第346話 実習旅行1


 冒険者学校の第一期生の生徒たちの教育期間も余すところあと一週間ほどとなった。冒険者ギルドには、第二期生定員20名の募集を依頼している。すでに応募者は定員を上回っているそうだ。これから卒業する一期生たちの活躍と目をみはる実力の向上を知ることになる第三期生は、相当な狭き門になりそうだ。


 生徒たちの最後の仕上げということで、ヤシマダンジョンへの三泊四日の遠征実習を行うことにしている。セントラル南駅から、展望車で貨物列車の合間を縫ってヤシマまで移動するということで、貨物輸送を運営している商業ギルドの了解はすでに得ている。


 生徒たちはダンジョン内で三泊するのは初めてのようで、出発の前日は、訓練はお休みにして、冒険者ギルドに幌馬車を二台出してもらい、王都にダンジョンで必要な資材の買い付けに向かった。引率は元冒険者で、いまはギルドの職員をしている人にお願いしている。生徒たちのふところは今では十分温かいため余裕でダンジョンでの野営用具を一式と三泊分の消耗品を揃えたようだ。


 今回の遠征では、冒険者学校から各人に、PAポーションを4本、スタミナポーション4本、ヒールポーションとキュアポイズンポーションを各2本を支給している。ポーションは割れないよう布の仕切りが付いた各自の腰袋の中だ。さらに屋敷の厨房でゴーメイさんが作ったドラゴンレバージャーキーをお試しで一人当たり200グラム程度持たせている。



 遠征当日、生徒たちは朝食をかなり早く済ませて、荷物を入れたリュックを背負い、ペラの引率いんそつの元、冒険者学校からセントラル南駅まで徒歩で向かい、そこで俺たちと合流する手はずだ。


 荷物を背負っての移動なので、それなりに時間はかかり普通なら消耗するのだろうが、やってきた生徒たちは、全く疲れを見せる様子もなく、整然とペラの後を歩いてやってきた。


 駅舎の先で東に向って伸びる線路の上に機関車と展望車を乗せ、


「みんな、それじゃあ乗ってくれ」


 それを受けたペラが生徒たちに、


「順序良く搭乗するように」


「はい!」


 どこまでも軍隊だった。


 生徒たちは、持参したリュックを床の上に置きパーティーごとに固まって座っている。展望車の先頭の特別席には遠慮してか誰も座っていないので、俺とペラとで座ることにした。生徒たちも、この遠征が終われば卒業なので、男女とも仲良くして景色を楽しめばいいのにと思ったが、生徒たちの顔つきを見るとそういった浮ついた顔をしたものは一人もいなかった。どこかの映画で見た、降下を待つ落下傘部隊パラトルーパーのようだ。


 カンカンカーン。


 機関車の運転席にいるアスカの鐘の合図で列車が走り出す。これまで、緊張気味の真剣な顔をしていた生徒たちも、馬車とは違う、にゅるりとした加速に驚いたようで、きょろきょろと窓の外を流れる景色に注意を向け始めた。


「これが、機関車というものか」


「すごい。どんどん速くなる」


「これも、コダマ子爵とアスカ子爵が作ったんだろ?」


「バカ、コダマ子爵は今度また偉くなって伯爵閣下になったんだ。コダマ子爵なんて言ってたら怒られるぞ!」


「そうなんだ。でも、冒険者学校に入れて、ほんとに俺たち運が良かったな」


「ほんとそう。最初は半信半疑で応募したんだけれど、本当にラッキーだったわ。これから向かうダンジョンで私たちがどれくらい成長したか確かめられるね!」


 おそらく、君たちならヤシマダンジョンの10層くらいの浅いところで出くわすモンスターくらい、どれも楽勝だと思うよ。


「訓練は最初大変だったけれど、だんだん慣れてきたみたいで最近そんなに疲れないもの」


「食事もおいしいし、このままずーと学校にいたい」


「わたしも」


「それならわたしも」




 なにはともあれ、みんなの話を聞くに、冒険者学校はこれまでのところ大成功だったようだ。


 しかし、さっきの子が言っていたように、冒険者学校にまだいたいとまで言ってくれるとなんだかうれしいぞ。


 景色を眺めつつ、そんな生徒たちの話し声を聞きながら小一時間、途中建設中の二つの旅客駅を通過して、終点のヤシマに列車は到着した。


 カンカンカーン。


 列車が駅の少し手前で停止したところで、ペラが生徒たちに向かい、


「全員降車準備!」


「はい!」


 ペラの号令で、全員が床におろしていたリュックを持ち上げた。


 背負ってしまうと出入り口につっかえるので、乗車時にもリュックは手で持っている。


「全員降車!」


「はい!」


 きびきびと、生徒たちが展望車から外に出ていった。


 俺たちも降車して、そのまま機関車、展望車は収納しておいた。


「アスカ、ご苦労さん」


「マスター、ペラはまだヤシマダンジョンに入ったことはありませんから、われわれが先導しなくてはいけません」


 それはそうだ。


 そういうことなので、俺とアスカが先頭に立って、生徒たちを引率していく。ペラは生徒たちの一番後ろについている。


 駅舎を過ぎて通りを歩いていくと、素材を積んだ荷馬車が何台も駅舎に向かっている。駅舎からは空の荷馬車がわれわれの進む方向に進んでいる。冒険者ギルドの出張所の裏手の積み込み所がある方向だ。進んでいくと人の往来も多くなり、小さな店や食べ物の屋台が並び始めた。生徒たちが買い忘れたものがあるかもしれないが、俺の収納の中にはたいていの物が入っているので、何とかなるだろう。


 そして、やっと目の前におなじみの黒い渦が見え始めた。渦の中に入って行く人、出てくる人、ひっきりなしだ。言い方を代えれば、ダンジョンに侵入する際、武器を構えることも、周囲の警戒も一応不要と思っていい。


 そう思っていたのだが、前を向いていた俺にも分かるような背後の気配が変化した。振り返ると黒い渦を目の前にして、生徒たちが一斉に、腰から下げていたメイスを構えている。ちょっとやりすぎだと思うが、何かあってからでは遅いので、これも教育の成果と思えば成果だ。その代り、周りの冒険者たちが目をむいた。生徒たちは、今日は冒険者なので、Gランクの木札を革の紐で首から下げている。従って全くの新人冒険者であることがはたから見て分かるのだが、雰囲気はそんな駆け出しとはかけ離れたものがあり、うかつに近づけないような迫力とスゴみを放っている。


 俺なんかは、冒険者ギルドに入って行っただけでチンピラ冒険者にからまれたのだが天と地ほどの差があるようだ。




[あとがき]

試しに、カクヨムコン6に完結作(30万字)を応募しました。(他の完結作品は、「この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称・国名等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません」が必要な物しかなく、おとなしい作品がこれしかありませんでした)

『闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054896322020  未読の方はぜひ。

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