 5層は、フィールド型ダンジョンなので、すこし移動するだけで、他の冒険者を気にすることなく、休憩することができる。6層へ続く階段まで、結構あるし、時間も時間なので、昼食をとることにした。


 前回このあたりに来た時は、全くといっていいほどミニマップ上にモンスターが現れなかったが、今日はちらほらモンスターの赤い点が見える。昼食を終えて、6層に下りる階段に向かっていけば、遭遇しそうだ。どういったモンスターかは分からないが、期待していよう。


 生徒たちは、パーティーごとに車座になって食事をするのかと思っていたら、四人が背中合わせになって、四方向よんほうこうを警戒しながら食事を始めた。冒険者はここまでするのか。俺などがどうこう言えるレベルではないな。なんとなく、自分のAランクが恥ずかしくなってきた。


 生徒たちの食べているのは、今朝けさ学校の厨房で用意した昼食用のサンドイッチだ。半日程度では傷まないが、長持ちはしないので最初に消費するわけだ。


 俺とアスカは、みんなとは少し離れたところで、適当に串焼きを食べて水を飲んで昼食にした。


 休憩しているあいだ、ペラを呼んで下り階段の方向と、この先おそらくモンスターに遭遇することを教えておいた。



 昼食後の休憩を終えた生徒たちが立ち上がり、今度は大まかに下り階段の方向に向かって生徒たちが歩いて行った。俺とアスカ、それにペラは生徒たちの後ろをやや離れてついていく。


 生徒の立場からいうと面倒なのだが、ちょうど他の冒険者も辺りには見えないので、その後についていくことはできない。自力で下り階段を見つける必要がある。


 ダンジョンの地面にはところどころ腰くらいの高さまで草が茂り、灌木も生えている。そのため、大型のモンスターなら遠くからでも簡単に視認できるが、小型のものやヘビ型のようなものは視認しづらい。もちろん、まだ5層なので大型のモンスターはおそらくいないだろう。


 俺にはミニマップがあるので、そういったことは、気にもしていなかったが、生徒たちが武器を構え、周囲を警戒しながら進むところを見ると感心してしまう。


 ミニマップには前方50メートルほどにモンスターと思える赤い点が三点。草むらの中だ。位置的に風下にいるモンスターたちは、どうもこちらをすでに見つけて待ち伏せしているようだ。


 距離にして、20メートル。赤い点が急に移動し始めた。こちらに向かってくるのではなく、一目散に逃げだしていったようだ。前を見ると、草むらに潜んでいたゴブリンが立ち上がって走って逃げている。うちの生徒たち12名に対したった三匹では分が悪いと悟ったようだ。


 このゴブリンに対して、生徒たちは地面に転がった石を投げ始め、瞬く間に、三匹のゴブリンを仕留めてしまった。投擲訓練がこんなところで役だったようだ。


 ゆっくり警戒しながら、たおしたゴブリンに接近し、まだ息のあったゴブリンにとどめのメイスの一撃を与えていた。例のごとく、ひどい異臭がするのだが、生徒たちは平気のようで、黙って死んだゴブリンの胸にナイフを突き刺して、大きくえぐり、中から小さな魔石を器用に抜き取った。討伐報酬の右耳をぎとったゴブリンの死体は放置である。ゴブリンたちは各々粗末なナイフのようなものを持っていたので、それも生徒たちは回収したようだ。


 ちょうど三匹だったので、魔石と右耳は3パーティーで三本のナイフともども分けたようだ。


 すぐに生徒たちは前進を再開。周囲の灌木を目印にして、大まかに進行方向を修正しながら進んでいる。確かに6層に続く階段方向だ。


 次に出会ったモンスターも三匹のゴブリンのだったが、今回は生徒たちの方が先にゴブリンを見つけたようで、音もたてずに散開した生徒たちが、ゴブリンを囲み、その後一気に接近して一瞬でカタを付けてしまった。戦闘面ではこの階層の敵では無意味のようだが、周囲を警戒しながら進んでいくことである程度の訓練にはなるだろう。なるよね?


「さあ?」


 アスカさんでも分からなかったようです。


 この階層は階段までもういくらもないので、このまま生徒たちに前を歩かせ、次の階層からまた俺とアスカが先導して、なるべく早く下の階層を目指すことにした。



 6層から9層までそうやって下りて行き、今は10層への階段前だ。階段を使う冒険者がいるかも知れないので、階段前からやや離れたところで、初日のキャンプをすることにした。


 見ていると、各パーティーが、『かまど』になるようそこらに転がっていた石を丸く並べ、持参した固形燃料のようなものをその中に置いて点火用の魔道具で火を点け、その上に木でできたの付いた鍋を置いて水筒から水を入れ、お湯を沸かし始めた。ここまでくると俺の全く知らない世界だ。この水筒はパーティーの料理用のもので、よほどのことがなければここから水を飲むことはないのだそうだ。


 湧いたお湯を各人が持参した大き目のマグカップに入れている。マグカップの中には乾燥野菜と、乾燥肉が入っているようだ。そのスープのようなものをスプーンですくいながら、硬そうな丸パンをかじっている。これこそ冒険者だな。ドラゴンレバージャーキーは、非常食のようなものなので、みんなすぐに食べず大事にとっているようだ。


 生徒たちが簡単な食事で済ませている脇で、俺たちだけがちゃんとした夕食をとるわけにもいかないので、夕食はペラと三人で、俺の収納の中にあったパンとソーセージで簡単に済ませた。


 夕食を簡単に済ませた生徒たちは、各パーティー一名を残し地面に毛布を敷いて横になって寝てしまった。残った三名は立ち上がって三角形を作るように広がって周囲を警戒し始めた。


 ミニマップを確認すると、かなり遠くに赤い点が見えたが、ここまでやってきそうではないので、アスカとペラには悪いが、俺も生徒たちを見習って毛布を敷いてその上に横になって寝ることにした。


 夜中目をさますと、ちゃんと見張りの生徒は交代しているようだ。


 ダンジョン内なので、朝などないため、だいたい6時間程度で起床となった。その間、2時間交代で2度見張りが交代している。もちろん俺は寝ていたので、これはアスカ情報だ。


 ペラなら正確な時間できっちりに生徒を起こすことができるのだろうが、ペラが生徒たちに時間を告げたわけではないらしい。生徒たちが自分で時間を計ったようだ。



 目の前の階段を下りた先の10層はボス部屋だ。


 ボスのリポップには6時間程度かかったと記憶しているので、各チームで挑戦するのではなく、全員でボスに挑戦することにした。朝食はボスをたおしてからとることになった。


 生徒たちは荷物をまとめて、軽く柔軟体操をした後、10層への階段を下って行った。





[あとがき]

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https://kakuyomu.jp/works/1177354054896322020  未読の方はぜひ。フーの元の話になります。

(他の完結作品は、「この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称・国名等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません」が必要な物しかなく、おとなしい作品がこれしかありませんでした)

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